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毒ビンゴゲーム  作者: ケト
7/7

結末

「タムラくんのすごいところは、他にもあるのデス。このゲーム、一列に毒リンゴが三つ必要と言いましたね?

 それは即ち、一列のうち二つはバツ印でも構わないということ。では、ビンゴの確率を上げる最善策はというと?

 必要な毒リンゴマスだけを残して、他のマス全てにバツ印を付けておくことでしょう。最低限必要となる毒リンゴは十五マスで、バツ印は十マスとなりマス。

 このタムラくん、なんと、既にバツ印が十マスに付与されちゃってマス!」


 うわ、六人どころじゃなかった……



「とは言え、バツ印のうちの一つはご本人です。このタムラくん、よーく考えたのデス。死人に口無し、でも、ワタクシはタムラくんの行いを全て知っております。

 この子、人を殺してはおりません! まぁ、直接的には、という表現が正しいかもしれませんが。


 ――何をしたかというと、昨日の午後、二十三人の自殺志願者を募りました。


『みんな、僕を含めた二十四人の名前を書いて、自殺しよう! そうすれば、このカードは真ん中のマス以外にバツ印が付与されるから、景品を獲得する権利を失う。希望の見出せないこんな世の中から脱却出来るし、こんな理不尽なゲームからも逃れることが出来るんだ!』


 そう説いたタムラくん。格好良いデス。でもタムラくん、ちゃっかりとリーチなのデス。

 タムラくんが募ったこの二十三人は、何らかの原因で不登校となった中高生たち。しかも、何かをきっかけに今にも自ら命を絶たんとする猛者揃いデス。


 タムラくんは、特に自殺願望の強い九人の名前を、自身のカードに記名しました。

 そして、発起人として、まず初めに自身の命を絶ちました。他の皆さんのカードの、タムラくんマスにはすぐにバツ印が付与されました。同時に、皆さんの意思が強く固まったことでしょう。


 結局、十五人が自らその命を絶ち、でも、そのうち三人は一命を取り留めてしまいました。残りの八人は結局、自殺を決意することすら出来ませんでしたが。

 すごいことに、タムラくんが記名した十人はしっかりとその命を絶ったのデス。いやはや、お見それしました。見る目ありますね!」


 直接的な殺人をせずに、カードに大量のバツ印を付与出来る。

 そんな方法が世に出回ってしまった……これ、今後の日本、危うくない?



「それでは、タムラくんのビンゴ達成に必要な、残り三人の名前を発表しマス。いずれもワタクシの毒殺待ちデス。

 一人目は、先ほどのヤブキくんと同様、東京都知事くん。二人目は、先日国民栄誉賞を受賞したばかり。あの、超有名な元メジャーリーガー『スズキさん』デス。そして三人目。こちらも知らない人はいないでしょう。お笑い界のレジェンド『ニシンさん』デス!

 ――あらあら、まぁまぁ。これこそ明日にはビンゴ間違しではないでしょうか。何ならダブルビンゴもあり得るかも!?

 ――と、ここで皆さん、すっごく気になることがあるでしょう? ね?」


 はい、先生。二つあります。

 一つは、ダブルビンゴの場合、叶う願いが二つになったりするのか。

 もう一つは、二人同時にビンゴとなった場合どうなるのか、です。



「そう――タムラくん、一向に下ろされる気配無くない!?」


 そっちかーい! 確かに、気にはなってたけど。

 でも、家の人が仕事とかで不在なだけでしょ?


「うふふっ。そっちかーい! という軽快なツッコミが多方面から聞こえてきたようです。――では、皆様が本当に気になっていることに、お答え致しましょう。

 まず、ダブルビンゴとなった場合ですが。これは普通のビンゴゲームと同じです。景品は一つですし、中身も変わりません。


『わぁ、すっごーい!』


 という、ワタクシからの賞賛を得ることは出来マス!」


 わぁ、嬉しい! などと喜ぶタムラくんがいるのだろうか。


「そしてもう一つ。もしも明日、東京都知事くんが毒殺されたとしたら。ヤブキくんもタムラくんも、ビンゴ達成ですよね?

 わぁ、すっごーい、二人同時! ――って、この場合どうなるの?

 はい、その場合ですが。景品を獲得するのは『より早く記名を終えた方』デス! ちなみにですが。ヤブキくんが記名したのは昨日の午後五時半。って、超早いんですけど!?

 でもでも、タムラくんはそれよりも早かった。なんと、十二時三分。カード配布、そしてワタクシからの説明がほとんど無い中で、一番左上にミコちゃん、一番右上に内閣総理大臣くんを書き終えていたのです。わぁ、すっごーい!」


 つまり、もしも明日の毒殺対象が東京都知事くんなら、タムラくんが景品を獲得するということ。

 まずはその命がこの世に呼び戻されて、願い事を言うことが出来る――ということ。




「それでは。リーチとなった三人目を発表しちゃいますよ! それは、この方デス!」


 画面には、青い空を背景に、一人の少女の上半身が映し出された。

 まるでワタクシと同じ場所にでもいるかのような、ワタクシのワイプ画面と全く同じ背景に見える。

 でも、いくら見回しても、周囲にはワタクシの姿は見られなかった。


「きゃっ! 男子のみなさーん、待望の女の子ですよ! この子は高校二年生の『イマイミユウちゃん』デス! 名前も可愛いね!」


 名前を褒められても嬉しくないが、『名前も』と含みを入れてくれたのは少しだが嬉しい。


「この子のリーチは一列だけデス。――え? じゃあ、なんで最後に残したの? なんて、気になっちゃいマス?

