番外編・帰還について
ディノ視点です。
今日も仕事が忙しかった。
俺の仕事中など御構い無しに妃殿下の惚気を喋りに来るファルコ。
アホな事しかしてこない隣国。使えない部下。その他たくさん。
ああ、癒しが欲しい。
早くセイラを俺の補佐として側に置きたいが、トゥナがこの国の常識や歴史を教えてからじゃないとセイラが恥をかくから駄目だとうるさい。
そんなの俺が全部教える。多少俺の都合のいいように歪曲して伝えるかもしれないが。
魔王城のファルコの私室の前にやってきた。
扉に立っている護衛に用件を伝えるとすぐに中へ案内される。
ファルコの結界は強力だから護衛なんかいらないが、魔王というのは体裁にも気を配らなくてはいけないから面倒だよな。
中に入ると、優雅に茶を飲んでいるファルコと、どこか落ち着かない様子で座っているクソガ……リューノスケがいた。
挨拶もそこそこにファルコに低い声で告げる。
「てめぇ、セイラの事を名前で呼んだらしいじゃねぇか」
「ごめんね、つい。悪気はなかったんだ」
「今度俺が妃殿下の名前を呼んでもいいんだな」
「それはダメだ。許さない」
ファルコは即座に魔力を込めて俺だけを威圧してくる。
俺も嫉妬深いがこいつも相当だよな。
近くに座っているリューノスケが猫が毛を逆だてるみたいにファルコの魔力に即座に反応した。
こいつ鍛えれば使える。
魔王の威圧なんて慣れたものなので無視して話を続ける。
「あと勝手に護衛と言ったんだって? 普段お前が過剰なくらいガチガチに防御してんのに?」
「護衛は名目上だけで本当は話し相手になってほしくてね。同じ異世界人として話が合うかもしれないだろ?」
ファルコも威圧を即座に霧散させていつもの雰囲気に戻る。
話し相手ぐらい許可したいが、ただでさえ俺は仕事が忙しく、セイラも教育があり、最近は夜しか会えない日が続いている。
夜中の帰宅になるとセイラ自身が頑張って起きているのでとても嬉しいが、無理をしないで欲しいとも思う。
いや、俺が抱きしめた瞬間安心したように眠りに落ちるセイラもまた可愛い。翌朝悔しがっているらしいが。(証言者エマ)
見たい。記録用の魔石を置くか。
……思考が逸れた。とにかく話し相手になったら余計に時間が取れなくなる。それは嫌だ。
そんな俺の様子にファルコはいたずらを思いついた時のように金目を煌めかせる。
「聞いたよ。今お勉強中なんだろ? 妻もね今この国について学んでいるんだ。元・侍女長のトゥナに頼んで合同でやってもらうのはどうだい?
一緒に城に来ればいいし、教育が終わったらディノの所に行けばいいだろ?」
「ノッた」
ファルコにしては珍しくいい提案をしたと感心する。
そういえばリューノスケの存在を忘れていた。退屈だったろうと思い声をかけようとしたら、平然と茶菓子を食べていた。
日本人は自己主張をしない空気の読める人種だと聞いたがここまでとは。これなら仕事中の邪魔にならないな。ますます部下に欲しい。
「それで呼び出した本当の理由は?」
「リューの検査が終わったから今後の話し合いをしようと思ってね」
俺の問いにファルコがすぐさま答える。自分の話題だと察したリューノスケが居住まいを正す。
リューノスケもイセリア領主とローガンに呪われていた。その呪いはセイラに移ったが、呪いが残っていないか、後遺症がないかファルコ自身が調べていた。
呪いのなくなったリューノスケは魔王への憎悪もなくなり大人しくなっている。
しかし、リューと呼んでいるのか。まあ、日本の名前は呼びにくいもんな。
「検査結果は問題なし。いつでも元の世界に戻せるよ。いつにする?」
「えっと、そんな簡単に帰れるものですか?」
ファルコの軽い口調に、リューノスケが疑問を口にするのが申し訳ないと言わんばかりに喋り出す。
帰還の儀は簡単じゃないがファルコがやると簡単なんだよ。
俺は宰相の皮を被ってリューノスケに話しかけた。
「リューノスケ君。君には二つの選択肢があります」
「?!」
おい、そんなに驚くな。さっきまでの口調は気を許した相手じゃないとやらねぇぞ。
「ひとつ、日本に帰る選択肢を選ぶことです。その際こちらでの記憶と魔力はなくなります。
ふたつ、このまま残ります。衣食住は保証しますよ。その代わり働いてもらいますが。難点は忘れた記憶を思い出せないのでずっと苦しいままですね」
カクタス国での記憶か日本での記憶。どちらを差し出す?
