ルール1
いや、待ってないし。たしかに説明は必要だけど、まずはこの状況を説明してもらいたいのだが。
「まず、真ん中のマスには自動的に、ワタクシの名前が入りマス」
すると、真ん中のマスにはすぐに『ワタクシ』という文字が浮かび上がった。
いや、あなた、ワタクシっていう名前なの?
自分を含む周りの数名が『ワタクシ』につっこみを入れていた。
だがそんなつっこみには触れることなく、説明は一方的に続けられる。
「と、いうことで。皆様が記名するのは、残りの二十四マスです。期限は明日のこの時間、つまり二十四時間です。長いようで短いこの時間、寝る間も惜しんで考えて下さいね!」
二十四時間? やけに長い……というか、まさか記名を終えないとこの画面が表示され続けるとかやめてよね?
「さて。通常のビンゴですと、数字の書かれたボールを取って、その数字が書かれたマスを折ったり、印を付けることでしょう。そして、一列で四箇所揃えばリーチ、五箇所揃えばビンゴ! となります。
ではでは、このゲーム。ワタクシが全国一億人、皆様の名前が書かれたボールを取るのでしょうか?
答えはノーです。ノンノンノーン! です。
――ワタクシ、これから毎日、皆様を殺します。毒殺デス!」
……はい?
この人、何を言っちゃってるわけ? 警察の人も、偉い人も全員、これ見てるんだよね?
「毒殺された人の名前が書かれていたらラッキー! そのマスに毒リンゴマークを付与して差し上げマス。ほら、こんなマークですよ。可愛いでしょう? ね?」
ど真ん中、ワタクシと書かれていたマスには、紫色のリンゴのイラストが浮かび上がった。
毒リンゴ……毒ビンゴ……なるほど、何やらかかっているのだろうか。
「毒リンゴが縦、横、斜め、いずれかの列で五個揃えばビンゴ! そう、これが毒リンゴゲーム! ……失礼。毒ビンゴゲームなのです!」
紛らわしくて自分でも間違えてるし。
つまり、最低でも四人が毒殺されるってこと? ていうか何でこの映像、止められないわけ?
わたしもさっきからずっと、携帯電話の電源を何度もオフにしているのに、それはできなかった。
「さて。皆様そろそろ我慢が出来ない頃合いですか? 一番重要なあの情報が未だ出ていませんものね?」
そうですね。あなたが誰で、何故、どうやってこんな事をしているのでしょうか。
「そう、景品デス!」
……そうですね。
「ワタクシ、ありとあらゆる景品を考えました。皆様が何を貰ったら嬉しいか、何をされたら嬉しいか。しかも、景品によっては皆様、やる気が出ないかもしれませんよね? 景品がこのゲームの命運を握っていると言っても過言ではないでしょう。
ちなみに、上位何人まで景品が貰えるの? そこも気になるところでしょう。でもでも、そこはまず皆様の期待を裏切ってしまうかもしれません。なぜなら、景品を獲得できるのは一番最初にビンゴとなったお一方のみなのデス!
――あら、あらあら? ケチババァだなんて、そんな酷いこと言わないで! 景品を聞いたら誰もが納得しますから、ね? ババァ、早く教えろ? うんうん、わかりマス。いえ、決してババァではありませんが。
はい、それでは景品を発表します。なんとなんと、すっごぉいのが二つもあるのです! その、景品とは――」
ドラムロールが鳴り始めた。
ビジョンに映る女性の口許には、うっすらと笑みが浮かんでいる。
自らババァネタを使い始めたが、その見た目は全くもって年齢を推測できるものではなかった。
覆われている部分が大きいが、幼く見ることもできるし、ババァに見えないことも無い。
「どんな願いでも一つだけ叶えて差し上げます! あと、ビンゴした列の人間を全員、生き返らせます! 以上デス!」
はい、先生。言っていることが全然わかりません。
いや、わかるんだけど、何を言っているの?
五個の毒リンゴを集めればどんな願いも叶うってこと? ていうか、毒殺された人が生き返るって言うのも意味がわからない。
「おや……何でしょう、盛り上がりに欠けますね。ここは『イエーイ!』って、ぶどう酒で祝杯をあげるところでしょう?」
ぶどう酒で祝杯? なにこの人、異世界から来たとか?
「もしかして……嘘、でしょ? ……まさか、ワタクシのことが信じられないと?」
はい。まさかも何も、誰一人、一ミリも信じていないと思います。
「……仕方ありませんね。百聞は一見に如かず、ということで。おそらく皆様、『やって見せろ』『証拠を見せろ』とでも思っていることでしょう。特別に、皆様のその願いを叶えて差し上げることにしましょう。
これから記念すべき一人目を毒殺して、でも、今回ばかりは生き返らせてあげます!」
ビジョンに映る女性の手元には、いつの間にか携帯電話が握られていた。
口許に笑みを浮かべながらその画面を一瞬だけ眺めると、すぐにカメラ目線に戻る。
「皆様の中には、すでに記名を終えている方もいるようですね。全てを埋めていなくても、数人の名前を書いた方も多くいるようです。ちなみに、一度記名すると削除できませんし、位置も変えることができませんので留意願います。
――え? それは先に言うべきルールだろうって? えぇ、さすがのワタクシも弁明できません。ワタクシの美しさに免じて許してネ!」
女性は、両手の人差し指を両頬に付けるという可愛い仕草を見せた。
だが、誰も何の反応も見せない。どうやらワタクシは空気を読むのが苦手らしい。
「……ちなみに、これから言うルールも非常に重要なものです。これは忘れていたのではなくて、これから言おうと思っていたルールですからね?
皆様が記名できるのは、実在する人間だと言いました。そしてそれは、日本国籍を持つ、今時点で生きている人間に限ります。皆様の中には、外国籍の有名人、歴史上の人物、あるいは空想の人物を書こうとした方もいるかもしれません。でも、それは出来なかったでしょう? ちゃんと、ルール外のことは出来ない仕様となっているのでご安心を。
カードに記名された人全てが、ワタクシの毒殺対象です。では、その中から誰が毒殺されるのか――えへへ、気になっちゃいますよねぇ?」
お嬢様口調だったのが、急に少女のようなしゃべり方に変わった。どうやら情緒も不安定なようだ。
「それは――『より多く名前を書かれた順』デス。つまり、知名度の高い人ほど毒殺される確率が高いのデス。ご愁傷さま、デス!」
たしかに有名な人ほど、その名前を知られているほど、書かれる確率が高い。つまり、毒殺される可能性が高い。
……ということは、早くビンゴとなるには、より有名な人の名前を書く必要があるということか。
って、これこそ早くいうべきルールじゃない? しかも、すでに書いた名前は消せないって……クレームが殺到しそうだ。
「では毒殺の実演に戻りますね。現時点で最も多く記名されている人、それは――あら、残念。有名だし、さっきまでテレビに映っていましたので、仕方ありませんかね?
はい、人気女子アナのミコちゃん、デス!」




