ハロウィン?七夕?死者の日?
この話で北海道の七夕の話が出てきますが、あくまで一部の地域の話ですので道民全員がやっているわけではありません。あと地域によって歌の内容等、微妙に違うのでこれが正しいという訳じゃないです。
あらかじめご了承ください。
時代とともに変化し消えゆく祭りがあるんだよとどこかに残したかっただけなんです。
なぜそこで異世界の話に入れ込むのかというツッコミはなしでお願いします。
ロウソク出ーせ 出ーせよ
出ーさないと かっちゃくぞ
おーまーけーに 食いつくぞ
数十年ぶりに心の中で歌ってみたんだけど、意外と覚えているものだ。
私が前世住んでいた地域で、八月七日の七夕の日に提灯を持ちながら各家を練り歩き、先程の歌を歌ってお菓子をもらう七夕のイベント。
ロウソクを出せと言いつつ、本当にロウソクを出す家は子どもの情報伝達能力の高さであそこの家は近寄らない方がいいとあっと言う間に広まる。
ちょっと豪華なお菓子を出そうものなら、子どもが押し寄せるハロウィンがくっついたようなイベントだ。
私が卒業してから、子どもが夕方から夜にかけて歩き回るのは危険と苦情が入ったとかで、学校や広場などで一斉にお菓子を配るイベントに変わったらしいのよね。
まあ、地域特有の七夕のことを知らない内地から引っ越して来た人に子どもが暴言を吐いたとか、何度もチャイムを押して迷惑をかけたとかいろいろあったみたい。
なぜこんな事を思い出したかというと、ディノさんのお屋敷にフラヴィオさんがやってきたことが発端だ。
しかも夜中に突然。
「帰れ」
「ディノさん、とりあえず玄関じゃなくて応接室に移動しませんか? ね?」
不機嫌を通り越してすでにお怒り中のディノさんをなだめていると、相変わらず眉間にしわを寄せたままのフラヴィオさんが爆弾発言をした。
「イラ君、次の降魂祭で私の妹になって欲しい」
ブチィっと何かが切れる音がした瞬間ディノさんの魔力が膨れ上がる。
あ、これ確実にヤバイやつ。
咄嗟にディノさんに抱きつく。
「ディノさん、ディノさん。落ち着いて下さい。今日はトゥナさんに教えてもらってクッキーを焼いたんです。ディノさんのために紅茶も私が淹れますから」
「…………俺のために?」
「ディノさんのためだけです!」
爆発しそうなぐらい膨れ上がった魔力が霧散していく。
フラヴィオさんをかばうとディノさんが暴れて手がつけられないから意識そのものをそらせ、とリッカルドさんが教えてくれていた。
まさか役に立つ日が来ようとは。
◇
あれから応接室に移動してディノさんのために紅茶を淹れ、昼間焼いたクッキーを添える。
お向かいのソファにフラヴィオさんが座っているが、彼の分の紅茶や茶菓子はエマが用意してくれた。
紅茶はエマが淹れたほうが美味しいんだけど、ディノさんは私の淹れた紅茶を上機嫌で飲んでいる。
「とても美味しいよ。セイラ」
「よかったです。クッキーも食べてみてください」
前世の私だったらキャラじゃないから無理! って突っぱねるお菓子作り。トゥナさんは「花嫁修行だよ」といろいろ教えてくれるから前世より明らかに女子力が上がっている。
気分が大きくなってハートのクッキーにしてしまった。
こっちにハートマークないみたいだしいいよね。
ディノさんはクッキーを手に取りまじまじと見つめた後、クッキーにチュっとキスをしてから口に入れた。しかも私を見ながら。「今まで食べた中で一番美味しい」と言ってくれたのはとても嬉しいが、なぜキスをする。毒見? 見てるこっちが恥ずかしい。
と、とりあえず話を聞こう。
「ディノさん、こうこんさいって何ですか?」
