1話「創作物である俺は自我を持ちました」
白い部屋、音も何もない空間。
今俺はここにポツンと立っている。
誰かが用意したのか、あるいはこれから何かが作られる前触れなのか。
何にせよ今から始まる展開に心を高ぶらせている、とでも言っておこうか。
さて、初めに君が驚く事を言おう。
―俺は俺自身が、創作物である事を自覚している―。
それが小説か、漫画か、ゲームか、アニメか、映画なのか。
残念ながらこの2次元世界からでは、知ることはできない。
こういう作風を世間では、"メタフィクション"というらしい。
ただ、他の作品と大きく違うとこがある。
それは、俺と言うキャラが"意思"を持って、"自由"に行動できると言う点だ。
シナリオを無視した行動が取れる、この能力を"メタディレクション"と名付けよう。
ではこのメタディレクションで出来る実例を見てみよう。
例えば学園物の作品で、何故か主人公がヒロインに固執し、物語の中で振り回される。そんな展開を見かけるだろ?
それは主人公を設定で縛り付け、伏線やイベントを利用し、君たちの興味をヒロインへ誘導しているからだ。
それは作者のエゴだ。俺たちキャラは、作者の性癖に無理やり付き合わされてる。そう言っても過言では無い。
だが俺はそんな主人公にはならない。
俺ならこうする...
―ここはごく普通の公立高校。俺は教室から窓の外を眺め、日々の退屈さを感じていた。
俺には10年間、ずっと想いを寄せている"女の子"がいる。
その子とは5歳の頃、父の実家のある田舎に行った日に出会った。
その子は近所に住む女の子で、歳の近かった俺たちは毎日のように遊び、そしてお別れの日にある約束をした。
「もし高校生になって、お互い恋人がいなかったら、私が君の彼女になってあげる!」
その言葉を信じて生きてきた。そして10年の時が経ち、俺は高校生になった。
「お前ら静かにしろ!今日は転校生を紹介する!」
先生の一喝で、騒がしかった教室が一瞬にして静まる。そしてゆっくりと扉が開き、1人の女の子が入ってきた。そこにいたのは、俺が10年間想いを寄せていた、あの"彼女"だった。
「じゃあ自己紹介してもらえるかな?」
先生がチョークを一つ手に取り、黒板に背を向ける。
そして彼女が口を開く
「私は...」
ブーーーーッ
教室に謎の破裂音が響く。数人の生徒の視線が俺へ集まる。俺は手を挙げて立ち上がる。
「すみません、俺です。続けてください」
「そ、そうか...体調が悪いのか...?無理するなよ...」
先生は気を遣ってくれ、再び転校生へ視線が戻る。そして彼女がゆっくりと口を開く。
「私の名前は....」
ブリッブリブリーーッ!
今度は生徒全員が立ち上がり、俺の方へ体を向けた。俺はそのまま手を挙げ、ゆっくりと中腰で立ち上がる。
「完全にうんこが漏れました。トイレに行ってきても宜しいでしょうか?」
「お、おう...行ってこい...」
先生に許可を得た俺は、片手で尻を押さえたまま、教室を颯爽と飛び出す。その時、彼女と目が合ったように感じた。
「待って!!君もしかして!10年前、私と会った事ない!?私...あれから君のことをずっと想って...!!」
廊下を小走り駆け抜ける後ろから、彼女が大声を出して引き留めた。
俺はポケットからロケット花火を数本取り出し、火をつけて応戦した。
「な、なんでロケット花火!?ま、待ってよ!!あの時の約束!私まだ忘れてないよ!!」
ロケット花火の猛攻を潜り抜けた彼女を、俺は無視し続けて保健室へ直行した。
そして扉を開ける。そこには白衣で、黒タイツ、美人で巨乳の"保健室の先生"がいた。
俺は先生の側へ寄ると、片手で尻を押さえ、もう片方の手を前に差し出した。
「先生!あなたがずっと好きでした!いえ、正確には"あなた達"がずっと好きでした!なぜ...なぜいつもあなた達は、不遇な扱いを受けているのか...作品には少ししか登場せず、ストーリーが進むと突然いなくなる...!どう考えたってあなた達が一番魅力的なのに!!」
それからの俺は、ヒロインに付随するありとあらゆる伏線を放棄し、"白衣"、"黒タイツ"、"おっぱい"のある保健室を占拠。やがて保健室から"国家独立の宣言"をした。俺に武器が扱えるかは知らないが、先生の為なら国とだって戦ってみせる。
とまぁ、メタディレクションを使えばこう言う事ができる。
そして今、誰かがこの様子を見ている事も自覚している。
何故なら誰かに観測されていなければ、創作物とは時間という概念を持てないからだ。
誰かが今、こうして俺を観測してくれているから、この世界の時間は進んでいる。
だからこそ、これを見ている誰かの為にも、そして"主人公"として生まれたからには、是非とも壮大で感動的なストーリーを演じたいと思う!!!
さて始まりました超メタ創世記。このキャラクターを作った"創作者"、という設定の春ノ音と申します。よろしくお願いします。
まだ何がどう進むか全くわからず、ただ走り書きをしているような感覚。だからこそ、キャラクターが意志を持って好き勝手に動く、そんな予測不能な作品にしたいと思います。
そういえば主人公が「俺たちキャラは、性癖という作者のエゴに付き合わされている」のような発言したが、彼が保健室に飛び込み、白衣黒タイツ巨乳養護教諭に告白した行動を、私"春ノ音"の性癖と受け取らないでいただきたい。本当に。違うから。本当ですよ?




