表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/67

第45話 一年生 秋

 その後、紗江達は環の二年百合組の模擬店でクッキーの小袋を人数分買い、絹の二年桜組で絹が結ったのだという髪留め用の組紐を買った。


 どちらも店番で忙しいのか、あまり長く話せず、環も絹も残念そうな表情を浮かべていた。


 そしていよいよ、本日のメインイベント、二年睡蓮組の洋装女中喫茶である。


 咲良に歓待してもらえるという事もあって、ブースには、行列だけでなく、中を覗く黒山の人だかりまでできていて、紗江達はしばらく並ぶ事になった。


 十分ほど待って、入り口近くまで行くと、『時間制限最大十五分』の張り紙。席が足りずに滞在時間制限を行っているらしい。


「――おかえりなさいませ! お嬢様方!」


 中に入ると、途端、洋装女中(メイド)姿で二年睡蓮組の先輩達が、そう挨拶してくる。


 (たまき)に呼ばれて、だいぶ慣れてきた紗江と、実家に女中のいる紅葉と舞は、お嬢様と呼ばれても平然としていたが、呼ばれ慣れてない蘭と茉莉は照れ笑いを浮かべて顔を見合わせる。


 六人がけテーブルに案内されて、各々、飲み物とケーキセットを注文する。


 注文を持ってきた洋装女中に咲良の事を尋ねると、彼女は律儀に咲良を呼び出してくれた。


「――おまえ達! 来てくれてたのか」


 果たして、洋装女中姿の咲良がそこにはあった。


 顔を真っ赤にしてのぼせ上がる紅葉を慌てて蘭が支え、それを尻目に紗江は写メを連射だ。


 さすがメディア慣れしている咲良は、紗江の撮影に合わせてポーズまで取ってくれた。


 ――宝物にしよう。


 心に誓う紗江。


 そうこうしてる間にも、咲良はまた別の女中に呼ばれ、


「忙しくてあまり相手をしてやれなくて、すまない。時間の許す限り、ゆっくりしていってくれ」


 そう言って去っていった。


「さ、紗江さん、しゃ、写真は……」


「バッチリだぜ、紅葉ちゃん。あとで送るね」


 親指を立ててうなずき合う紗江と紅葉。そんな二人を見つめる友人達はドン引きだ。


「――あら、衣笠(きぬがさ)様。いらしてたのですね」

 と、そんな時、舞が女中のひとりに声をかけられる。


「あ、月輪(つきのわ)先輩。こんにちわ」


 舞は座ったままお辞儀して、月輪を見た。


「――舞ちゃん、誰?」


「私の部隊の月輪先輩です。魔道について、いろいろ教えて頂いてて」


 紗江の問いに、舞はそう紹介する。


「月輪未央(みお)です。帰宅部のみなさん、どうぞよろしくお願いいたします」


 スカートの裾をつまんで優雅に腰を落としてみせる未央。


 帰宅部の面々も各々に自己紹介して行き、


「ユメはねぇ、穂月結愛って言います。よろしくおねがいします」


 ユメがにっこり笑って握手を求めるように手を差し出す。


 途端、未央がまるで攻撃を避けるような鋭い動作で、腰を落として半歩後ずさった。


「? 未央お姉ちゃん?」


 突然の事に、結愛もみんなも小首を傾げる。


「……っ、失礼致しました。ちょっと立ちくらみがしたもので」


 こめかみを押さえて未央は言う。


「大丈夫ですか? 忙しそうですもんね。ちょっと休憩した方がいいんじゃ」


 紗江がそう言うと、未央はうなずいて、


「そうですね。そうさせて頂きます。それではみなさん、ごゆっくりどうぞ」

 と、お辞儀して近場の女中先輩に声をかけ、ブースを出ていった。


 談笑しながらケーキをつつき、制限時間は瞬く間に過ぎ去っていった。





 二年睡蓮組の洋装女中喫茶を出た後、紗江は舞とふたりで、彼女が所属する文芸部に向かっていた。


 他の面々はもういちど、ゲームコーナーを回るのだと意気込んでいて、すでに勝てないと悟りきっていた紗江は、舞に付き合う事にした。


「元々舞ちゃんはふたりで回りたいって言ってたしね」


「ありがとうございます。会報には私の文も載せてもらえてるんですよ」


 嬉しそうに微笑む舞に、紗江も嬉しくなって、ふたりでにこにこ文化部のブースの通りを進む。


 やがて辿り着いた文芸部のブースだったが、その前に人集りができていて、紗江と舞は首を傾げる。


「会報、めっちゃ人気とか?」


「いえ、恥ずかしながら、毎年、父兄の方々以外にはそれほど売れないと聞いていたのですが……」


 紗江と舞が人垣の後ろから跳ねて覗くと、加賀先輩と秦先生がなにやら言い争いしている。


 それはどうやら文芸部の会報の内容に関するもののようで。


「あの人、また……っ」


 舞が悔しそうに拳を握って呟く。


「舞ちゃん?」


「あの先生、現代派で……その、会報の内容が華族讃歌だと言って、差し止めようとしてるんです。生徒会にも職員会議にも許可を得たのに……」


 涙ぐんで吐き捨てるように舞は言う。


 そうしている間にも、加賀先輩が秦先輩を言い負かしたようで、周囲の人垣から拍手が飛ぶ中、秦先生は裏声混じりの早口の呪詛をまくし立てて、足早に去っていった。


 舞は直前までの舞い上がった気持ちが一気にしぼんでいくのを感じながら、小さく呟く。


「強く……なりたい……」


 それを聞いた紗江はなんと声をかけた良いのかわからず。


「そう、だね……」


 ただそう返すのが精一杯だった。


 現代派というのは、紗江が考えている以上に、面倒くさいものらしい。 


姉妹作

「唄う神器とあたしの魔道」

 https://ncode.syosetu.com/n1697hk/

 も、投稿しております。

若干、本作とも設定を共有しておりますので、ご興味のある方は、ぜひご一読ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