「降魂祭。別名死者の日。死後の世界から死者が現世に帰ってくる日だ。計三日開催されて一日目は子どもの死者が帰ってくる日で、二日目は大人の日、最終日の三日目は死者を天に送る日で、各地で花火が打ち上がってとても綺麗なんだ」
日本でいうお盆かな。
フラヴィオさんはこくんと紅茶を一口飲むと、眉間のしわを少し緩めてディノさんの言葉に続けるように口を開いた。
「特に一日目の子どもの日は、各家庭が手作りのお菓子を用意して子どもに振る舞い、お菓子を貰った子どもはお礼に歌を捧げる。イラ君も一日目の子どもの日にお菓子を貰いに行かないかい? ついでに我が家にも寄ってほしい」
「てめぇ、それが目的か。勝手に来やがっていい迷惑だ」
「閣下が魔王城でわたしの話を聞いていただければ、お邪魔するつもりはありませんでした」
「帰れ」
「嫌です」
何やら言い合いを始めたディノさんとフラヴィオさん。それより私はお菓子を貰って歌を捧げるという言葉に、ハロウィンに似てるなと日本での事を思い出し冒頭に戻る。
「閣下。子どもの日にイラ君を連れてきてくれたら外務大臣をしていた父を仕事に復帰させましょう」
「…………」
その言葉にディノさんが黙った。
「ふらヴぃおさんのお父さんはケガとかでお仕事お休み中なんですか?」
「イラ君、発音が……今はいい。この国では子どもを身ごもると夫婦そろって育児休暇を取得するんだが、その期間は約百年」
「百年?!」
「子どもの魔力が安定するまで心配で仕事が手につかない親が多いんだ」
フラヴィオさんの話に驚きを隠せない。
もしかしてカクタス国が万年人手不足なのってこれが原因なんじゃないのかな。日本で言うなら子どもが成人するまで仕事を休むってことだよね?! うらやまし……じゃなくてこの話にフラヴィオさんのお父さんと一体何の関係が……?
「子どもが亡くなった場合もちろん休暇はなくなるのだが、心の傷を癒すためといって百年きっちり休む者がいてね。恥ずかしい話、わたしの父もそれだ」
ますます眉間にしわを寄せフラヴィオさんが、最後のほうの言葉を特に苦々し気に呟いた。
リッカルドさんがフラヴィオさんは魔力暴走で妹を亡くしているって言っていたことを思い出す。
家族の死に直面した時どのくらいの期間で心の傷が癒えるかなんて誰にもわからない。一生癒えない場合もあるだろう。
それでもフラヴィオさんは私が魔力暴走する可能性を危惧し強制的に枷をつけたりして真面目過ぎるほどに仕事に取り組んでいるのだから、いつまでも休んでいる父親にもどかしい気持ちを抱いているのかもしれない。
あれ? そういえばフラヴィオさんと話しているのにディノさんがずっと黙ったままだ。
首をひねってディノさんを見たら、あごに手を当てて何やら思案してた。考え込んでいるディノさんもかっこいい。
「コリファンタ、マミラリア、ツルビニカルプス…………ああ、ゲオヒントニアの野郎も居たな。人に仕事を押し付けやがって」
ん? かっこいいけど言っている内容が何やら不穏。声も終末の鐘再びって感じに低い。
そんなディノさんにフラヴィオさんは三つ折りにした紙を差し出した。
「リストはすでに用意しております、閣下」
「フラヴィオ、お前これが本当の目的か? 仕方ねぇな。セイラ、悪いが降魂祭の一日目は菓子を強奪しに行くぞ。協力してくれ」
ディノさんのお願いなら喜んで協力するけどお菓子を貰いに行くだけだよね?
「やるなら徹底的にやるぞ」
後悔させてやると不敵に笑っているディノさんはどこかに襲撃しそうな勢いだ。
お、お菓子を貰いに行くだけだよね?!
お菓子貰いに行くまで話が進まなかった。
次で終わるといいな。




