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毒ビンゴゲーム  作者: ケト
6/7

リーチ

「正午には必ず、自席に着いているように」


 学校からの指示を聞き、わたしも漏れずに所定の位置に着いて、その時を待っていた。


 目前に構えていた携帯電話の待ち受けが、何の操作をすることも無く、別の画面へと変わった。

 昨日と同じ青い空を背景に、昨日と同じ格好をした、昨日と同じ人物が映し出された。



「皆様、ごきげんよう。『ワタクシの顔を早く拝みたい!』などという声が全国からチラホラと――聞こえてこなかったのは非情に残念ですが。

 まず初めに申し上げマス。たった今を持ちまして、記名を締め切らせていただきマス。そして、たった今、無記名のマスには所有者にとって身近な方の名前が記されマス」


 ワタクシは『パチン』と、指を鳴らした。

 その瞬間、画面は青空から、薄い青を背景とするビンゴカードの表示へと変わった。

 

 ワタクシが映っていた画面は、申し訳程度に小さくなり、画面右上に表示され続けている。

 わたしのカードの無記名マスにも、自動で名前が浮かび上がるのを、その目で確認した。



「さて。もしかすると皆様のカードには、既にバツ印が付与されたマスがあるかもしれません。そのマスに書かれた方は、この二十四時間以内に既に亡くなっていマス。

 本来であれば、亡くなっている方の記名などしたくありませんでした。ですが、自動記名の場合だけは、それを許可することとした次第でございます。

 ――思わぬバツ印を手に入れた方、ラッキーですね!」


 これをラッキーと捉えるか、アンラッキーと捉えるかは、その人次第だろう。

 何故なら、未だそんな人はいないと思うが――意図せぬところで、一列にバツ印が三つ以上付与される人もいるかもしれないのだ。


 ビンゴ達成には、その一列に揃う毒リンゴの数が三つ以上必要となる。

 つまり、バツ印が認められるのは一列に二つまで。

 三つ以上付与されてしまうと、その列は景品を得る権利を失ってしまうのだ。



「では早速、本日の毒殺対象を発表いたしマス。正午ちょうどに毒殺は完了しておりますので、当の本人以外には事後報告となりマス。

 ――うふふっ。おそらく皆様、予想が出来ているかもしれませんね。そうです、本日毒殺したのは――『内閣総理大臣くん』デス!」


 それはそうだろう。知名度が極めて高く、しかも昨日は自らを記名するよう国民に訴えたのだから。

 わたしのカードにも漏れ無く書かれていた総理大臣のマスには、毒リンゴが浮かび上がった。



「これで毒リンゴは二つ目デスね。――あぁ。昨日、ミコちゃんを記名していた方にとっては三つ目ですが。

 そしてここで、重要なお知らせがあります。今この時点で、なんと、リーチとなった方が三人いらっしゃいマス!」


 ――え、三人? そんなにいるの!?


「あれあれ? 何やらおかしいですね。『ワタクシ、ミコちゃん、総理大臣くんを同じ列に記名していたとしても、現時点でリーチになるためには、一つのバツ印が必要じゃない?』と、疑問に思う方もいらっしゃることでしょう。

 と、いうことは? ――きゃーっ! もしかして、殺(や)っちゃった?」


 少なくとも、記名した一人を殺ったか、あるいはラッキーバツ印が付与されたかのどちらかということだろう。



「それでは皆様。これより、見事リーチとなったお三方を発表いたしマス!」


 ――はい? えっと、何で?