「…………」
リューノスケは悩んでいるのか俯いたまま口を真一文字に結んでいる。
ファルコの話だといくら呪われていたと言っても陛下の命を狙った事、自分の代わりにセイラが死んだ事に負い目があるらしい。
「少し考える時間を頂くことは可能ですか?」
「魔王陛下もご予定があるので一週間程度なら問題ないでしょう」
ただあまり長居すると情が湧いて帰りづらくなるぞ。
「そうそう危険だけど記憶も魔力も返上せず定期的にこっちに来る方法もあるよ! ちゃんと忘れた記憶も返してもらえるしね!」
ファルコの三つ目の選択肢にリューノスケが目を見開き即座に返答する。
「その方法でお願いします!」
「決断早くねぇか?」
思わず素の口調が出るほど驚いた。
「忘れる辛さを知っているのでここでの事は絶対に忘れたくないんです。でも、両親の記憶も思い出したい。ワガママだってわかっていますが危険でもそっちのほうがいいです」
決意が固いのかその目には力が宿って爛々と輝き出した。
ファルコもその表情を見て満足げに頷く。
「あ、危険っていうのはね、魔力を持ったままだと無駄に長生きするから、友人とか恋人とか先に見送る辛さに心が耐えられないかもしれないよっていう危険ね」
日本で歳を取らずずっと若いままだと怪しまれるから魔術で変装しなければならず、誰にも打ち明けることはできない。
そして平均寿命分暮らしたあとはカクタス国にずっと住み続けることになるなど注意点を説明していた。
そして約束事を破らせないように術で縛るとも。
「ある意味また呪いに似た術をかけられることに抵抗はないかい? 時間はまだあるからゆっくり考えてね」
「はい」
そう言うとファルコは指を鳴らしリューノスケの姿を消した。
魔王城の一室に用意されているリューノスケの部屋に移動させたのだろう。
「どんな選択をしても後悔だけはしてほしくないね」
「ああ」
ファルコの言葉に曖昧に返事をする。
どの選択肢を選ぶかはあいつ次第だが、選択肢によってはリューノスケは日本に帰る。セイラが帰ることができない故郷に。
セイラも帰りたいと言い出したらどうしようか。
リューノスケの選択の結果よりそちらの方が気になった。
トゥナ・ロフォフォラ
八百歳越え。魔王城の元・侍女長。マナーに厳しい。
侍女時代、果樹園の主の夫と知り合い恋に落ち結婚。子が出来にくいカクタス国において
一人産めば、よく頑張った!
二人目→すごいな!
三人目→き、奇跡だ。
四人目→か、神?
と、言われる中で四人産んでその全員を魔力暴走で一人も亡くすことなく成人まで育て上げた。
三人目を妊娠中「俺の子を産んでくれ」と何度も誘拐されかける。夫も同様。
そこを助けて保護してしてくれたのがディノの両親。お礼も兼ねて乳母としてディノに仕える。
ディノは幼少期厳しく教育されたのでトゥナの言うことに逆らえない。丁寧に話すよう指導したのもトゥナ。
セイラが王都に来ると知ったディノが、信頼できる者にセイラの身の回りの世話と教育係を任せたいとトゥナに声をかける。
馬車で出会った時はトゥナはセイラの事は知らなかった。優しくしたのは持ち前の世話焼き根性。
また長くなった。すみません。
読んでいただきありがとうございます。




