結末
「タムラくんのすごいところは、他にもあるのデス。このゲーム、一列に毒リンゴが三つ必要と言いましたね?
それは即ち、一列のうち二つはバツ印でも構わないということ。では、ビンゴの確率を上げる最善策はというと?
必要な毒リンゴマスだけを残して、他のマス全てにバツ印を付けておくことでしょう。最低限必要となる毒リンゴは十五マスで、バツ印は十マスとなりマス。
このタムラくん、なんと、既にバツ印が十マスに付与されちゃってマス!」
うわ、六人どころじゃなかった……
「とは言え、バツ印のうちの一つはご本人です。このタムラくん、よーく考えたのデス。死人に口無し、でも、ワタクシはタムラくんの行いを全て知っております。
この子、人を殺してはおりません! まぁ、直接的には、という表現が正しいかもしれませんが。
――何をしたかというと、昨日の午後、二十三人の自殺志願者を募りました。
『みんな、僕を含めた二十四人の名前を書いて、自殺しよう! そうすれば、このカードは真ん中のマス以外にバツ印が付与されるから、景品を獲得する権利を失う。希望の見出せないこんな世の中から脱却出来るし、こんな理不尽なゲームからも逃れることが出来るんだ!』
そう説いたタムラくん。格好良いデス。でもタムラくん、ちゃっかりとリーチなのデス。
タムラくんが募ったこの二十三人は、何らかの原因で不登校となった中高生たち。しかも、何かをきっかけに今にも自ら命を絶たんとする猛者揃いデス。
タムラくんは、特に自殺願望の強い九人の名前を、自身のカードに記名しました。
そして、発起人として、まず初めに自身の命を絶ちました。他の皆さんのカードの、タムラくんマスにはすぐにバツ印が付与されました。同時に、皆さんの意思が強く固まったことでしょう。
結局、十五人が自らその命を絶ち、でも、そのうち三人は一命を取り留めてしまいました。残りの八人は結局、自殺を決意することすら出来ませんでしたが。
すごいことに、タムラくんが記名した十人はしっかりとその命を絶ったのデス。いやはや、お見それしました。見る目ありますね!」
直接的な殺人をせずに、カードに大量のバツ印を付与出来る。
そんな方法が世に出回ってしまった……これ、今後の日本、危うくない?
「それでは、タムラくんのビンゴ達成に必要な、残り三人の名前を発表しマス。いずれもワタクシの毒殺待ちデス。
一人目は、先ほどのヤブキくんと同様、東京都知事くん。二人目は、先日国民栄誉賞を受賞したばかり。あの、超有名な元メジャーリーガー『スズキさん』デス。そして三人目。こちらも知らない人はいないでしょう。お笑い界のレジェンド『ニシンさん』デス!
――あらあら、まぁまぁ。これこそ明日にはビンゴ間違しではないでしょうか。何ならダブルビンゴもあり得るかも!?
――と、ここで皆さん、すっごく気になることがあるでしょう? ね?」
はい、先生。二つあります。
一つは、ダブルビンゴの場合、叶う願いが二つになったりするのか。
もう一つは、二人同時にビンゴとなった場合どうなるのか、です。
「そう――タムラくん、一向に下ろされる気配無くない!?」
そっちかーい! 確かに、気にはなってたけど。
でも、家の人が仕事とかで不在なだけでしょ?
「うふふっ。そっちかーい! という軽快なツッコミが多方面から聞こえてきたようです。――では、皆様が本当に気になっていることに、お答え致しましょう。
まず、ダブルビンゴとなった場合ですが。これは普通のビンゴゲームと同じです。景品は一つですし、中身も変わりません。
『わぁ、すっごーい!』
という、ワタクシからの賞賛を得ることは出来マス!」
わぁ、嬉しい! などと喜ぶタムラくんがいるのだろうか。
「そしてもう一つ。もしも明日、東京都知事くんが毒殺されたとしたら。ヤブキくんもタムラくんも、ビンゴ達成ですよね?
わぁ、すっごーい、二人同時! ――って、この場合どうなるの?
はい、その場合ですが。景品を獲得するのは『より早く記名を終えた方』デス! ちなみにですが。ヤブキくんが記名したのは昨日の午後五時半。って、超早いんですけど!?
でもでも、タムラくんはそれよりも早かった。なんと、十二時三分。カード配布、そしてワタクシからの説明がほとんど無い中で、一番左上にミコちゃん、一番右上に内閣総理大臣くんを書き終えていたのです。わぁ、すっごーい!」
つまり、もしも明日の毒殺対象が東京都知事くんなら、タムラくんが景品を獲得するということ。
まずはその命がこの世に呼び戻されて、願い事を言うことが出来る――ということ。
「それでは。リーチとなった三人目を発表しちゃいますよ! それは、この方デス!」
画面には、青い空を背景に、一人の少女の上半身が映し出された。
まるでワタクシと同じ場所にでもいるかのような、ワタクシのワイプ画面と全く同じ背景に見える。
でも、いくら見回しても、周囲にはワタクシの姿は見られなかった。
「きゃっ! 男子のみなさーん、待望の女の子ですよ! この子は高校二年生の『イマイミユウちゃん』デス! 名前も可愛いね!」
名前を褒められても嬉しくないが、『名前も』と含みを入れてくれたのは少しだが嬉しい。
「この子のリーチは一列だけデス。――え? じゃあ、なんで最後に残したの? なんて、気になっちゃいマス?
