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第44話 一年生 秋

『防人大附属 上洲高合同文化祭』と銘打たれた看板が掲げられた、カラフルなゲートが開かれ、開催を告げる花火が打ち上げられる。


 上女(かみじょ)生徒会長の加賀鈴乃と上男(かみだん)生徒会長の城崎(しろさき)拓哉(たくや)がメインステージに上がり、客席に集まった両校生徒達に檄を飛ばし、いよいよ合同文化祭は始まった。


 出し物のある三年生達は、メインステージ横に設けられた控えブースに集まり、二年生は自分のクラスの模擬店ブースへと移動していく。


 客席に残された一年生や中等部生達は、配布されたしおり片手に、どこから回ろうか相談中だ。


 やがてゲートをくぐって、父兄や近隣住民がやってくると、会場はいよいよ賑わい出した。


 会場全体に漂う、甘い香りや、ソースを焼く匂いに混じって、紅茶やコーヒーの香りも漂い出す。


 模擬店の元気の良い呼び声があちこちから響き、来客への歓迎の声と重なる。


 秋の冷たさの混じった空気の中でも、会場は生徒達の熱気で軽く汗ばむほどだ。


「――あ、いたいた。舞ちゃーん!」


 百合組の集団の中に舞を見つけ、紗江は両手を頭上で振って声をかける。


 舞もすぐ気づいて、小走りでやってきて、


「お待たせしました」

 と、ぺこりと会釈する。それから紗江を一緒にいるメンバーを見回した。


「あ、そっか。紅葉(もみじ)ちゃん以外ははじめましてだよね、おランちゃんとおまっちゃんだよ。二人共帰宅部一年」


 紗江の雑な説明に、(らん)茉莉(まつり)は苦笑しながら舞に自己紹介する。


 舞も自己紹介を返して、これでみんな友達だ。紗江はひとり納得して、うんうんうなずく。


「じゃあ、あとはお若いもの同士で……」


 そっと紗江がその場を離れようとすると、


「待て待て、どこに行こうっちゅーんじゃ」


 茉莉が紗江の首根っこを押さえて尋ねた。サーベイが驚いて茉莉の肩から頭の上に跳び上がる。


結愛(ゆめ)を迎えに行ってくるんだよぅ。おばあちゃんと一緒に来てるはずだからっ!」


「紛らわしいんじゃ。まったく……」


 茉莉は苦笑しながら、紗江を離した。


「んじゃ、ちょっと行ってくるね」


 軽く手を振って、紗江はゲートに向かう。


 人混みがすごくて、小柄な紗江はかき分けるようにしてなんとかゲートに辿り着くと、そこに来ているはずの祖母と結愛の姿を探した。


 すぐに見つかった。


 黒色の留め袖でビシっと決めた静江と、身長が伸びる事を見越して大きめなものを用意された、ダボダボな白いコートの可愛らしい結愛。


 ゲート前の人混みの中にあっても、二人は異彩を放って目立っていた。


「あ、いたいた。おばーちゃーん! 結愛ー!」


 紗江が人混みを掻き分けながら手を振ると、気づいた結愛が、静江の袖を引く。


「あ、おばあちゃん。お姉ちゃんだよ。おねーちゃーん!」


 可愛らしくピョンピョン跳ねて、結愛が叫ぶ。


 ようやく二人の元へ辿り着くと、結愛がピョンと跳ねて紗江に跳びついてきた。


「お姉ちゃん。ユメ、来たよ-」


 嬉しそうに、にこにこと見上げてくる結愛に、紗江もにっこり微笑んで、結愛を抱き上げる。


「お待たせー。結愛、今日はお祭りだよ。楽しみだねっ?」


「お祭り! ユメね、神社のお祭りはお姉ちゃんと一緒に行けなかったから、今日は楽しみにしてたんだよー!」


 目をきらきらさせて言う結愛を、紗江はぎゅーっと抱きしめる。


 そんな二人を優しく見つめながら、静江は帯から懐中時計を取り出して、時間を確認。


「それじゃ紗江ちゃん、私はそろそろ理事の集まりに行くからね。結愛ちゃんを任せたよ?」


「任されました!」


「ましたー!」


 二人で返事をすれば、静江は唇を笑みの形にして、手を振って上女の校舎へ歩いて行った。それを見送り、紗江は結愛に話しかける。


「それじゃ、お姉ちゃんのお友達のところに行こっか?」


「茉莉お姉ちゃん?」


「他にもいっぱいだよ」


 小首を傾げた結愛に、紗江はにっこり微笑んでみせた。


「えー? たのしみー!」


 両手を挙げて喜ぶ結愛。


 紗江はゲートをくぐって、来た道を戻った。





 再びメインステージ前の客席に戻った紗江は、舞に結愛を紹介する。茉莉以外の他のメンバーはGW以来だったが、結愛は顔を見て思い出したようだ。


「ユメは穂月結愛です。舞お姉ちゃん、よろしくね」


