第46話 一年生 秋
両校の生徒達は、上男のグラウンドに集められていた。
文化祭二日目の今日は、ここで来客の父兄達に、生徒達の武を披露する催しを行うのだ。
――上男対上女の選抜生徒による模擬合戦。
両校それぞれ、歩兵五十名、具足着用者二十名、甲冑着用者十名を選抜して行われるそれは、毎年文化祭最大の出し物となっている。
選抜者のほとんどが二、三年生なのだが、紗江もまた、選抜されて出場させられている。唯一の一年枠だ。
「……本当に良いのかなぁ」
指定された待機所に<舞姫>を立たせ、その狭い鞍上の中で、紗江は呟く。
先日、生徒会長の加賀先輩に頼み込まれ、押し切られる形で承諾させられたのだ。
年に一度の両校の威信をかけた催しだ。一年にして甲冑免許を持ち、特騎まで持っている紗江を生徒会が放っておくはずがなかった。
『私も去年は一年なのに選ばれましたよ。一年で唯一の甲冑――特騎持ちでしたので』
インカムから流れる環の声。
首を巡らせば、<舞姫>のすぐ横に黒色の甲冑が大太刀を背負って立っている。
<剣姫>だ。
姉妹機というだけあって、<舞姫>とよく似た形状をしている。
違うのは、額甲から伸びる角の位置が、<舞姫>が額から前へなのに対して、<剣姫>は側頭部から後ろに向けてという点と、肩楯と佩楯が<舞姫>に対して小振りな点。放熱器のたてがみが、ベースとなった<天女一〇式>の淡い黄色をしているという点くらいだろうか。
『――私と隠桐も去年選ばれたぞ。まあ去年の私は具足で、隠桐は歩兵としてだったがな』
と、咲良も会話に混じってくる。
後ろを振り返ると、そこには紫紺をベースに赤い縁取りをした甲冑の姿。
真っ白なたてがみと額から伸びた一本角が印象的な、その甲冑の名は<疾風>。
守陵家伝来の甲冑が近代改修されたその姿は、佩楯こそ佩いているものの、肩部を含めて装甲が極限まで省かれていた。
夏に紗江が甲冑免許取得試験を受けると聞き、咲良もまた夏休みの間に免許取得したのだ。
『ウチの部隊員は、本当に優秀な子が多くて、私は鼻が高いよ。
――しかも二人も特騎持ちと来ている』
と、<若葉〇式>がやってきて、天恵が言う。
「あれ? 天恵先輩も帯刀家伝来特騎があるんじゃ」
紗江が首を捻ると、天恵の<若葉〇式>は肩を竦めた。器用だ。
『お父様が急ぎで近代改修してくれてるようだけれど、卒業まで間に合いそうにないんだ。私が特騎を着るのは、防人大からになるかな』
あの事件がきっかけで、天恵はよく父と連絡を取るようになったのだという。そして最近、進学することを了承してもらったのだと喜んでいた。
順調に関係改善しているようで、なによりだと紗江は思う。
『――大将加賀から各員へ。傾注!』
と、参加者全員のインカムに、加賀先輩の声が流れる。
『まもなく開始よ。改めて流れを確認します』
大将旗を背負った<若葉〇式>の肩に乗って、加賀先輩が長髪を風になびかせながら告げた。
合戦会場となる上男のグラウンドに、歩兵から順に入場していく。
グラウンドの周囲には柵が設置され、観客達がひしめき合っていた。
紗江は首を巡らして、観客の中に親友達と祖母、そして祖母に抱えられた結愛を見つけて、手を振ってみせた。みんなが嬉しそうに手を振り返してくれる中、舞の表情は若干、憂いを含んだもので。
「……舞ちゃん、まだ昨日の事、引きずってるのかなぁ」
昨日、あれから舞を励ます為に一緒に食べ歩きして、みんなと合流する頃には、なんとか笑顔を浮かべてくれていたのに。
――強くなりたい。
舞の呟きがいやに耳に残っている。
それは紗江自身が思った事だ。
友人の助けになりたいのに、誰かが流す涙を少しでも減らしたいのに。
元服を迎えたとはいえ、社会的には紗江はまだ子供扱いで。
思想とか政治とか、そういう形のないモノを相手にした時、あまりにも無力だと感じる。
「――天恵先輩の時だって、おばあちゃんがいなければ、あんなうまく行かなかっただろうし……」
自分の無力さに肩を落とす紗江に、インカムからコール音。
『――穂月さん? 最終確認よ』
「あ、加賀先輩。はい。どうぞ」
気持ちを切り替えて、紗江は背後を振り返って、加賀騎を見る。
『甲冑突撃になったら、あなたは<剣姫>、<疾風>の両騎に随伴して強化を実行。
――できるのね?』
「全員をと言われたら無理ですけど、二騎だけなら行けます」
『作戦の要はあなた。頼むわよ?
次に注意する敵騎。あの<武士九十九式>の中央にいる、緑の甲冑と赤の甲冑、わかる?』
加賀騎が指差す先に、示された通りの色の甲冑が立っていた。緑のが大太刀で、赤いのが鉄杖を持っている。
「あれ、特騎ですか?」
『そう。こっちが特騎三体と聞いて、向こうも合わせてきたみたいね。
大将騎の白いのと一騎は、環さんと守陵さんに相手してもらうから、穂月さんは気にしなくていいけど、どうしても一騎は流れていくと思う。
あっちの特騎は全員三年だけど、大丈夫?』
「対人戦はこないだ経験しました。特騎相手とはいえ、一対一にしてもらえるなら、なんとかいけると思います」
『そっちは任せて。そうできるよう舞台を整えるのが私の仕事よ。じゃあ、頼んだわね』
と、そう言い残して、加賀先輩からの伝話が切れる。
やがて判定員の代表である両校の校長が中央に進み出て、ルール説明を始めた。
会場には結界が張られている為、魔術、魔法の使用は自由。
ただし、致命傷を与えるような攻撃はできないよう、結界で抑制されているとの事。
武器は刃引きされたものを使い、基本的には寸止めするよう指示があった。
弓矢に関しても、矢尻を外したものを使うように指示され、殺傷力が押さえられている。これなら歩兵であっても、その装束で受ける事によって、致命傷にはならないのだ。
討伐判定は、グラウンドのあちこちに散らばった判定員達が行う。
勝敗とは別に討伐数の多かった生徒は表彰されるので、判定はかなり厳密に行われるそうだ。
最終的な勝敗は、大将旗を挿した甲冑の戦闘不能によって決まる。これは古式の合戦に則った作法のひとつなのだという。
校長達の説明が終わり、合戦場の外に出ると、いよいよ開始の合図待ちだ。
法螺貝の音で奏でられるそれを、紗江は唇を舐めて待った。
次回は甲冑入り乱れての集団戦闘。
今回は短めですが、ちょっと長くなりそうだったので、キリの良いここで切りました。
姉妹作
「唄う神器とあたしの魔道」
https://ncode.syosetu.com/n1697hk/
も、投稿しております。
若干、本作とも設定を共有しておりますので、ご興味のある方は、ぜひご一読ください。




