番外編・リューノスケの選択とセイラの本当の父親
ディノ視点です
「イラさん! 僕これから週二でこっちに来られることになったんですよ。学生の間は学業優先でいいって魔王陛下が提案してくれて!」
「こっちでバイトでもするの? よかったね、龍ノ助君」
帰還の儀の準備のためファルコが魔術陣に魔力を注いでいる最中、リューノスケとセイラが別れの挨拶をしていた。二人に割って入りたいがリッカルドとエマに止められている。
結局、リューノスケは術で縛られても記憶を保持したままこちらに来ることを選んだ。
リューノスケの選択? そんなの知るか。それよりセイラだ。
平然と話しているが「今度来るときお金を払うから『きばな』を買ってきてほしい。『くらなま』でもいいよ」と何やらリューノスケに頼んでいる。
やはり日本に未練があるのか。
帰りたいと言われたらどうする? 前世持ちは元の世界に行くことは許されない。そこで未来を変えたり身内に便宜を図る可能性があるからだ。
俺以外に興味を持つのならいっそ異空間に閉じ込めるか。それとも鳥籠を用意して中にセイラを入れるのもいいな。
俺だけを見て、
俺だけに頼り、
俺だけの名を呼ぶ。
その姿は想像しただけで深い悦楽に浸れる。ふつふつと泉のように湧きあがるこの気持ちは何だろうか。これが……恋?(※違う)
考え事をしていたらリューノスケと話を済ませたセイラが駆け寄ってくる。
「もう行くそうです」
「そうか」
当たり前のように手を繋がれたので俺も握り返す。こんな些細なことで嬉しくなる。
リューノスケは光る魔術陣の中心に立っている。
「龍ノ助君も術で縛られるなんて大変ですね」
「実際に縛られているのは俺とファルコとリッカルドだ」
「え?!」
俺の言葉に一気に顔色を悪くさせたセイラに安心させるように微笑みかけた。
「リューノスケはまだ子どもだ。約束させただけで術はかけていない。あとで心変わりした時の為にな。罰を受けるのは俺達でいい。大丈夫だ。死にはしない」
御前試合で優勝したリューノスケは、魔王に「イラさんを助けてほしい」と願った。
その出来事がきっかけでリューノスケを気に入ったファルコが、記憶を無くさず世界を渡れるやり方を教えた。
記憶と魔力を持ったまま世界を渡るのは危険だ。あちらの科学なるものをこちらに持ち込んだり、日本で巨大な魔術を使用したり、こちらの世界の情報を流したりなど罪を犯すと神の御使いにより罰が下る。
ファルコが一人で背負うつもりだったからリッカルドと共に分担した。
その分リューノスケはこちらでこき使ってやるからいいさ。
光に包まれリューノスケの姿が消えた。事故のあった二、三時間後くらいに戻ったはずだ。召喚された時間に戻すほうが簡単だがセイラの死体を見ることになるからな。
「セイラは日本に帰りたいか?」
「向こうで食べたいものはたくさんありますが……私の帰りたい場所はディノさんですよ」
ここまで言われて本能に逆らえず衝動的に唇を奪った。技巧も何もないただの荒々しい口づけ。吐息も漏れ出る声さえも俺の内に収めたい。
このまま全部俺のものにしてしまおうか。
リッカルドといつもは大笑いするファルコに止められたので諦めるしかなかったが。ちっ。
セイラは真っ赤になりながら「ディノさんのバカーーーーっ!!」と可愛らしく怒って走り去った。それをエマが追いかける。
「さて、リッカルド。あの二人の事情聴取の結果を教えてくれ」
「なんだ。人前での熱烈なあれはわざとか。嬢ちゃんかわいそー」
「衝動に任せた結果だ。わざとじゃない」
「それはオレもわかるよ。こうグワッと込み上げてくる時あるよね。我慢できない感じ」
その言葉にファルコを思わず睨む。
わかるならなぜ止めた。
「オレ達がいるのにあそこまでやるのはダメだと思うよ」
