お菓子を寄越せ。
ぎりぎり間に合った?
降魂祭一日目、子どもの日。
この日、外を出歩くのはお菓子を貰う子どもと付き添いの保護者だけで、いつも大勢の人が賑わう王都のメインストリートがしんと静まり返っている。
各家でお菓子を焼いているせいかあちらこちらから甘い匂いが漂っている。
その昔、一人で死後の世界に帰る事を寂しいと思った子どもが誰でもいいからと死の歌を歌って魂を連れて行こうとした。
魂の代わりにお菓子を差し出したことにより、子どもの日にお菓子を用意することになったそうだ。
いつしかお菓子を貰ったお礼に歌を捧げるものに変化していったらしい。
そんな豆知識を移動中にディノさんが説明してくれる。
私たちはフラヴィオさんが用意してくれたリストに従いすでに何軒か巡っていた。お菓子を強奪するというディノさんの言葉通りレモン、ココア、ピンク、ナッツが人型でお菓子を根こそぎ貰っている。
そもそも子どもが少ないから数を用意していない家が多い。それなのにお菓子を奪われた家はたくさん子どもが来た! となぜか喜んでいた。
「♪.・♫・°・*..♪・°.・°*・.♪」
「ふぁーん」
みんなで手を繋いで幸せを願う歌を歌う。最後の締めはナナの一鳴き。
ナナは上手く動けないから熊の姿のまま私の肩に乗っている。ピカ〇ュウかな?
「いやぁ素晴らしい歌だったよ! ありがとう!」
両手を広げ大袈裟に喜びを表現しているのはこの家のご主人。確か名前は……
「アダーモ・コリファンタ。元気そうですね」
「ぴぃ! ディ、ディディディッ、ディノォ?!」
突然背後から現れたディノさんに肩を掴まれたアダーモさんが奇声を上げている。
ディノさんは家が近づくと隠れて、のこのこと出てきた目的の人物と話し合いという名のお説教をしている。
「いつも面会できないほど体調が悪いと伺っていたので本日はお会いできて良かったです」
「おおおお俺が悪かったから宰相モードで話しかけないでくれ!」
「仮病とはいい度胸ですね」
「ひぃぃ、肩ぁ、肩砕ける!」
この人は体調不良で仕事を休んでいた。先程回った家の人達もこんな感じ。みんな仮病だった。
しかもこの国の重要な役職についている人なので、休むと仕事が滞って大変らしい。
子どもがたくさん訪ねてくるという珍しい状況に、使用人含め家人全員が外に出てきて歌を聴いてくれる。そこを利用してディノさんがいつものらりくらりと逃げている人を捕まえるのだ。
そして説教後、毎回高級そうなワインやらお肉の塊を相手から奪っている。
「だって百七十年も働き詰めなんだよ?! 三十年くらい休んでもいいじゃん!」
「プライドを捨てて後任を育てればいいだろ」
「え、ヤダよ。僕の席無くなっちゃう」
「そんなの知るか。いい加減仕事をしろ」
「ちょ?! 待って。それだけは持っていかないでぇぇぇぇ!」
◇
最後のフラヴィオさんのお家に来ました。高すぎる塀に強固な門、門と屋敷の間に噴水があるよ。屋敷より宮殿と言ったほうが遜色ないほど豪華な作りだ。フラヴィオさん何者。あ、お父さんが凄いのか。
フラヴィオさんのお父さんとお母さんはとても優しそうな人だった。お父さんはツリ目だったけど。なぜフラヴィオさんがあんなに眉間にしわを寄せるのか不思議なくらい。
ただ、私を見ながらどこか悲しそうに微笑み「髪の色がそっくり」「成長したらこうなったのだろうか」なんて言っていたとは知る由もなかった。
「♪.・♫・°・*..♪・°.・°*・.♪」
「…………」
歌を歌ったのにナナが締めの一鳴きをしない。
不思議に思っているとココアが繋いでいた手を少し引っ張った。
「ナナが少しの間、身体を貸してほしいって。伝えたわよ」
「え。いいけど、どうし……!」
ぐらりと意識が沈み込むような感覚。自分の身体なのに突然金縛りにあったみたいに動けない。ガラス越しに外を見ているような不思議な感じ。
口が勝手に動き出した。
「お……お父さま……お母さま、
お菓子をありがとうございます。これで充分。
リアはたくさんの姉妹に囲まれてとても
幸せだから安心してね。
ヴィオ兄さまも前みたいに笑ったほうがいいわよ」
ナナ?! あなた一体何者? あ、だめだ。意識が遠のく…………。
◇
「重い」
目が覚めるといつもの私の部屋に寝ていた。重みの原因はお腹の上に乗っている熊の姿のナナだ。
体全体を預けて寝てくれれば大したことないのに、お腹の上に四本足で乗っているから足がお腹に突き刺さっている。重い。遠回しに腹筋を鍛えろってこと?
