第47話 一年生 秋
法螺貝が吹き鳴らされ、模擬合戦が始まった。
上男側は基本に忠実に、一騎の甲冑に対して、歩兵が五人、具足歩兵二人を一小隊として編成。特騎以外の小隊が前に出て壁となる。
各小隊の陣形は、歩兵が最前面に立ち、具足歩兵が中段、後方が甲冑となっている。
対する上女は歩兵すべてが最前面に立ち、中段に具足歩兵、後段に甲冑が並び、そのさらに後ろに特騎三騎が待機。最後方に大将騎と、補佐の具足歩兵が立つという陣形だ。
両軍共に、最前列の歩兵は刻印が施された、衝立付きの木戸――大盾を並べている。歩兵二人でこれを運び、簡易陣地とするのだ。
『――歩兵隊、具足隊、相対三〇まで前進!』
加賀鈴乃の指示により、歩兵隊と具足隊が大盾を構えながら歩を進める。
上男の前衛小隊らも同様に進み始めた。
『魔術隊、撃ち方用意!」
歩兵隊、具足隊の両隊に配置された、魔術が得意な生徒がスマホを取り出して構える。
上男も同様に、魔術の用意を始める。
各々のスマホから流れるフレーズが、和音となって重なり、周囲に響き渡る。
『具足魔法隊、結界用意!」
具足を着けた魔法使いが、各々単音の唄を奏でて、ハーモニーを作った。
歩兵の前面に結界が張られる。それを確認して、鈴乃は右手を振り下ろした。
『――魔術隊、放て!』
その声を合図に、「喚起」の声が響き、様々な属精が上男側に向けて、矢となって放たれた。
上男側からも属精の矢が次々と放たれる。
互いに結界で守られている為、魔術の打ち合いは足止めにしかならない。
だが、合戦はこれが基本だ。
まずは魔術の撃ち合いで相手を足止めし、次の一手に繋げる。
『弓隊、構え!』
鈴乃の指示に従って、歩兵、具足隊に配置された弓が得意な生徒達が構えを始める。
上男生徒も同様に弓の用意を始めているのを加賀は見た。
通常通りなら、ここで放ち合う矢も結界に阻まれ、睨み合った両者は徐々に距離を詰めて前線からぶつかり合う事になる。
「……そうね。ここまでは基本通りだものね。
でもね、ウチにはとっておきが居るのよ!」
鈴乃は呟き、再びインカムを入れて指示を出す。
『――隠桐さん、頼むわよ! 放て!』
『はいは~い』
なんとも気の抜ける、のんびりした声で、具足歩兵の中央に配した絹が構えた弓から矢を放つ。
その返事の声音に反して、放たれた矢は轟音を立てて水蒸気の輪を作り、それさえも貫いてさらに突き進み、上男側が張った結界すら打ち砕いて、中央にいた小隊を大盾含めてまるごと吹き飛ばした。
甲冑でさえもが尻もちをついている。
判定員が白旗を振って、その小隊の全滅を告げる。
「さすが隠桐さん。相変わらず、頭おかしい弓の威力ね。なんなのかしらね、アレ……」
こめかみから汗が流れるのを感じながら、鈴乃は呟いた。
「<型>だって本人は言ってましたよ。
GWに穂月家で指導を受けて精霊伝導率が上がり、夏休みに実家で鍛錬して、さらに威力が上がったって、本人、喜んでました」
横に控えた具足歩兵――指揮補佐にして生徒会副会長の雨崎和香が説明する。彼女は絹と同じクラスなのだ。
「……ホントっ、帰宅部はっ!」
鈴乃は思わず苦笑してしまう。
(――部隊長を筆頭に頭おかしいのしか居ないじゃない)
もちろん、最大級の賛辞だ。
鈴乃はそれからすぐに気を取り直し、
『――弓隊、魔術隊、放て!』
待機させていた弓隊に指示を出す。
結界を失った上男生徒達の頭上に、物理と魔術、二種類の矢が雨のように降り注ぐ。命中した者達に対して、判定員達が次々と旗を振っていった。
業を煮やした上男側は、大盾を持って前進の構えを見せる。
『具足近接隊、歩兵隊の前へ。近接戦用意! 魔術、魔法隊は甲冑隊位置まで後退。
――甲冑隊は魔法隊後退後、前進!』
矢継ぎ早に指示を出し、鈴乃は陣形の入れ替えを行う。
上男側の歩兵隊が上女側の結界にぶつかり、それを壊そうとし始める。
上女の具足がそれぞれ得意の獲物を構えて待ち構えた。
『歩兵隊、近接戦用意! さあ、合戦よ! 気合入れて行くわよ!』
結界が破られた。
雪崩込んでくる敵に対して、上女生徒は真っ向から迎え打つ。
遠距離戦を制した事により、数の上では上女側が有利。
歩兵、具足歩兵が入り乱れて乱戦となり、無数の事象干渉領域がぶつかりあって、接触面が紫電を放つ。
『魔術隊、目標、敵甲冑。放て!」
後退を完了した魔術隊が甲冑目掛けて魔術を放つ。
討伐判定を示す、赤と白の旗が乱立し、会場から退場していく生徒が続出する。
『魔法隊、甲冑隊前面に結界用意!』
指示に従い、再度、大型結界が張られる。
『歩兵隊、結界内まで後退! 完了後、具足隊も順次後退を開始して!
――甲冑隊、前進!』
生き残った歩兵が結界に向けて走り出し、それを庇って具足隊が奮戦する。
六騎の<若葉○式>が駆け出し、上男の<武士九十九式>とぶつかりあった。
防人や自衛隊の一部でも制式採用されている<武士九十九式>に比べ、<若葉〇式>はあくまで練習機である。
まともにぶつかったら、性能的に<若葉〇式>が不利なのだが、
『――隠桐さん、中央に向けて、放て!』
『は~いっ!』
甲冑さえ転倒させる絹の一撃が、二種の甲冑の性能差を埋めて拮抗させていた。
乱戦になった戦場の中央部分が、空洞のようにぽっかりと空く。
『よしっ! 詰みに行くわよ!
――穂月さん、強化開始!』
『はいっ!』
途端、甲冑がぶつかり合って轟音響く合戦場に、涼やかな鈴の音が響き渡る。
<舞姫>を中心に、事象干渉領域が拡がり、<剣姫>と<疾風>を包み込む。
それを確認して、鈴乃は右手を振り下ろした。
『――特騎、突撃!』
それを合図に、三騎の特騎が戦場中央の空白地帯目掛けて、風を巻いて駆け出した。
「……頼むわよ。三人とも。
和香さん、私は三人の管制に専念します。指揮をよろしく!」
特騎同士が対峙する舞台は整えた。
あとは個人の武次第だ。
それでも少しでも三人の勝率を上げる為に、鈴乃はインカムを引き寄せ、戦場を突き抜けて行く三騎の背中を見つめた。
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