お風呂場でずっと可愛い連呼してる
「おかゆい所はございませんか?」
「とても気持ちいいです。セイラ」
お風呂場で光の精霊サマーレモンの髪を洗いながら美容師さん風に声をかけると、鼻に泡をつけながら笑顔で返してくれた。
「流すからね。鼻で息しちゃダメだよ」
「見ていたから大丈夫ですよ。あ〜〜」
すでに四人分のシャンプーを見ていたレモンが口で息をするために声を出す。
元々体を持たない精霊が体を持つと慣れるまで時間がかかるようで、鼻で息をする、口で息をする等の細かな使い分けが苦手らしい。先程他の精霊の髪を洗った時、鼻に水が入ってピーピー泣いていた。
可哀想だけど可愛かった。カメラが欲しい。切実に。
映像記録用の魔石があるけど高いんだよね。
風の精霊に新しく熊の体を作ったら慣れなくて盛大にテーブルにぶつかり頭から紅茶を被ってしまった。
こうなることを見越して大きさを熊の木彫り大・中・小の大サイズにしておいて正解だった。片手で抱えることができる。
丸洗い決定! 水攻めじゃ! と一緒にお風呂に入りつつ体を洗っていたら「次はココアの番よ」と、闇の精霊のブラックココアが勝手に出てきて、腰に手を当て踏ん反り返っていた。裸で。
一人洗うと自分もやってと他の精霊が順番待ちし始めたから全員泡まみれにしてやったわ。ふふふ。
ココアは何でも自分が一番じゃないとすぐ不機嫌になるし、ちょっとツンデレ入っているのよね。
次に洗った火の精霊ハッピーピンクは、天真爛漫な明るい女の子なんだけど、少々飽きっぽい。今も湯船に浸かるのに飽きたのか泡で遊んでいる。
土の精霊のキャラメルナッツは、何故かお嬢様言葉で性格もおっとり。でも攻撃が一番容赦ないのがこの子だったりする。敵を生きたまま底なし沼に落としたり、ピンクと手を組んでマグマを流したり。
そんなナッツを止めてくれているのがクラゲに一番最初に入ってくれた光の精霊サマーレモン。常に笑顔でリーダー的存在。
体を洗うのもみんなに先に譲って最後になっても文句を言わない優しい子。
精霊一人一人こんなに性格が違うなんて思わなかった。体は作ったけど性格までは決められないから精霊自身の個性なのかな?
あ、新しく家族になった風の精霊、名前はナナカマドに決まりました。ナナと呼んでいる。黄緑色のヒグマ。
人型は中学生くらいの大きさで中性的な女の子にしたんだけど、どことなくディノさんに似ているからまだ誰にも見せていない。
だだだだだって、あの夜ディノさんがいろいろしてくるから!
あちこち触らせてくれたり、噛んでもいいぞと言われた時は躊躇したけど結局噛ませてもらったり……そう、いろいろしました。
同じ事をされ返されたけどね! 恥ずかしかった!!
印象に残っちゃって人型を作るときに多大に影響を受けてしまった。
とにかく! 見た目女版ディノさんみたいになってしまった風の精霊ナナだけど、性格はまだよく分からない。
今だって熊の姿のまま湯船に浮かんでいる花をあぐあぐ噛んでいる。食べているわけじゃなくて食感が面白いんだって。
今は言葉の勉強中で「ふぁーん」「やーん」としか発音できない。レモンたちに通訳してもらっている。可愛いからずっとその鳴き声でもいい気がするけど、人型の時は危ないプレイみたいだからダメだね!
「セイラ、ありがとうございます。次はレモンたちがセイラを洗いますね」
考え事をしている間に、泡を流し終わったレモンが後ろにピンク、ナッツを従えて手をわきわき動かしている。
ココアはナナが邪魔しないように抱っこしているけど、顔は「参加したい」ってうずうずしてるの丸わかりだよ。いや待って? 幼女に抱っこされている子熊っていうのもなかなかイイわね。両方可愛い。
いやいや、それよりもみんなに洗ってもらうとくすぐったいんだよなぁ。笑っちゃって洗い終わるころにはへとへとになってしまう。
「お嬢様。もう一時間以上もご入浴されてますが、そろそ……あなたたち何をしているのですか?」
お風呂場にエマが入ってきた。レモンたちが人型で外に出ているのを見つけ、柔らかな雰囲気から氷のように鋭い雰囲気に即座に変化した。
「あら、エマにみつかってしまいましたわね。困りましたわ」
「逃げる?! 戻る?! 泡を投げつける??」
口では困ったと言いつつ態度はどこか楽しそうな土の精霊ナッツの言葉に「あ、これはふざけても大丈夫なやつ」と判断した火の精霊ピンクが泡を目いっぱい手に取りぴょんぴょん跳ねている。転んじゃうからやめて。
「ピンク、泡を投げつけてはダメですよ。お説教になってしまいます」
みんなのリーダー的存在。さすがレモン!
