21話 チートな俺とギルドマスター②
ハマジリの街、緊急試験場。そこは、Fランクなどでありながら、それ以上の才能を持っている者の時間を無駄にしないよう設けられた場所である。今回は特別に、試験場が壊れるかもしれないので、ミサキが結界を張っている。
現在。健太、スリーズムは、審判であるミサキの「はじめ」という合図を待っている。健太は事前にフユカ意外は自由行動、フユカは少し待っていてくれと言って来た為、ここにいるのは三人だけである。
「それじゃあ、2人共、用意はいい?」
2人は無言で頷く。
「それじゃあ、特別緊急試練はじめ!」
「それじゃあ、健太くん。先手は譲ってあげるわ」
「そうか、わかった」
(どうやら、このギルドマスター素手で戦うらしい。ならば、俺も素手で戦うとしよう。さて、まず手始めに、ゴブリンキングにとどめを刺した時と同じぐらいの加減で行くとするか)
健太は地を蹴り、距離を詰め、殴りかかった。勿論、拳には魔力を込めて。
(成る程、確かにこれ程の魔力の籠った拳であれば、あのゴブリンは倒せそうね。しかし、この一撃は健太くんの本気なのかしら…もしくは、様子見なのかしら)
スリーズムは手をクロスさせて、防御の体勢をとった。その次の瞬間、健太の拳がスリーズムの腕に当たった。激しい音と共に、スリーズムは少し飛ばされた。しかし、体勢は崩れる事なく、地面との摩擦だけで踏み止まった。
(!! このギルドマスター魔力を使っていない!? 素で今の一撃をガードしきったというのか)
(結構痛かったわよ、健太くん。どうやら、私も魔力を使わなくちゃいけないようね)
健太は予想外のスリーズムの強さに少し動揺していた。そして、その動揺を突くように、スリーズムは健太との距離を一気詰め、エンチャントさせた拳で健太のみぞを殴りとばした。健太は踏み止まれずとんでいき、結界の壁に衝突した。
「ふふ、この一撃は流石に痛いんじゃないかしらね」
スリーズムは油断して、少し長く目を閉じた。まだまだねと。しかし、再び目を開けたその先には健太の姿はなかった。
(まさか、後ろ!?)
スリーズムが咄嗟に振り向くと、予想通り健太に背後を取られており、今にも自分を蹴り飛ばしそうな勢いだった。
「く!」
魔力量を一気に加速させ、腕をクロスする速さも上げたスリーズムはギリギリで健太の蹴りをガードできた。しかし、先程とは比べものにならない蹴りの威力にスリーズムは壁までとばされた。
(今の力…どうやら、健太くんの実力は、まだ測りしれない…というわけね。なら仕方ないわ。少しやる気を出そうかしら)
「あなた、多分相当実力隠してるわね? こうなったら、技を使わせてもらうわよ…【炎拳】!!」
スリーズムの拳が技名と共に燃えた。ただ、燃えているだけではない。激しく燃えさかっている。
「どうやら、準備運動は終わったようだな!」
「そうよ! こっからが本番よ、健太くん! 精々ついてきなさいよね!」
双方距離を詰め、殴り込む。
「風突!」
風を纏った拳と炎を纏った拳がぶつかる。双方の力は今のところ互角。激しく、風と炎が混ざり、辺りは炎の渦に包まれた。
数分経ったところだった。
(このままじゃ埒が開かないわね)
スリーズムは一気に魔力を込め、健太との間に爆発を起こした。2人は爆発の影響で、距離が空いた。
(今のでも、健太君は本気を出していないようね。じゃあ、ここで一気に見切ろうかしらね)
「次の攻撃はとっておきよ。耐えれたらあなたの勝ち。耐えれなかったら、死ぬまでは行かないと思うけど…数ヶ月は動けなくなるでしょうね」
(次の攻撃で決めにくるって事か。いいだろう。時間もそんなかけてられないからな。丁度いい)
「望むところだ! 来い! ギルドマスター!」
「いい顔してるわよ! 健太君! あなたの事はもうお気に入り決定よ!」
次の瞬間、スリーズムの手に大剣が出現した。そして、その大剣にゴブリン長の魔力量が散りに思えるような、莫大な魔力が宿った。炎は火柱のように燃え上がり、結界の天井に当たり、広がる。