 それは――残念ながら、この後すぐに揃っちゃうからデス。ね、ミユウちゃん?」


 ワタクシは、わたしに問い掛けた。

 取り敢えず、固まった表情で出来る最大限の笑みを浮かべてあげた。



「――ミユウちゃんは昨日、『カードには人の名前を書く』と聞いてすぐに、一番左上のマスにミコちゃんの名前を書きました。その後は、じっくりことこと考えた結果、総理大臣くんの名前を一番右下に書きました。

 これで、今は毒リンゴが斜めの一列に三つ揃っているということ。つまり、明日を待たずとも、バツ印二個でビンゴ達成なのデス。ね、ミユウちゃん?」


 なんだか、他の二人には無かった問い掛けが多い気がする。

 一人は運転中だし、一人は首を吊っている最中だから仕方が無いかもしれないが。

 わたしは取り敢えず、頷いてあげた。


「でも、リーチってことは――ま、まさか、誰かを殺めたの? こんな少女が!? と、思うことでしょう」


 いや、まずは『絶妙な位置にラッキーバツ印が付与された強運の持ち主』とでも思って欲しいのだが。



「ミユウちゃんは、とても悲しい、そして思いやりのある殺人を犯しました。――実は彼女、幼い頃に父親が他界していマス」


 ちょっと、そんな個人情報、不要じゃない?

 しかもこれ、全国民が見てるんでしょ?


「幼い頃から、お母さまが女手一つでミユウちゃんを育ててきました。そんなお母さま、半年前に不慮の事故に遭ってしまったのデス! 一命を取り留めたものの、意識を取り戻すこと無く、眠り続けていました。

 ミユウちゃんは昨日――それは、ワタクシが説明を終えたすぐ後のことデス。お母さまが眠る病院に赴くと、命を繋ぐ管(くだ)的なものを外しました。

 ――ミユウちゃんのお願い事はただ一つ、『お母さんを治して欲しい』でしょう。ね、ミユウちゃん?」


 頷き、そしてわたしは、初めて口を開いた。

 それは、逆にワタクシに問い掛けるものだった。



「一列揃ったら。その列の人が生き返ったら――お母さん、意識のある状態で生き返ったりしますか?」

「うんうん。なんて良い子なのでしょう! その優しい心に免じて、お母さまが生き返った際には、その意識も戻して差し上げましょう!」


 わたしは心の底から嬉しくなり、自然と満面の笑みがこぼれた。


「きゃっ! 喜んでもらえてワタクシも嬉しいデス。えぇ、それはもう――うん、すごく嬉しいデス!」


 残念な語彙力は置いておくとして。

 願わずとも、お母さんが復活と共に意識を取り戻すことがわかった。

 もう、それだけで良かった。もう他に、わたしには願い事なんて無くなった。



「それでは。ミユウちゃんの、残りの一マスに書かれた名前を発表しマス! それは――うふふっ。ミユウちゃんてば、すっごいんだから!

 それは――イマイミユウ。自分自身の名前なのデス!」


 そう。あとは、わたしが死ねば――意識と共にこの世に生き返った、お母さんと会うことが出来るのだ。



「それでは、ミユウちゃん。最後に一つ、聞いても良いデスか?」


 ワタクシが聞きたいことを察すると、わたしは答えを言ってあげた。


「わたしの願いは、願わなくても叶います。だから、願い事はありません。でも、強いて挙げるのなら――あなたの願いが叶うことを、願ってあげます」


「あぁ、ミユウちゃん。あなたって子は何という……本当に……最高デス! えぇ、ワタクシ、願いますわ! ようやく、このゲームを本当に終わらせることが出来マス。あぁ、この日を――この時を、どれだけ待ちわびたことでしょう!

 ――それでは、ミユウちゃん。本当は、もっとお話をしていたいけれど、お別れデス。うふふっ、目覚めたとき、あなたたちは――あなたも、何も覚えていないでしょう。でもね、あなたには最高の出来事が待ち受けていマス!

 ――ありがとう。そして、さようなら、デス!」




 ワタクシの言葉が途切れるのを待つと、わたしはその場に立ち上がった。

 そして仰向けに、後方に倒れた。



 学校の屋上の、フェンスの最上部。

 この瞬間、わたしはこの場所に座り、ワタクシの発表を聞くことに決めていた。

 誰もが携帯電話にしか注目しない中、わたし一人が自席にいなくても、誰も気が付く筈が無いのだから。



 わたしの視界いっぱいに、青い空だけが広がった。

 今日の空も、快晴だった――

構想から完結まで三日間。

思い描いた結末に向かい、少し急ぎすぎた感が否めません。

拙い文章ですが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

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