17話チートな俺とゴブリンの巣②
異臭漂う洞窟を歩く健太、ルナ、ゴブリン達。異臭は奥に進むにつれて他のものも混ざってよりいっそう鼻を刺激した。
「ここだ、これを見てもまだ、俺達と平和に暮らしたいだなんて思うか?」
壁に穴を掘ってできたスペースの奥の方に、寄り添うように4人の女達が寝ていた。健太は一度ゴブリン王を睨むと女達に近づいていった。
近くにつれ異臭はさらに強くなっていた。また、近くにつれ健太は、女達の体よはっきりと、そして、より細かな『キズ』が見てわかるようになっていった。想像力豊かな健太は、脳が勝手にどんなことをされたか脳裏をよぎった。しかし、健太の感情は怒りというよりかは、哀れみだった。
「人間! その雌共に話しかけても無駄だぞ! そいつらは並大抵の薬草、回復薬じゃ治せねぇよ! 治したければ、聖女の元までつれていくんだな!! ま、そいつら歩けないけどよ!」
ゴブリン王が健太に対する最後の抗い、それは、健太という男の夢を壊す事。ゴブリン王はこの男は知恵ある者全てが平和に暮らせる世界を作ろうとしていると考えた。そのため、何も出来ずただ、怒りを我慢することしかできない自信の無力さを痛感させ、自分を殺したくなるように健太を煽る。これでで健太が自分の事を殺したら尚良いが、それはなくとも、その怒りに満ちた顔を見ることが今のゴブリン王にとってどれ程喜びなのかは、彼にしかわからないだろう。
健太はゴブリン王のことなど気にかけることなく、ただ手を女達の方へ構えた。ウィンドを放った時のように。
「この者達の傷を癒せ『ケアロ』」
(何!? 今こいつはケアロと言ったのか? まさか、この人間、2属性持ち!? しかし、初歩的なものでは治せまい、どれだけのキズを負ってると思っている)
女達の体にできていた傷は、まるで時でも戻したかのように元に戻った。
「ば、ばかな」
あまりの奇跡にその場に立ち尽くすゴブリン王。
(聖属性持ちの人間って確か凄かったはず・・・私の目に狂いはなかった!)
ルナは静かに興奮しているのだった。
1人の女が目を覚ました。女は後ろに気配を感じた。何かがいると。女のとる行動は一つだった。
・・・・・。
・・・。
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
赤髪ショートの女は自分が動けるとわかったやいなや、後ろにいる健太を炎を纏った拳で殺す気で殴った。
健太は咄嗟にエンチャントを発動し、傷一つなかった。
(ひ、と? たす、けが、来たの?)
赤髪ショートの女は気を失ったかのようにその場に倒れた。因みに、安心して気を失ったわけではない。そもそも、数ヶ月の間まともな生活を送っていなかった彼女が一連の動作をできたのは、怒りと生存本能のお陰だろう。
「ご、ごめんなさい。人が助けに来てくれる何て、思いもよらなかったんです! たすけてください! お願いします!何でも、何でもしますから・・・ここから出して・・・!」
赤髪の女は健太の足にしがみつきながら、助けてほしいと懇願した。
「いやぁぁぁぁぁ!!! おにいちゃぁぁぁぁぁあん!!!」
健太が赤髪ショートの女に話しかけてようとした瞬間、後ろににいた、まだ、十代前半の少女が悪夢でも見ているかのように慟哭した。
(こんな時、主人公ならばなんと言うだろうか、助けにきたよ? だろうか? 優しく彼女達を抱きしめて、温もりをあげたりするのであろうか。だが、俺は無理だ。これから、このゴブリン共は殺さないし、普通に生き続けるようにする張本人なのだから。ただ一言、もう、大丈夫だと言うことぐらいは、許されるだろうか)
少女の隣にいた黒髪ロングの女性が、少女を抱き寄せた。その後、頭を撫ではじめると、安心したのか、少女は泣き止んだ。
「お前達はもう自由だ。俺が責任もって街まで届ける。もう、大丈夫だ」
健太の言葉を聞いて、赤髪の女は静かに泣いた。抑えきれることなど決してない、これまでの苦しみを誰かに伝える為。そして、再び歩き出す為に。
少女は眠りについていた。ただ、自分は助けられる事は少しわかっていたのだろうか、安心して眠っているようだ。しかし、残る記憶の罪悪感と悲しみに涙を流すのだった。
黒髪の女性は黙ったまま少し口角を上げて健太を見つめていた。恐ろしい程に悲しみも、喜びも、怒りも、その表情からはよみとれなかった。
4人目の水色髪のショートの女は健太の事を睨んでいた。何故、もっと早くに来てくれなかったかと、問いかけるように。だが、その問いを口に出す事はない。当たり前だ。ここで健太の機嫌を損ねたら、捨てられかねない。
健太は少しガッカリしていた。わかっていたことだが、このような、自分の知っている、冷たい、欲まみれの反吐が出るような現実がこの世界にも確かにある事に。けれど、多少は考えていたことではあった。そのため、健太は少なくとも今は、少し長い深呼吸に乗せて、この感情を洗い流すのだった。