人前でいろいろやらかしているお前が言うなと思うがあえて言わないでおこう。
リッカルドは俺達の会話を気に留める様子もなく独り言のようにさっさと話し出した。
「んじゃ、報告。
屋敷で働いていた使用人も何人かはルビーロウの人間が混じってた。で、ディノが一番知りたがっていた嬢ちゃんの本当の父親の件な……」
イセリア領主は八十年前に死んだはずだがその後にセイラの親になることはおかしい。
リッカルドに調査を頼み今日はその報告の日。セイラ本人にさりげなく聞いたら本当の両親について気にしてはいなかったが、なんとなく聞かせたくなかった。
「イセリア領主は記憶の混濁が激しく要領を得なかったが、嬢ちゃんのことは知らなかった。今のローガンに聞いても何代か前のローガンが用意したってだけで詳しくは伝わっていない」
結局分からず終まいか。
「それで、改めて遺体を調べたらイセリア領主の奥方は妊娠していたんだ。中身は無くなっていたけどな。魔力暴走に巻き込まれた時に消失した可能性もあるが、どこかで育てられたかもしれない」
「それだと年齢が合わないんじゃないか?」
俺の疑問に研究者の顔をして聞いていたファルコが「もしかして」と声を上げる。
「魔力を注げばある程度まで育てることはできる。魂がないと結局死んでしまうけどね。だからローガンはふさわしい魂を探してわざわざ異世界人に呪いをかけたんじゃないのかな? 身体は時を止めて保存しておけばいいし。
一から魔力持ちの子を育てられればルビーロウにとっては最高の傀儡だ」
思い出せ。セイラと初めて会ってケガの治療をした時のことを。
確かセイラは何と言っていた?
「前世の記憶は昨日の事のように思い出せるが、この子どもの身体の記憶は思い出せない」
俺の言葉にファルコとリッカルドがこちらを凝視する。
「それ、あの子が言っていたのかい?」
「ああ」
「じゃあ嬢ちゃんは……イセリア領主の本当の娘?」
自分の娘を呪いで殺そうとしていた事実をイセリア領主に伝えてみたい。
だが、これはあくまで仮定の話だ。
確認する術もない。
カクタス国は髪や目の色は親から遺伝しない。先祖に黒髪がいれば金髪同士の両親から黒髪が生まれたりするからだ。
この話は俺達の胸の中にしまうことになった。
「あ〜疲れたね!」
ファルコが両手を天に伸ばし体を反らす。リッカルドは俺を見ながらある提案をした。
「嬢ちゃんの機嫌を直すために何か贈り物をした方がいいと思うぞー」
「その意見はオレも賛成。妻も怒るとずっと覚えてるし、あとからネチネチ言われるよ。そこもいいけど」
「ただし、店ごと買うのはやめとけ」
贈り物か。
友人二人の助言に従い何か贈るとしよう。最後のリッカルドの忠告は余計だが。
セイラのためにドレスを選んでいた時、決めきれなくて店ごと買った事がある。全部似合いそうだったから後悔はない。
王都案内も邪魔が入って途中で終わってしまったし、あそこの店にしよう。
セイラのために何かを選ぶのはとても楽しい。
喜ぶ顔を想像しただけで頬が自然と上がるのがわかった。
天木龍ノ助
高校一年生。真面目。
父は空手の師範代。母は有段者。物心がつく頃には空手を教わっていた。「空手で世界を取れ」という両親からの過剰な期待に反抗したくて進学校を受験した。日本に帰ってからは両親に素直になる。
魔王との約束事をちゃんと守るし、騎士団にも入るよ!
フラヴィオ・ペレキフォラ
騎士団副団長。苦労人。短髪ツリ目。
妹を魔力暴走で亡くしている。生きていればセイラと同い年なので余計に妹と重ねてる。
のちにディノに財務大臣と外交官の二つをやれと無茶振りされる。頑張れ。
↑セイラにお兄ちゃんって呼ばせてディノが嫉妬した結果だからしょうがないよね。
お読みいただきありがとうございます。
番外編は次回で終わる予定です。




