ディノさんが離してくれない
「……っていうことがあって君の呪いは完全に解呪されたからもう自由だよ。おめでとー」
「皆さんのご助力のおかげです。あ、ありがとうございます……」
とりあえず目の前の魔王陛下に頭を下げた。
魔王陛下が今までのことを説明してくれたけど、話に集中することができなかった。
なぜって?
それは魔王陛下が話している最中ずっとディノさんが私の頬にキスしたり、髪を梳きながら絡めてクルクルしたり、手を恋人繋ぎで握ってきてニギニギしてきたりと、激し過ぎるスキンシップに戸惑っていたから。
しかもずっとディノさんの膝の上で後ろから抱きしめられているんですよ。
何この密着具合。背中が熱い。心臓の音がうるさい。
それを見て平然と話を続ける魔王陛下も陛下だけど、扉の前に立っているリッカルドさんは面白いものを見る目でずっとニヤニヤしている。
恥ずかしすぎるよぉおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!
と、とにかく一旦離れてもらおう。
「あの、そろそろ離れてもらってもいいですか?」
「俺のことが嫌いか? セイラ」
くぅぅ。振り返ったのがいけなかった。ディノさんの顔が過去最高の近さだ。
しかも、へにょんと眉を下げてこの世の終わりみたいな悲痛な顔をされたら私が酷い事をしている罪悪感にかられる。
「き……きらいじゃないです」
「じゃあ問題ないな」
問題ありまくりです。主に私の心臓が。
「そうだ! ディノさんはローガンの仲間だったんですよね。私を騙していたなんてひどいです」
「ローガンの仲間?」
「帽子を被った銀髪の男が私の監視をすると言ったって。それにリッカルドさんがディノさんには気をつけろと……」
私の魂を呼び戻してくれたディノさんがローガンの仲間だなんて本当は思っていないけど、何かの話をして気を紛らわせたかった。
「あ! その銀髪の男はおれだ! わりぃな嬢ちゃん。ローガンに近づく時できるだけ目立たない銀髪に変装していたんだけどよ、ディノの特徴と被っていたのあとから気づいたんだよなー」
え、銀髪って目立つよね?
疑問が顔に出ていたのかリッカルドさんはそのまま説明してくれた。
カクタス国では銀髪や金髪がありふれた色で、私の黒髪や魔王陛下のように紫の髪みたいな濃い色が珍しいんだって。
そういえばフラヴィオさんは白に近い明るい金髪だったし、トゥナさんは黄色味が強い金髪。
ちなみに御者さんはアッシュ系のくすんだ銀髪だった。
「おい、リッカルド。セイラに気をつけろと忠告したとは? 詳しく教えやがれ」
背後から重苦しい威圧感と共に怖いくらい低い声のディノさんがリッカルドさんに向けて言葉を放つ。
私に向けられていないとわかっていても怖い。
あれ? ディノさんってこんな喋り方していたっけ?
ローガンの仲間じゃないならなんで前世の私の名前知っているんだろう。
ん? ……んん?
「だから悪かったっ! 痛! 嬢ちゃんの魔力が強いから欲しがっていると思ってよ! このまま嬢ちゃんが使い潰されるのは可哀想だと思って親切心で忠告したんだって! いたいいたいいたいいたい」
「あははははは。リッカルド、君マヌケだな。はははははは」
小石を空中に作り出してリッカルドさんにぶつけているディノさん。でも、尖った石じゃなくて碁石みたいな丸い石だし放物線を描いてゆっくりぶつかっているからそんなに痛くなさそう。リッカルドさんも口では痛いと言いつつ避けようともしないし。
それより魔王陛下。笑い過ぎです。
「まさかおれが助けようとしていた子とディノが昔からご執心だった子が同一人物だと思わないだろ〜」
「え? 助ける? 昔からご執心? ディノさん石投げるの一旦止めて下さい」
「セイラが言うなら……」
渋々といった口調でディノさんが石を消す。
リッカルドさんは「ありがとな」とお礼を述べると話してくれた。
「十年前、ルビーロウが兵士を向かわせたと連絡があって急いでイセリア領に行った時、詳しい事情を聞くため嬢ちゃんと会ってんだ」
そういえば騎士に説明しろって言われたような気がする。でもその時の騎士の人達はフルプレートの鎧姿で顔見えなかったし。
