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終わり

 

 ありったけの魔力を込め力の限り殴りつけた。













 目の前のディノさん……の横の壁を。



 拳をぶつけた壁がへこみ亀裂が入りボロボロと崩れていく。近くに立っていたディノさんにも多少なりとも衝撃が伝わっていると思う。


 ディノさんの顔は驚愕と共にどこか不思議そうだった。


「はらぱん……しなくていいのか?」

「私があなたを傷つけるなんてできません。十年前(あの時)は邪魔が入ってムカついてつい腹パンって心の声が漏れてしまった……だけでっ」


 語尾が震える。最後の方の言葉なんて自分でもちゃんと言えていたか曖昧だ。

 ディノさんの顔を見ることができない。目線がどんどん下がっていく。


「ほんっ……とは、ぐすっ、なっ、なまえを……っききたかっ」


 腹筋を使って泣くのを止めたかった。でもしゃくり上げるのを阻止することが出来ず、泣きながら話すというみっともないことになってしまった。

 ディノさんは私に手を伸ばしそっと涙を拭いながらある提案をしてくれた。


「セイラ。やり直しをしようか」

「やり直し?」

「ああ」


 私の前に跪くとあの時の事を思い出すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。


「前世の名前でいいぞ。俺達の再会の合図ってことで」

「……村上聖です」

「いい名だ」


 ディノさんはどこか熱のこもった目で私を見つめてくる。

 もしかして包帯で見えなかった時も同じ目で見られていたの? 恥ずかしい。あ、ネイビーブルーの瞳がだんだん閉じてく。もっと見ていたかったな。


 そんなことを考えていたせいで、やけに大きく聞こえるリップ音と共に左手に柔らかい感触がした事に気付くのが少し遅れた。


 ひあぁぁ、やり直しってキスも含まれるの?


 あの時と同じように顔に熱が集まるのがわかる。唯一違うのは私は包帯をしていないので、真っ赤になった顔がディノさんにバレてしまうということ。


 ディノさんは私を見上げると「続きを」と目で促してきた。

 心臓を落ちつかせながら言えなかった言葉を口にする。


「あの、再会の合図に私からも……あなたの名前を教えて下さい」

「ディノ・オルテゴだ」


 やっと名前が聞けた。

 ディノさんの前に両膝をつくと彼の真似をして左手をとって手の甲に口付けた。リップ音は出せなくて唇を押し付けただけになってしまったが。

 ちらっと見上げたディノさんが赤くなっていたので良しとしよう。


「ディノさん。ディノさん。助けてくれてありがとうございました。好きです。ずっと好きでした」


 前世でも告白したことない私の初告白。本当は言うつもりはなかったけど、ディノさんへの思いが溢れてつい口にしてしまった。でも後悔はない。

 ちょっとした達成感に満足しているとディノさんが苦しいくらい抱きしめてきた。

 鼓動の音が早い。これは私? それともディノさん?


「俺でいいのか? 俺は嫉妬深いし一度手に入れたら例えセイラが嫌がっても手放せないぞ」

「どんとこいです。ディノさんのほうこそ浮気なんてしたら腹パンじゃ済ましませんよ?」


 王妃様を殺せと命令されて、命令を口実に愛しのあの人を探そうとしたけど結局探せないままあの人を見つけてしまった。

 屋敷を出てから本当に慌ただしかったな。でもこれからはディノさんとゆっくり過ごしていいんだよね。楽しみ。



 どちらからともなく顔が近づいていく。唇と唇が触れ合うその時……。


「いい所でごめんね! 結界が限界だから王都に戻るよ」

「悪いな。最後まで見ていたかったんだけどよー。それより結婚おめでとさん! 式には呼んでくれ」


 執務室の扉が開いて魔王陛下とリッカルドさんが入ってきた。

 もしかして一部始終見られてた?!

 いや、それよりもリッカルドさん! 結婚って何の話ですか?!