それは――残念ながら、この後すぐに揃っちゃうからデス。ね、ミユウちゃん?」
ワタクシは、わたしに問い掛けた。
取り敢えず、固まった表情で出来る最大限の笑みを浮かべてあげた。
「――ミユウちゃんは昨日、『カードには人の名前を書く』と聞いてすぐに、一番左上のマスにミコちゃんの名前を書きました。その後は、じっくりことこと考えた結果、総理大臣くんの名前を一番右下に書きました。
これで、今は毒リンゴが斜めの一列に三つ揃っているということ。つまり、明日を待たずとも、バツ印二個でビンゴ達成なのデス。ね、ミユウちゃん?」
なんだか、他の二人には無かった問い掛けが多い気がする。
一人は運転中だし、一人は首を吊っている最中だから仕方が無いかもしれないが。
わたしは取り敢えず、頷いてあげた。
「でも、リーチってことは――ま、まさか、誰かを殺めたの? こんな少女が!? と、思うことでしょう」
いや、まずは『絶妙な位置にラッキーバツ印が付与された強運の持ち主』とでも思って欲しいのだが。
「ミユウちゃんは、とても悲しい、そして思いやりのある殺人を犯しました。――実は彼女、幼い頃に父親が他界していマス」
ちょっと、そんな個人情報、不要じゃない?
しかもこれ、全国民が見てるんでしょ?
「幼い頃から、お母さまが女手一つでミユウちゃんを育ててきました。そんなお母さま、半年前に不慮の事故に遭ってしまったのデス! 一命を取り留めたものの、意識を取り戻すこと無く、眠り続けていました。
ミユウちゃんは昨日――それは、ワタクシが説明を終えたすぐ後のことデス。お母さまが眠る病院に赴くと、命を繋ぐ管的なものを外しました。
――ミユウちゃんのお願い事はただ一つ、『お母さんを治して欲しい』でしょう。ね、ミユウちゃん?」
頷き、そしてわたしは、初めて口を開いた。
それは、逆にワタクシに問い掛けるものだった。
「一列揃ったら。その列の人が生き返ったら――お母さん、意識のある状態で生き返ったりしますか?」
「うんうん。なんて良い子なのでしょう! その優しい心に免じて、お母さまが生き返った際には、その意識も戻して差し上げましょう!」
わたしは心の底から嬉しくなり、自然と満面の笑みがこぼれた。
「きゃっ! 喜んでもらえてワタクシも嬉しいデス。えぇ、それはもう――うん、すごく嬉しいデス!」
残念な語彙力は置いておくとして。
願わずとも、お母さんが復活と共に意識を取り戻すことがわかった。
もう、それだけで良かった。もう他に、わたしには願い事なんて無くなった。
「それでは。ミユウちゃんの、残りの一マスに書かれた名前を発表しマス! それは――うふふっ。ミユウちゃんてば、すっごいんだから!
それは――イマイミユウ。自分自身の名前なのデス!」
そう。あとは、わたしが死ねば――意識と共にこの世に生き返った、お母さんと会うことが出来るのだ。
「それでは、ミユウちゃん。最後に一つ、聞いても良いデスか?」
ワタクシが聞きたいことを察すると、わたしは答えを言ってあげた。
「わたしの願いは、願わなくても叶います。だから、願い事はありません。でも、強いて挙げるのなら――あなたの願いが叶うことを、願ってあげます」
「あぁ、ミユウちゃん。あなたって子は何という……本当に……最高デス! えぇ、ワタクシ、願いますわ! ようやく、このゲームを本当に終わらせることが出来マス。あぁ、この日を――この時を、どれだけ待ちわびたことでしょう!
――それでは、ミユウちゃん。本当は、もっとお話をしていたいけれど、お別れデス。うふふっ、目覚めたとき、あなたたちは――あなたも、何も覚えていないでしょう。でもね、あなたには最高の出来事が待ち受けていマス!
――ありがとう。そして、さようなら、デス!」
ワタクシの言葉が途切れるのを待つと、わたしはその場に立ち上がった。
そして仰向けに、後方に倒れた。
学校の屋上の、フェンスの最上部。
この瞬間、わたしはこの場所に座り、ワタクシの発表を聞くことに決めていた。
誰もが携帯電話にしか注目しない中、わたし一人が自席にいなくても、誰も気が付く筈が無いのだから。
わたしの視界いっぱいに、青い空だけが広がった。
今日の空も、快晴だった――
構想から完結まで三日間。
思い描いた結末に向かい、少し急ぎすぎた感が否めません。
拙い文章ですが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。