 ペコリと頭を下げて可愛らしく挨拶する結愛に、一同、にっこりだ。


「は、はい。衣笠舞です。結愛さん、よろしくお願いします」

 と、舞は小さい子に不慣れなのか、固い口調で丁寧に頭を下げる。


 それからみんなで、回る先を相談しあった。


「――とりあえず、咲良様のトコは一番最後だよね?」


「そうですわね。一番時間を取りたい所ですし」


 紗江の言葉に紅葉が強く同意し、他の面々もうなずく。


「あたし、お腹空いた。いっぱい食べられると思って、朝ご飯抜いてきちゃった」

 と、蘭が手を挙げて言うと、とりあえず歩きながら食べられるお店から回ろうと、話はまとまった。


 育ちの良い紅葉と舞が、歩きながら食べられるという言葉に首を捻るが、紗江達は実物を見た方が早いと二人を連れ出す。


 焼き鳥や串揚げポテト、フランクフルトを買って、食べながら練り歩く。


 飲食系の出店の中には、品目を増やす為に地元の協賛商店や青年団のものもあって、種類はかなり豊富だ。


 紗江から手渡されたフランクフルトを手に、どこからどう食べたら良いのかわからず、首を捻る舞に、結愛がその袖を引く。


「――舞お姉ちゃん、こうするんだよ!」

 結愛は舞を見上げ、自分の手にあるフランクフルトに、頭からがぶりとかぶりついた。


「おー、結愛、よく知ってるねぇ」


 紗江が褒めると、結愛は嬉しそうに頬に手を当てて、


「神社のお祭りで、将太お兄ちゃんに教えてもらったのっ!」

 と、答えてクスクス笑う。


 どうやら将太とは一緒に小学校に通うようになって、仲良くなったらしい。


 舞は結愛に教えてもらった通りに、フランクフルトの頭に齧りつき、溢れ出る肉汁に驚いた顔をする。


 大ぶりなウィンナーに、ただ串を刺して焼いただけなのに、舞にはびっくりするくらい美味しく感じられた。世に中にはまだまだ、自分の知らない事ばかりなのだと実感する。


 ある程度お腹が満たされたので、紗江達はデザートにクレープを買って、飲食系以外の模擬店を見て回る事にした。あまり食べすぎると、メインイベントの女中喫茶でなにも食べられなくなってしまう。


 結愛が異様に食いついた、上男出展の射的をみんなでやって、うまく景品を落とせなくて苦笑する中、変な才能でもあるのか、結愛が大きなウサギのぬいぐるみを落とす。


「――やったー!」


 ぴょこぴょこ跳ねて、店番の上男生徒から、自身の上半身くらいある大きなぬいぐるみを受け取る結愛。持ち歩くのが大変なので、紗江が代わりに持ってあげる事になった。


「神社のお祭りでもね、結愛、将太お兄ちゃんと愛お姉ちゃんに教えてもらって、ネコさん落としたんだっ!」


 結愛は自慢げに胸を張った。


 愛お姉ちゃんとは、村の比嘉(ひが)さんの長女で、将太のひとつ上の小学六年生だ。どうやら一緒に神社のお祭りに行ったらしい。


「……す、すごいですわね。結愛さん、妙なところに才能がおありですわ」


 紅葉が顔を引きつらせながら呟き、みんなでそれに同意する。


 さらに面々は模擬店を巡り、くじ引きで茉莉が謎な確率論を持ち出して大当たりを出したり、輪投げビンゴで蘭がオールを出して結愛に絶賛されたり、ヨーヨー釣りで初めてなのにも関わらず、紅葉が全員分のヨーヨーを釣り上げたりと、みんな楽しみながら練り歩いていく。


「わたしだけなにも当てられてない……」


 そんな中、紗江は結愛のうさぎを小脇に抱えながら、がっくりと肩を落とす。結愛までもが、勝ち組グループで蘭と手を繋いで楽しそうだ。


「わ、私もなにも当ててませんから」


 気遣うように舞がわたわたと紗江に声をかけると、


「そう言ってくれるのは舞ちゃんだけだよぉ」

 と、紗江は舞に抱きつく。


「――えっ!? えぇっ!?」


「みんなの裏切り者めぇ……」


 恨めしそうに呟く紗江をよそに、舞は顔を真っ赤にしてのぼせがる。


「さ、紗江さん……あぅぅ」


 なにも景品はとれなかったけれど、舞はある意味、勝ち組になれたようだった。

 結愛の意外な才能が垣間見えた日常回です。

 この流れが、もう1話続くんじゃな。


 また、本日より描写を軽くした、別作品も投稿しています。

「唄う神器とあたしの魔道」

 https://ncode.syosetu.com/n1697hk/

若干、本作品とも設定を共有しておりますので、ご興味のある方はぜひご一読ください。

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