「――え? だって、ビンゴゲームのお約束ですよね? リーチになったら大きな声で『リーチ!』と知らせるものです。リーチも無しにいきなりビンゴなんて許されませんもの。

 ――と、いうことで。リーチになったお三方の素性と、残りのマスに誰の名前が書かれているのか、発表いたしマス! ――あぁ、加えて、必要なのが毒リンゴか、あるいはバツ印かどうかも教えて差し上げマス!」


 なるほど……これは、発表後に日本がざわつくこと間違い無しだろう。

 大変なのは、必要なのがバツ印でも構わない場合。


 もしも必要なのが毒リンゴなら、明日以降にその人が毒殺されるのを願い待つだけ。

 でも、もしもバツ印でも良いのなら――記名したその人が誰かに殺害さえされれば、その瞬間にこのゲームを終えることが出来るのだから。




「では、一人目――この方、デス!」


 ワタクシの指パッチンと共に、カードを表示していた画面が、どこかの誰かを映す映像へと変わった。

 運転中なのか、ハンドルを握る男性が真っ正面から映し出されている。


『はぁ!? ま、マジかよ……』


 カーナビでこの映像を見ているのだろうか。

 斜め下方の何かを見て、その男性は小さく叫んだ。


「マジデス。さて、この方は会社員の『ヤブキダイゴくん』デス! 総理大臣くんをワタクシと同じ列に記名しておりました。お見事、パチパチです。

 そして、このヤブキくんは、同じ列に記名した二名の尊い命を奪っております。やーん、人殺し!」


 二人も毒殺しておいて、このワタクシは、人のことをよく言えたものだ。



「――余計なことは言いたくありませんが、どうせ人殺しなら二人も五人も一緒でしょう。警察の捜査に協力して差し上げマス」


 え? まさかこのヤブキくん、五人も殺したとか言わないよね?


「そうデス。このヤブキくん、昨晩未明に隣の家に火を灯しました。放火という行為デス。焼け跡からは、その家に住んでいたと思われる五人の遺体が発見されました。警察は放火の可能性も視野に入れて、原因を調べています。

 ――警察の皆さーん、このヤブキくん、なぜか隣人の、その五人の名前をフルネームで記名してマース。これは殺人で間違い無いでしょう。ね?

 ――と、いうことで。ヤブキくんの残りの一マスに書かれた名前を発表しマス! ワタクシの毒殺待ち、その人は――『東京都知事くん』デス!」


 あぁ、やっぱり、それ書くよね。

 確かに、総理大臣の次くらいに書かれる可能性が高いと思っていた。

 昨晩も、各番組で無記名を強く主張してたし。



「あらら? これは明日にでもビンゴとなる可能性が高くありませんこと? ワタクシの毒殺次第? いやいや、皆様の記名次第デス。

 ――皆様の貴重なお昼休みを無駄にしたくありませんので、次の方に移りマス。はい、二人目はこの方デス!」


 画面の映像は、薄暗いどこかの部屋のものへと変わった。

 遮光性が低いカーテンからは、薄らと日光が差し込んでいる。そこには動く者の気配が一切感じられない。

 だが、目を凝らしてよく見ると、画面中央には何かがぶら下がっているように見えた。


「この方は高校三年生の『タムラハルトくん』デス! 残念ながら昨日、このとおり天井から吊したロープで首を吊り、自ら命を絶ってしまいました。そのため、今この瞬間を共に喜ぶことが叶いませんでした。

 ――ていうか、ご家族の皆さーん! 早く下ろしてあげて!」


 ――とすると、このタムラくんのリーチ列には、自分の名前によるバツ印が一つあるのだろう。

 それでも、もう一つのバツ印が必要となるのだが。



「このタムラくんですが。な、なんと、ミコちゃんの名前を記名した数少ない一人なのデス! しかも、総理大臣くんの名前もちゃんと書いているのデス!

 でもでも、残念ながら毒リンゴが三つ、同じ列に揃うことはありませんでした。ですが、恐ろしいことに、このタムラくん……トリプルリーチなのデス!」


 ――はい? えっと、え?

 つまり、毒リンゴが二つ揃っている列が三列あって、しかもその列にはいずれもバツ印が二つずつあるってこと?

 それって、ラッキーバツ印を六つも得るような、ものすごい強運の持ち主なのか、それとも――記名した六人もの人間を殺害したヤバい奴ってこと?

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