それで御前試合の会場で「覚えていないか?」って聞かれてもわかるわけないよ。
「巻き込まれて怪我をしたと聞いたが、それ以前の傷も見受けられたし何より痩せすぎてガリガリだったからあまりいい待遇じゃねぇのはすぐわかったんだ。だが本邸の奴らに事情を聞いても答えねぇ。
一応上には報告したが相手が領主じゃうかつに手を出せない。あの時のおれは強制捜査権限のないただの騎士。
だから先に地位を手に入れようと十年間がむしゃらに任務を遂行して手柄を立てて騎士団長になったんだ」
リッカルドさんは拳を握りしめて本当に悔しそうに口にする。少ししか話していないのに私のことを何とかしようとしてくれていたんだ。
正義感にあふれた人なんだね。騎士にぴったりだと思う。
「この国では子どもは大切にするのが当たり前だから、蔑ろにしていたからといって罰則なんて作っていないしね。魔王として恥ずかしいよ。ごめんね」
「えっ、そんなお気持ちだけで充分です」
魔王陛下が申し訳なさそうに謝ってくれた。なんだかこっちも申し訳ない気持ちになってくる。
「任務の合間に商人に変装してローガンに接触していた時に、ディノもイセリア領について調べているのが分かってお互い協力することになったんだ。嬢ちゃん、助けに来るのが遅くなって悪かった! 恨んでくれて構わねぇ」
そう言うとリッカルドさんは直角九十度で腰を折り頭を下げる。
慌てた私はリッカルドさんに駆け寄りたかったけど、ディノさんが離してくれなかったので座ったまま声を上げた。
「私はリッカルドさんにも魔王陛下にもひどいことをされてないですし、こうして助けていただいたのでそれだけで嬉しいです。ありがとうございます」
私に呪いをかけたお父様とローガンが謝ってくるならわかるが、リッカルドさん達に感謝こそすれ恨むなんてありえない。
そんな私の言葉に安心したようにリッカルドさんは顔を上げてくれた。その顔はどこか清々しかった。
「あの、お父様とローガンはどうなったんでしょうか」
私達はお父様の執務室でずっと話をしていたんだけど、お父様の姿がどこにも見当たらない。
私の疑問にディノさんが答えてくれた。
「イセリア領主は身体がもう限界で原型を保っていない。魂はまだあるから仮の入れ物に入れてこれから事情を聞くことになるな。ローガンは……」
ディノさんの言葉が詰まった。言いにくいのかな?
そんな様子を見て魔王陛下が言葉を引き継いだ。
「寿命があとどれくらい残っているかによって変わるね。生命力を捧げてイセリア領主の身体を維持したり君を呪ったりしていたんだから、あと数年生きればいいほうかもしれない」
「そういえば十七人目のローガンってどういうことですか?」
「言葉通りだよ。時が来たら自分の人生を捨て顔を作り替えてローガンとして生きるんだ。
魔力持ちのオレ達とルビーロウとでは年の取り方が違う。怪しまれないように老けてきたら別のローガンと交代していた。まぁ、老ける前に生命力が枯渇して死んでいた可能性があるね」
別人として生きて死ぬなんて私には考えられない。
もしかして私が今まで会っていたローガンも何人も変わっていたのかな。
だからたまにしか屋敷に様子を見に来なかったんだ。頻繁に来るとちょっとした違いに私が気づくかもしれないから。
「君は領主と今のローガン以外に三人のローガンに呪われていたよ。その三人はすでに死者だ。だから呪いがより複雑で普通の解呪では無理だった」
死者の怨念は怖いよね~と魔王陛下はやけに明るい口調で笑った。
もしかしたら暗くなりかけていた雰囲気を一掃したかったのかも。
「さ! オレは丑寅の大樹周辺の結界を調べてくるからリッカルド、護衛としてついてきて。ディノはその間にこの子と話をすること! このままじゃ一方的にくっついている変態だからね」
「嬢ちゃん、殴り飛ばしていいからなー」
ディノさんを変態呼ばわりして魔王陛下とリッカルドさんが執務室から出ていく。
話って何を?
「セイラ、伝えたいことがある」
重々しくディノさんが口を開く。
緊張しているのか腰に回された手に力が入ったのがわかった。
重要な話をしようとしてくれるのはわかるけど、とりあえず膝の上から降ろしてほしいかな!




