番外編・デートのはずが
ムカつく男を蹴り飛ばし、積み上げられた木箱にぶつける。ストライク! 私の背後から襲い掛かってきた卑怯な男も肘鉄をくらわしつつ足を踏みつけ、振り向きざまにパンチをお見舞いして吹っ飛ばした。
私の周りには死屍累々で満身創痍の男達が倒れている。
その一番後ろ、お山の大将を気取っていたいけ好かないサル野郎の首元を掴む。
この時のポイントは、相手が着ている服に手を巻き込むようにしてひねり上げ指で首を圧迫すること。自分の服で首が締まるし、指のせいで息がしづらい。
「じゃあなんでディノさんを狙ったのか説明してくれる?」
デートをぶち壊した罪は重い。
◇
騎士団を出た後、ディノさんと念願のデート!
とりあえずディノさんオススメのお店に向かうことになった。
王都は王城を中心に円形に街が作られていて、すべての建物が二階建て。唯一の例外は天高くそびえ立つ王城だけだ。
どこから見ても王城が見える作りになっているため道に迷ったら、王城の角度を見て現在位置を把握すればいいと教えてもらった。
包帯をしていて白黒の世界の時は気づかなかったけど、建物自体もとてもカラフル。白に茶色、ピンクに緑、オレンジなどなど全体的に薄い色で統一されている。
ちなみに薄い色なのは原色黄色を塗ったら眩し過ぎて目が痛い! と多数苦情が来たことがあり薄い色になっていったらしい。
カクタス国は荒廃した土地が主で作物が育ちにくく、魔獣に襲われるなんて日常茶飯事なため街をカラフルにして少しでも気分を明るくしようとしてこうなったんだって。
生花も高級品扱いでびっくりした。この国では花によっては宝石より高く取引されている。
作物優先で育てていたら、愛でるだけの花を育てる余裕はないもんね。
ディノさんは歩きながらカクタス国のことをいろいろ教えてくれる。
もちろん恋人繋ぎで手を握りながら。
しかも暇さえあれば手にキスしたり、頬や額にキスしてくるからそのたびに私は真っ赤になったり、人目を気にしたりと忙しい。
歩きながらは危ないと思う。
「あの、トゥナさんから接触禁止令が出ているのにいいんでしょうか」
あとからディノさんが怒られるのが嫌で不安げに漏らした言葉に微笑みながら答えてくれた。
「痕をつけない口付けまでなら許可が出たから大丈夫。それに愛しい人を前に我慢をするほうが無理だ」
「愛しいって……」
「もちろんセイラのことだ。セイラは違うのか?」
私もディノさんのことが一番ですよ。
何されてもいいですよ。
でもここは外なんですよ。
御前試合ほどではないけど人が多いんです。前世日本人としては人前でイチャイチャするのは恥ずかしい。
ある意味私の必殺技になりつつある「二人きりの時にお願いします」はさっき騎士団で使ってしまったから、なんて言えばいいのかな。
悩んでいたらディノさんが立ち止まり頬に手を添えてゆっくり上を向くように促された。
ディノさんの綺麗な優しさを滲ませたネイビーブルーの瞳と目が合う。
「言って?」
「はひ、好きです」
ポロリと本音が出た。
「俺は、セイラが俺のものだと周りの奴に自慢したい。それと同時に誰にも見せたくない気持ちもあるんだ。
セイラと再会した時はまだ俺のものになるなんて思っても見なかった。ならせめて側に置いておこうと。
御前試合で活躍させれば力が全てとうるさいの周りの奴らも黙らせられるし、人材確保という名目で自然な形で俺の元に縛りつけられるしな」
「……ディノさん」
そんなに色々考えてくれていたんだ。
「だが、手に入れた今は不安がとめどなく溢れてくる。セイラはまだ若いし、俺とは二百以上も歳が離れている。いつか離れていくんじゃないかと……」
「私から離れるなんてありえませんよ」
頬に添えられているディノさんの手に自分の手を重ねる。
節くれだったゴツゴツとした男らしい手。
いつもこの手の温かさに安心しているから逆にディノさんにも私の手で安心してほしい。
「それよりこの国は私達ぐらいの年の差は大丈夫ですか?」
「五百歳差ぐらいまでなら特に問題はない」
「じゃあ、何も心配することないですね」
「……セイラはすごいな」
ディノさんが親指で私の唇をなぞる。だんだん顔も近づいてくる。
あ、これは私でもわかる。キスの合図だ。
「宰相閣下。少しお話が」
遮られた声に我に返った。ここ外だった。
「チィッ!!」
盛大に舌打ちしたディノさんはここで待つように告げると、話しかけてきた男の人と共に歩き出した。
ディノさんの姿が見えなくなると私を取り囲むように男達がぞろぞろと出てくる。
しまった。ディノさんとのデートで浮かれすぎてた。
サルみたいに耳が少し大きめの男がニヤニヤしながら話し出す。
「ワリィが人質になってもらいてーんだわ。あの野郎をぶちのめすためにな。大人しくしてれば……っ?!」
「ディノさんをぶちのめす? 面白い冗談ですね」
とりあえずムカついたので私の一番近くにいた男をサル野郎に向けてぶん投げた。
そして冒頭に戻る。
首を圧迫しすぎたのか事情を聞く前にサル野郎は気絶してしまった。軟弱〜。
プーちゃんに男達の拘束をお願いして、私は急ぎディノさんの所に向かった。
確かこの路地を曲がった先にいるはず。
目に飛び込んできたのは、私が倒した倍の人数を踏みつけている阿修羅のようなディノさんだった。
ディノさんも襲われていたんだ。もっと殴っておけばよかった。
「ディノさん!」
「セイラ。無事か」
私を抱きしめるとホッと安堵の息をこぼす。
ディノさんも怪我がないみたいでよかった。
「この人達、ディノさんを狙っていたみたいですけど」
「こいつらはセイラを勧誘しようとしていた部署の奴らだ。俺がセイラを強引に補佐にしたと思って強行手段で訴えてきたんだよ」
「私を人質にしてですか?」
「は?」
私を巻き込まないために離れたのに人質にしようとしていたと知ってディノさんがご立腹だ。
騎士団の人達が来るまで「骨を一本一本折るか」と不穏なことを言っていた。止めたけど。
その代わりプーちゃんの麻痺毒を打っておいた。特別に濃いやつ。
三日間は自由に動けないよ。痺れすぎると痛いんだよね。
あとから聞いた話だとカクタス国は気にくわない事があると力で訴えてくることが多い国民性なんだって。怖いね。
結局、デートは襲われた事もあってあれで終わってしまった。
そして、ディノさんのお屋敷に帰ってきて騎士団で耳元で囁いた約束事を実行している。
ちょっと違うのはコアラのように私がディノさんの背中に抱きついていることだ。
だって今ディノさんはお仕事中。
お昼の時間を捻出するために、今日は徹夜だと聞いたら申し訳なくて申し訳なくて。
「そんなに気にするのならセイラのほうから俺に口付けをしてくれ」
「へ?」
振り向いたディノさんは人差し指で自分の唇を指しながら「ここに」と呟いた。
「っ……ぅう」
難易度が高い。高すぎる。
私のほうからキスしたかは秘密。
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