2話「大きな鏡」
おっと、この空白の世界に何か現れたようだ。大きな鏡だ。
これを見て自分の姿を確認しろとでも言いたげだな。よし。
鏡の前に立つと、俺の姿がそこに映った。顔や体に触れ、その姿を入念に確かめる。
ほうほう、なるほど。悪くない。
平均よりやや低い身長、長くもなく短くもない黒髪。顔は...んん、まぁいいだろう。
少し足りないくらいがいいんだ。その方が何かを手に入れた時の幸福度が違う。これはその布石と言うべきだ。
鏡が姿を消すと、その後ろに小さな影がポツンと見えた。
ん?遠くの方に誰かがいる...?ただ、遠すぎて姿ははっきりと見ないが、確かにこちらへ向かって歩いているのが分かる。
ようやく"展開"がやって来たか。俺とは違う、新たな登場人物。ちょっとワクワクして来たな。
この作品はどんな世界観なのか。超能力や魔法の有無、超可愛いヒロインがいたりして...!!
おお!テンション上がって来たぞ!ま、まさか今こっちに向かってる人が俺のヒロイン...!?やばい緊張して来たどうしよう!!
いや、まてまてまて。他人の作ったシナリオに、はい喜んでと飛びついては、それは普通の創作物と同じではないか。せっかくのメタディレクションが、宝の持ち腐れとなってしまう。
だが、設定も、世界観、も役割も、まだ何も知らないぞ。いいんだな?俺、勝手にするぞ?
...てか俺一回も声出してないな。よし、彼女が来た時の練習に声出しとくか。
「初めまして、俺です」
「すごく可愛いですね、ところでその胸の膨らみは何ですか?」
「え、それおっぱいって言うんですか?知らなかったです。良かったら揉ませてもらってもいいですか?」
よしこれで行こう。俺の倫理観がバグってるのは、何も教えてくれないこの世界が悪い。俺は悪くない。
てか、あれ?俺のヒロインまだ来ないの?
確かに近づいて来てるはずなのに、一向に俺の元へと辿り着かない。目を凝らしても、さっき見た位置から変わってないように見える。
遅くね?
俺は寝そべって彼女がここへ来るのを待った。
ずっと待った。
そして俺は待ちくたびれた。
もう2時間は経っている。
歩くモーションだけは見えるのに、距離は相変わらず変わってない。
「いや遠いーなー!!!」
一応この状況にツッコんではみたが、この状況が変化する事もなかった。俺のすべき事はツッコミでは無いのか、なら。
俺は立ち上がり、彼女を迎えに行くことにした。
だだっ広い空間。何一つない。
ただ今俺にはやるべきことがある。目標があってそこへ向かう足もある。これがどれだけ幸せな事か。
俺はひたすら走った。
ずっと走った。嘘、10分くらい。息が切れ、全身から汗が吹き出して来た。
「いや、もう無理限界...」
俺はそこで力尽きて眠った。
結局この男、カッコつけてるだけで美少女キャラを与えたらすぐに落ちそう...
でもごめん。これから先癖の強いキャラしか出会えないから、本当ごめんね。