「【獅子炎斬】」
火柱の如き炎は、獅子の姿に変わっていった。
(こんな奴が1番最初の街に居るとは…言うなれば、ギルドマスターは最高クラスの元冒険者って感じか。それとも、コイツより化け物がうじゃうじゃ居るのか、この世界には…それは、とても楽しみだな)
「行くわよ!」
スリーズムは健太に斬りかかった。既に木剣を構えていた健太は、瞬時に思いついた技で対抗することにした。
「【龍巻】!!!」
勢いよく、剣を突き出した。構えの意味はなくなったが、然程型もない健太には関係のない事だ。
突き出した木剣から風で出来た龍が渦を巻きながら、スリーズム目掛けて突っ込んで行く。
再び、双方の技がぶつかり合うかと思ったが、スリーズムは健太の放った龍巻を躱した。
「何!?」
(ごめんなさいね、健太君。この技は、強さを証明するものではないの。確実に獲物を仕留める技なの)
途中で謝罪し、健太に斬りかかるスリーズム。完全に力のぶつかり合いになると思っていた健太は、獅子炎斬を躱すことはできなかった。
しかし、大剣が健太の肩に当たったのはよかったが、大剣の動きが止まる。刃が通らなかったのである。スリーズムは大剣を瞬時に動かし、首に刃を当て、健太を薙ぎ払った。
健太は壁目掛けて、とんでいき、衝突した。スリーズムは、すぐさま健太との距離を詰める。おそらく、健太はまだ気絶もしてないと感じたからだ。
「!?」
スリーズムの直感は当たっていた。スリーズムが再び斬りかかると、健太は既に次の一撃を受ける体勢になっていからだ。気絶するどころか、技も発動させず、自身に宿る莫大な魔力で対抗してみせた。
スリーズムは何度も斬り方を変えた。しかし、どれも健太には届かなかった。健太は数多の炎撃を全て捌いたのだ。
さらに、捌ききったどころか、最後にスリーズムの隙をつき、反対の壁までとばした。
(何て、子なの。今でも、Bランク。いえ、Aランク程の実力を持っているわ)
壁に衝突したスリーズムはそんな事を考えながら、次の一手に出ていた。余りの余裕のなさに、先程の約束を忘れているようだった。健太は、仕方なく、迫ってくるスリーズムに突っ込んだ。鍔迫り合いがはじまるかと思った時だった。
「そこまで!」
ミサキが結界の中に入り、両方に手を向けてそう言った。
しかし、2人とも止められなかった。それ程の力を込めていたし、ミサキが現れたのも、その動作が全く見えなかったからだ。気づいたらそこに居たのだ。
(まずい!)
健太はかなりヤバいと思った。双方威力は先ほどの倍だったからだ。
しかし、そんな心配も杞憂に終わった。ミサキは特に力を込めるような表情もなく、まるで子供の喧嘩を頭を抑えて止めるように、双方の攻撃を魔力で出来た障壁を使い受け止めたからだ。
(この女、このオカマより遥かに強いのか?)
(私としたことが、冷静さを失っていたわね。ミサキに感謝だわ)
「うん。落ち着いたみたいだね。勝者健太! で、いいよね? スリーズム」
「ええ、私の完敗だわ」
「よし! おめでとう! 健太君!」
「ああ、ありがとうミサキ」
「まさか、ここまで強いとは思ってもいなかったわ」
「それは俺も一緒だ」
2人とも軽く笑った。その後、ミサキにお出かけの提案を持ちかけられた健太だが、フユカとの件があるため、またの次回にと断った。そしてそのまま、急いでるからと、その場を後にした。後の事は後日にしてくれと頼んでから。
「あーあ、振られちゃった」
「仕方ないわよ。でも、次回にって言ってたし、ゆっくり待ちなさいな」
「そうだね。今までだって、ずっと待ってた。それに比べれば、短いもんだよ」
ミサキはそう言いながら、顔上げ、再び待つ事にした。スリーズムは、健太の実力に驚きも恐怖もしていなかった。ただ、自分より、圧倒的強者を前にして、清々しい気分にはなっていた。