「ふぁー。やあ、やぁぁ」
何か訴えかけてきているけどわかんない。それより前足! 心臓を圧迫してるから!!
右側からピンクの声が聞こえてきてナナの心情を通訳してくれた。
「身体を貸してくれたことへのお礼と倒れたことの心配をしているよ! ね、ナッツ」
「ええ。いくら同意の上といっても精霊に乗っ取られるのは負担が大きかったようですわね」
目線だけ動かすと右隣にピンクとナッツが寝ころんでいた。
左隣はココアとレモンだ。
「セイラ寝過ぎ。あなたが起きなきゃ誰がココアの髪を結うのよ?」
「こう言っていますが、一番オロオロしていたのはココアなんですよ」
「レモン、うるさい」
君たち仲良いね。
みんなにその後のことを聞くと、私はまるまる三日寝ていたみたい。降魂祭が寝ている間に終わってしまった。花火観たかったな。
あの日の私の発言は、降魂祭の子どもの死者が帰ってくる日だった事もあり「娘が帰ってきた」とフラヴィオさんのご両親は泣いて喜んだんだって。なんでそんなあっさりと信じたかというと「ヴィオ兄さま」呼び。人前ではお兄様呼びをしていて家族の前でしか呼んだことがなかったそうだ。
しかも普段私がフラヴィオさんの名前をちゃんと発音できないことも決め手になったと聞いたときは、自分の恥をさらされたようでちょっと悔しい。
お腹の上のナナを撫でながら問いかける。
「ねえ、ナナ。あなたもしかしてフラびオさんの妹さん?」
「ふぁーあん」
「誰か通訳お願い!」
「精霊の秘密です。レモンたちはそろそろセイラの中に戻りまーす。あ、枕元にお手紙ありますよ」
レモンの一言でみんなが私の中に入っていく。
なんかうまくはぐらかされた感じがするけど、ナナがおしゃべりできるようになったら聞けばいいよね。
手紙があると聞き起き上がって確認したら、一輪のバラの下に手紙が置いてあった。
手紙の差出人はディノさんで、私の体調を心配する旨と今日はお仕事を早めに切り上げて帰ってくる等書かれていた。最後には愛の言葉付き。
初めてもらったラブレターにちょっと興奮していると文面の最後に小さくハートマークがついているのを見つけてしまった。
あれ? こっちにハートマークないってトゥナさんが言っていたはず……ま、まさかディノさんはハートが何か知っているってこと? え、どうしよう、クッキーの時もディノさんにバレてたの? どんな顔してディノさんに会えばいいんだろう。ものすごく恥ずかしいぞ。
だが私はハートのことに気を取られていてまだ知らない。
ナナに身体を貸したあの日のことが王都中に広まり「降魂祭の奇跡」「死者の日が聖なる日になった瞬間」などなど話題になりそのうち絵本になる事を。
そしてその絵本にヴィの発音ができない女の子が主人公になり、そのモデルになった私自身も有名になってしまうことを。
コンビニスイーツがハロウィン仕様でハロウィンのことを思い出し唐突に書き出した結果がこれです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
またどこかでお会いできたら嬉しいです。




