一人目
大型ビジョンには、スタジオのゲスト席に着座しているミコちゃんの姿が映し出された。
『え……? な、何ですか、これ? ……まさか、ドッキリ?』
番組によるドッキリを疑っているのだろうが、その顔はお茶の間に晒してはいけないくらいに引き攣っている。
「苦しいのは一瞬デス。それに、すぐに生き返らせて差し上げますから、我慢して下さいね! ――あぁ、ちなみにですが。今この瞬間から、カードにはミコちゃんの名前を書くことはできません。それはそうですよね、チャンスマスは真ん中のワタクシだけですので。
それと、記名ですが。フルネームでも愛称でも、その人だと判別可能であれば何でも構いません。今回の場合は『ミコちゃん』『ミコアナ』『ポッチャリの、あの、女子アナ』などなど。ちゃんとワタクシが読み取って差し上げますのでご安心を!」
同姓同名の場合はどうなるのだろうか?
その人が誰を思い描いて記名したかを読み取れる、とでもいうのだろうか……それも、国民全員の――
「それでは記念すべき毒殺――一人目、デス!」
『パチン』と、指を鳴らす音が聞こえると、ミコちゃんが両手を口に当て、咳き込み始めた。
すぐに、その指の隙間からは大量の赤い液体が流れ始める。
目の前の真っ白い机の上には、あっという間に真っ赤な血溜まりが出来た。
そして次の瞬間、何の支えも無く派手な音を立て、ミコちゃんの顔面は血溜まりに不時着した。
大きく目を見開き、ひどく歪んだ顔が映し出されたまま、ミコちゃんの時は完全に停止した。
「あらあら、お顔に傷を負ってしまいましたか。その傷も直して差し上げますから、ご安心を。――とは言え、ここですぐに生き返らせて茶番と思われるのも心外ですので。申し訳ありませんが、今しばらくはこのままで我慢して下さいね!」
スタジオの中からは『きゃーっ!』という女性の悲鳴、そして『カメラ、何してるんだ、早く止めろ!』『カメラの映像じゃ無いっすよ!』という喧騒が聞こえる。
周囲からも、いくつもの悲鳴が上がり、中にはその場に嘔吐する人の姿も見られた。
「惜しい人を亡くしました――と、いうことで。このようにワタクシが毎日、皆様を毒殺していきます。そして次に気になるのは、その頻度ですよね?
一日に一人――とすると、一年に三六五人もの犠牲者が出るわけですが。でもでも、日本国籍を持つ人は一億人以上いるのです。みんながみんな、同じ人の名前を書くとは限りませんよね? ゲームが長引くことも予想されます。それこそ、一年では終わらない可能性も考えられるのデス」
ただの確率で言えば、カードに書かれた人が毒殺される確率は、およそ一億分の二十四。
しかも、一列が揃う必要もあるわけで、その確率はさらに天文学的なものとなる。
――とは言え、誰もが有名な人の名前を書くことだろう。長引くよりも、四日後に終了する可能性の方が高いのではないだろうか?
「ですので。誠に勝手ですが、一日に一人ずつ、その数を増やしていきたいと存じます。つまりは至極単純で、経過日数と毒殺される人数が一致するということです。一年後は――わかりますね? そう、三六五人の方が毒殺されるのデス!」
つまり、一年後に築かれる死因毒殺の死体の山は……初項が一で末項が三六五、項数が三六五の等差数列の合計だから……三六五に三六六を乗じて二で割って……六万と、六七九五人。
かなりの大虐殺となるが、やはり一年もゲームが続くとは考えられない。
「さらにさらに、何という親切設計でしょうか。皆様に、景品を獲得できる確率を高める手段を差し上げますわ!
ワタクシが毒殺した方以外にも、たった今このときから、殺害された方の名前も有効とします。毒殺との区別をつけるために、ワタクシ以外の方に殺害された人のマスには、バツ印を付与することにしマス!」
……は? まさか、景品目当ての殺人事件を助長するとでも言うの?
「とは言え、さすがに快楽犯の自慰行為を簡単に認めるつもりはございません。ですので、ここに条件を二つ加えます。
まず一つ。ビンゴに必要な毒リンゴを三つとします。つまり、一列五箇所のうち、最低三個の毒リンゴが必要。二個はバツ印でも構いません、ということデス。
そしてもう一つ。バツ印が付与されたマスを選択することで、殺害した犯人の素性を特定できるようにして差し上げマス。身体的情報、本名、住所、もちろんお顔も晒して差し上げましょう!」
つまり、ビンゴとなる確率が上がる代償として、逮捕される確率が限り無く上がるということか……
これって、上手く利用すれば国内で発生する犯罪が無くなるのでは?
例えば、日本国籍を持つ全ての人の名前がいずれかのカードに書かれてさえいれば、日常の殺人事件の犯人を特定できて、確実に逮捕できるのだ。
ビンゴには毒リンゴが三つ必要だし、迂闊に殺人を強行することも出来ないだろう。
「警察の皆様も、このシステムを使えば犯罪件数がぐっと減りますのに……これを機に導入を検討してみては?」
いや、出来るなら間違い無くやっているでしょ。
それに、誰かが世界平和を願ってくれさえすれば、そんな検討も不要になるだろう。
「ここからは、記名に関する重要なルールをお伝えします。皆様の中には、どうしても記名することが出来ないという方もいらっしゃることでしょう。
何故なら、記名するということは、その人を毒殺対象に加えてしまう、ということ。つまり、ワタクシの毒殺に荷担したことになるのですから。共犯者、ということですね」
たしかに、生き返るとは言っても、ビンゴとなったその列に書かれている四人に限るのだ。
無責任に記名するな――そう言いたいのだろうが、その割に二十四時間という期限付きの鬼畜設定ではないか。
平和にこのゲームを終わらせる方法は、善良な主導者が、書く名前と書く場所を指定することだろう。
とは言っても、誰を犠牲にするかを二十四時間以内に決めることは困難を極めることだろう。
それこそ、偉い人たちが自らを犠牲にするしか……ん?
例えば、死刑が決まっている死刑囚の刑期を早めれば良いのでは?
でも、毒殺という刑を受けた死刑囚が生き返って……その場合、もう一回死刑されるのかな?
もしかすると『死刑は一度まで』という法律が新たに生まれるかもしれない。
「皆様。記名の期限、二十四時間がいかに短いか、段々とわかってきましたか? ちなみにですが、既に死期が確定している人の名前も、書くことが出来ない仕様となっております。死刑囚、余命僅かな方々が該当しますね」
なるほど。じゃあやっぱり、偉い人たちが尊い犠牲になるしか……
「それから、そもそも物理的に記名が不可能な方もいらっしゃいますよね? 例えば、赤ちゃんとか、意識不明の方とか。――ですので、カードへの代筆を許可しましょう!」
えっと、それを許可してしまったら大変なことになるのでは?
確率を高めようと、悪い人たちが悪い方法で手持ちのカードを増やそうとするのではないか。
それこそ、自らのカードに多くのバツ印が付与されるような方法で……