「てめぇら……」


 ディノさんがキレてる。空中にゴツゴツした岩石を生み出しているのがその証拠だ。

 これぶつけたらケガだけじゃ済まないやつですよ。


「あのあの、結婚ってどういうことですか?」

「あ? 嬢ちゃん、ディノが手の甲に口付けして求婚した時お返しに口付けをしてただろ? 求婚の了承っていう身分やなんかで堂々と求婚できない時にできたこの国の暗黙の了解なんだけど、知らなかったのか?」


 知りませんでした。この国暗黙の了解多すぎない?


「はいはい。話は王都に帰ってからね」


 魔王陛下が手を叩くと執務室から御前試合の会場に景色が変わった。

 目の前には眉間にしわを寄せて不機嫌オーラ駄々洩れが通常営業になりつつある副団長のフラヴィオさん。どこか疲れた様子の龍ノ助君。エマとトゥナさんは二人ずつ子どもを抱いていた。


「団長! 説明もなしに勝手に消えないで下さい! どれだけ大変だったか! 魔王陛下も突然お姿が見えなくなるし、もうすぐ閉会式なのでお戻りいただけたのは良かったですが……」

「イラさん!! あのクラゲ何ですか?! 勝ち進めたのはいいですけど、決勝戦で突然分裂して四人の子どもになるし、暴れまくって魔力がガンガン吸われるし! 美人メイドさんが来て子どもを眠らせなかったら魔力が枯渇して倒れていましたよ!!」


 フラヴィオさんがリッカルドさんと魔王陛下。龍ノ助君は私にそれぞれ詰め寄る。


「プーちゃん、最終形態までいったんだ。相手はよっぽど強かったのね」

「強かったのねじゃないですよ、イラさん。説明してください」

「龍ノ助君。真の姿とかってロマンじゃない? あのね……」


 龍ノ助君の肩に手を置いて真の姿の良さについて語ろうとしていたらディノさんに引きはがされた。


「俺以外の男に気安く触るな。セイラ」

「は、はい。ごめんなさい」


 嫉妬?! 嫉妬ですか? 龍ノ助君には悪いけどものすごく嬉しいです。

 ディノさんの嫉妬に喜んでいたらエマとトゥナさんが近づいてきた。


「あ、プーちゃん達のことありがとうございます」


 お礼を言ってプーちゃん×四を身体の中に仕舞う。


「いいさ。それより坊ちゃんとくっついたんだね。これから忙しくなるよ」

「お嬢様!! エマを置いていくとはどういうことですか!」

「ごめんね、エマ。危ないことに巻き込みたくなくて……」


 トゥナさんの忙しくなる発言を詳しく聞きたいけど、エマが怒っていたからそっちを優先した。うちの子は怒っても美人だね。龍ノ助君も美人メイドって言っていたし。うふふ。


「っ!? お嬢様、首どうされたんですか?」

「首?」

「…………坊ちゃん!! こっちに来な! しばらくイラとの接触は禁止だよ!!」

「何、いってぇ!!」


 突然トゥナさんがディノさんの耳を引っ張ってどこかに連れて行ってしまった。

 え? 何? 首?

 自分で触ってみても何ともないし。それより接触禁止は嫌だなぁ。

 落ち込んでいたら、今度はフラヴィオさんが近づいてきた。


「イラ君。あのぷうちゃんについて後日騎士団で詳しく話を聞かせてもらいたい」

「え、嫌です」

「君に拒否権はないぞ。おそらく魔術師団からも声がかかるから覚悟しておくように」


 なにそれ。そんなあちこちから呼び出されたらディノさんとゆっくりできない!


「ああ、そうだ。セイラ君。君、オレの妻の護衛兼話し相手ね。これ魔王命令。よろしくー」


 魔王陛下! あなたもですか!!



 お願いだからディノさんとゆっくりさせてよ!!



拙い作品に最後までお付き合いいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価とても励みになりました。


プーちゃんの最終形態の話とか、王都観光とか龍ノ助君を日本へ帰す話など番外編を書く予定ですのでもうしばらくお付き合いいただけると嬉しいです。


お読みいただきありがとうございました。まだどこかでお会い出来たら嬉しいです。

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