ルール2
「代筆を許可することにより、良からぬことを考える方もいらっしゃることでしょう。
『他人からカードを強奪して枚数を増やせば、景品もらえる確率上がるんじゃね?』
『このカード、高く売れるんじゃね?』
などなど。というか、既にあちこちでそんなことが起きているようですけれどね。そんなヤンチャな――わんぱく質を過剰摂取しているような方々に、残念なお知らせです。
まず、このカード。お一人につき、同じ人物の名前は一箇所にしか記名することが出来ません。つまり自身のカードの他に、一枚の代筆をする場合。その方は四十八人の名前を書く必要があるということデス。あらら、結構大変な作業ですね!
『とは言え、カードの枚数が増えりゃ間違いなく確率が上がるだろ』
まだ諦めきれない方々、そんなことを考えることでしょう。そんな皆さんに、更なる悲報です。
このカード、所有者がちゃんと決まっています。ワタクシが最初に配布したその人が所有者なのです。もしも強奪、あるいは購入して手に入れたカードがビンゴになったとしても、残念ながら、景品は本来の所有者の手に入ることとなります。他人のためにわざわざご苦労様。そして、ざまぁ! と、いうことデス」
たしかに、わたしの周囲だけでも、老人からカードを奪うようなわんぱく質過剰摂取者が何人も見られた。
そんな頭の悪そうなやつらがビンゴを達成できるとは思えないし、やはり自分で書くのが一番だろう。
「さて、皆様。ここで、こんな疑問を持ったのではないでしょうか?
『所有者が赤ちゃんだった場合、お願い事はどうなるの?』
と。でも、そこは重ねてご安心を。ワタクシ、バブバブ語も習得しておりますので!」
その場合、『母乳を下さい』『背中を掻いて下さい』などという純真無垢な願いが叶えられそうだ。
それはそれで平和で良いのだが、何だか犠牲者の割に合わないし、ひどく勿体無い気もする。
「――というのは冗談です。そのような場合には、心からのお願い事を言える年齢まで待って差し上げましょう! えぇ、ワタクシ、いくらでも待ちますわ。それこそ本当のババァになるまで。
でも、意識不明の方や、いくら待っても願い事を言うことが不可能な状態の方もいることでしょう。そんな方が景品を獲得した場合ですが――あぁ、ワタクシってば本当に、何て親切なのでしょう。その方が願い事を言える状態にして差し上げますわ!」
意識不明の重体や昏睡状態から、健全な状態に治してくれるってこと?
……ってことは『意識の無い、大切な人を治してもらいたい』という願いを持つ人は、代筆したその人のカードがビンゴになれば、願わなくてもその願いが叶う、ということか。
「さらに重要なルールをお伝えします。もしも記名しなかった場合、そのマスはどうなってしまうのか。ただの空欄のままで、ビンゴゲームを楽しむ権利を失うことになるのでしょうか?
答えはノーです。ノンノンノーン! です。
無記名の場合、そのマスには『所有者の身近な人』の名前が自動的に書かれマス。親、兄弟、配偶者、親戚、保護者、恋人、友達、先生、同僚、上司、かかりつけ医、密かに思いを寄せる人、などなど」
――その場合、密かに思いを寄せられた人は、密かに毒殺対象となってしまうから、何だか気の毒な気もするが……
つまり、ここで無記名という選択肢も与えられたということ。
たしかにこれなら、直接的なワタクシの共犯ではないと主張できるが……でもこれで、ゲームに参加しないという選択肢は無い、ということもわかった。
「それでは、ワタクシからのルールの説明は以上となります。ここからは皆様からの質問コーナーに移りましょう!」
待ってました。――って、どうやって質問するわけ? 挙手すれば良いの?
「はい、タロウくん! えぇと、なになに?
『こんなゲームに巻き込まれるのが嫌なので、自ら命を絶とうと思いマス。その場合、ボクの名前が書かれたマスはどうなるのデス?』
あらまぁ、良い質問デス。自殺の場合の取り扱いですね? タロウくんの名前が書かれたマスにバツ印が付与されるのか。さらには、もしもタロウくんが景品を獲得した場合どうなるのか、というのも気になるところですね」
何だろう、急に一人二役の茶番が始まりましたが?
もしかすると国民の心を読んで、最も多い質問を選んだのだろうか?
いや、その場合は『このババァはどこの誰?』という質問が選ばれるはずだ。
「はい。まず、自殺の場合でもその人のマスにはバツ印が付与され、有効マスとなりマス。そしてそして、例え自ら命を絶ったとしても、その死の原因となった人物も必ずやいることでしょう?
タロウくんの場合、このゲームが原因と言うことなので、そのマスを選択すると原因者であるワタクシの素性が明かされることになります。――きゃっ! やだ、ワタクシのボンキュッボンなスリーサイズが公表されちゃう!?
――もしも自殺の原因がいじめや人間関係の場合。はい、原因者を全員明かしてやりましょうぜ! いじめ、ダメ、絶対!」
これは、いじめが減るのか――それとも、逆に自殺志願者が増えるような気がしてならないが。
「そして、タロウくんが景品を獲得した場合ですが。ワタクシ、願い事を言えない状態の方は、言える状態にして差し上げると言いましたね? はい、つまり、そういうことデス。言わなくてもわかるでしょう?」
わかったけど……生きるのが嫌で自ら命を絶ったのに生き返らせるって、空気読まなすぎじゃない?
それとも、そうか――生きる希望を与えてくれるのですね。わかりました。
「続きまして――はい、ハナコちゃん!
『ところで、ミコちゃんをいつまで殺しておくのですか? 可哀想で見ていられません』
……はっ! わ、忘れてた訳じゃ無いからね? しかも映像もずっと変えないまま……でも、ほら、物事にはタイミングってものがあるでしょう? ね?
――では、約束通り生き返して差し上げます。はい、ラッキー!」
雑な復活の呪文と共に『パチン』と、またも指を鳴らす音が聞こえると、すっかり見慣れてしまったミコちゃんの絶命顔がピクリと動いた。
真っ赤な血溜まりはそのまま、顔面に付着した血もそのまま。
ミコちゃんは目をパチパチとさせると、血まみれの上半身を起こした。
『……え?』
何が起きたのか、本人だけがわかっていないようだ。
画面は久しぶりに、真っ青な空を背景とする、何やら慌てた様子のワタクシの姿へと変わった。




