回帰そして方法的懐疑
最終章。
ヌマヅインターからR1に降りると、生ぬるい潮の匂いに心癒される。
が、ここで、ちょっとした違和感を覚える。
ん? 街の空気感がなんか違うな……。
まぁ、そもそもここら辺の地理に明るいわけでは無い故、敢えて黙殺しておこう。
公右衛門は相変わらず、ラップトップのマップと睨めっこ。よく、気分悪くならないものだ。なぞ思いながら、公右衛門の方に一瞥をくれると、ほぼ同じタイミングでこちらに向き、こう言った。
「晴男さん、腹減りましたね。あそこのラーメン屋入りましょうよ。」
公右衛門が指差すラーメン屋は車道からの段差も少なく、駐車場も広めで、車高ベタベタの走り屋には人気があり、俺もたまに箱根を攻めに来ては、帰りにこのラーメン屋を利用したもんだった。
「へぇ、まだツブれず頑張ってたんだ。ココ……」
そう呟きながら、左にウィンカーを出す。
区割りの無いジャリの駐車スペースに適当に停め、アルミサッシの戸を開ける。
いかにも峠常連の、女っけの全くなさそうな、機械アブラくさい走り屋が数人、オプションの頁をめくりながら、ああでもないこうでもないと、浅はかなDiyチューンの話に夢中になってる。
俺は、依然として違和感が払拭出来ないままであったが、若者達のすするラーメンのサウンドと、ギョーザの芳香によって、唾液が口の中に溢れて来た。
こうなっては、もう細かい事はどうでも良い。
「キミクン、ギョーザも頼める?」
「え? ええ、まぁ、何とか……」
つーか、マジ一銭も持ってねぇのかよ? とでも言いたげな公右衛門の表情など、一顧だにせず、俺は、オヤジに注文する。
無愛想に、はいよ。といったきり、オヤジはギョーザを焼きながら、昔から変わらぬ、惚れ惚れするような手際の良さで、二人前のラーメンを作る。
このオヤジ、見た目が昔のまんま老けてないなと思いつつも、出来て来たラーメンを目の前に、興味は一瞬で100%シフトする。
おっさんの見た目などどーでもいいもの。今は目の前のラーメンだもの。当然だよな。
おっさんの見た目同様、昔と少しも変わらぬ味に感動し、思わず涙腺が緩む。
アツアツのギョーザを口に運びながら、ビールを欲する己の煩悩をひたすら抑える。
「晴男さん、後は俺が運転しますよ。頼めばいいじゃないですか、ビール」
公右衛門の洞察もまた恐るべき千里眼の如く俺を度々驚愕させる。
「マジ! あ、……いや、そういうワケにゃいかねぇぜ……」
俺は公右衛門の願っても無い申し出を、謹んで断った。
何故だろう、このまま甘えてしまう事が何故か取り返しのつかぬ大事に至るような、若しくは、ヒトとして、自分自身のアイデンティティのようなものが崩壊……否、そんなもの生まれてこのかた確立されたタメシが無い。が、俺の潜在意識がそう判断し、その直感に素直に従ったまでだ。
「そうスか、気にする事無いのに……」
そういいながら、一滴も残さずスープを飲み干す公右衛門。
程良く膨れた腹をポンポンと叩きながら、軽く柔軟体操みたいな動きをして、筋をのばしてみては、なんとなくZの周りを確認してから乗り込む。と、いったい何処にいたのか、同じ色、同じ型のフェアレディZが、直6の咆哮を轟かせながら俺達の目の前を横切り、国道に滑り出す。