「勝手にお嬢様の中から出て好き勝手している時点でダメです。お嬢様もお嬢様です。精霊の主たるもの毅然とした態度で間違いを正さなければいけません。ただでさえレモンたちは人型時の力の使い方がなっていないのに、イセリア領で森を消滅させたことをお忘れですか。それにお嬢様は肌が乾燥しやすいのですからあまり長いご入浴は……」
エマがお説教モードに入った。少しでも反論しようものなら十倍になって返ってくる。いつも私は自主的に正座してエマの怒りが過ぎるのを待つんだけど、お風呂場の固いタイルの上での正座は足へのダメージが半端ない。
エマごめんね! ずるい手を使います。
「へっくしょん。エマ、寒いから湯舟の中に入っていいかな?」
「! ……気づかず申し訳ありません。風邪をひいては大変ですからゆっくり体を温めて下さい。さあレモン、ココア、ピンク、ナッツ、ナナ。あなたたちはエマと共にお風呂から出ますよ」
「えー」「いやよ」「まだあーそーぶー」「むぅ」
「やぁぁぁあ」
わざとらしいくしゃみにエマが騙されてくれた。エマの発言にレモンたちが不満の声を上げているけれど、みんな一斉にしゃべりだすから誰が誰かわからない。でも最後の叫びは熊のナナなのはわかった。
「エマも一緒にお風呂に入ろうよ。久しぶりにエマの体洗ってあげる」
「お嬢様?!」
王都に来てから食事もそうだけど、お風呂も最近一緒に入っていないことに気づいた。特に精霊たち全員と一緒に入ったことがない。
お風呂は一人でゆっくり入りたいがたまにはみんなでわいわい入るのも悪くないだろう。
だが、エマに告げたこの一言が私を追い詰めることになる。
「俺とも一緒に入ろうか。セイラ」
普通の状態で聞くその声は低い声が耳に心地よく安心させてくれる声色なのに、今はお風呂場に反響し、まるで世界の破滅を伝える終末の鐘のように重く響いてくる。
「ディッ、ディッディ、ディディディッディ、ディノさん?!」
「ひどくねぇか。俺とは一緒に入ったことがないのに精霊たちとはすでに経験済みとか。なあ?」
「ひぇ」
扉にもたれかかるように立っているディノさんは笑顔だけど目が笑っていない。
ここはお風呂場で、タオルを巻いているとはいっても私は裸で、覗かれていると言ってもいい状況。通常なら怒ってもいいはずなのに、覗いている本人がお怒り中の場合はどうすればいいのでしょう。
「レモンたちは今日はエマと一緒に寝ますのでごゆっくりどうぞ。おやすみなさいませ、ご主人様、お嬢様」
エマが水の鎖を出してレモンたちを拘束し、そそくさとお風呂場から出て行った。う、裏切者ー!!
一歩一歩ディノさんが近づいてくる。
「さて精霊たちともしたことがないことをしようか」
「ま、ままま待ってください。またトゥナさんに怒られます」
「大丈夫だ。トゥナは早寝早起きだから起きる前に移動すればバレない」
「お洋服も濡れてしまいますよ」
「これからセイラが脱がせてくれるから問題ないだろ。入浴後、全身にアターも塗ってやるから俺にも塗ってくれるよな?」
◇
ディノさんとのお風呂はへとへとになりました。笑い過ぎて疲れたんじゃないよ。いろいろです。そういろいろ。
ただディノさんの機嫌が直ったのでよしとしましょう。
アターも塗ってくれようとしていたら、突然ノックの音がしてエマが入ってきた。
「申し訳ありません。お客様が……」
こんな夜遅くに一体誰?
ハロウィンのことを書こうとしていたのにお風呂で終わった。
もうちょっとだけ続くんじゃよ。




