side??? 解呪
いや、正確には八十年前ルビーロウ王国が攻めてきた時、イセリア領主の娘が魔力暴走を起こし周りを巻き込んで一家もろとも死んだ。
のちに領主だけが一命をとりとめたと報告を受けた。
その報告をしたのがこの男。ローガン。
そこからだ。イセリア領主がおかしくなったのは。
すでにいないはずの娘を魔王陛下の伴侶にしようといろいろ仕掛けてくる。
最初は妻と娘を失った現実を受け入れられないだけだと思っていたが、イラのことがあり詳しく調べた。
だが、ローガンの事を調べてもこの国にいた形跡がない。
八十年前にいきなり出てきた。
この男は何者だ?
「今、ここにいる生きている者の気配はオレ達三人とローガン。そして呪われているあの子だけだ。人数足りないよね? おかしいよね?」
「…………」
ファルコの問いに下唇を噛みながらローガンは黙秘を貫く。そんな態度を気に留めた様子もなくファルコは言葉を続ける。
「ルビーロウ王国にね、不老不死になろうとして失敗した術があるんだ。身体が機能停止しても魂が宿り続ける禁呪。その身体が腐り落ち完全に朽ちるまで離れることはできないなんて可哀想だよね」
その術は俺がルビーロウに潜入調査していた時に調べたことがある。
確か術を成功させるには魂自体の激しい執着が必要だったはずだ。
まさかイセリア領主はその術をかけられたのか。執着は娘を王妃にすることだった可能性が高い。
おそらくローガンは領主にその禁呪を施し、今まで身体が朽ちないように処置を続けていたに違いない。
「なぁ、わかんねぇことがあンだけど……」
「はい。どうぞ。リッカルドくん」
手を挙げて疑問を口にしようとするリッカルドに、明るい声で教師風を装ったファルコが名指しする。
こいつ外に出られて浮かれていやがる。いつもよりお喋りだし。
「ルビーロウは魔力持ちが生まれないのに何で術が使えるんだ?」
「いい質問だね! あの国は魔力の代わりに生命力を捧げて術を行使しているんだよ。そのせいでただでさえ短い寿命をさらに縮めているのにね!」
浅はかだよね! と断言したファルコの言動にだんまりを決め込んでいたローガンが怒りを爆発させた。
「不老不死の貴様らに我らの苦しみなどわかるものか!」
「何度もルビーロウに伝えているけど、オレ達は不老不死じゃない。現にイセリア領の領主は死んでいるよね」
「我らはもう止まれぬのだ! 今まで死んでいって同胞たちのためにも!!」
「勝手に死ぬのをオレ達のせいにされても困るよ。異世界人を大量に召喚した時はその倍の生贄が必要だったらしいじゃないか。イセリア領主への禁呪とあの子を呪うのに一体何人犠牲にしたんだい?」
「……ルビーロウ王国のための必要な犠牲だ」
国のためといえば何をしても許されると思っている。それともそういう風に教えられたのか。
民あっての国だろ。そんな国はもういらないんじゃないか。消したほうが早い。
ファルコも答えを知っているのにおしゃべりが楽しいのか、あくまでローガンから聞き出そうと面倒なことをしているし、俺だけイラの所に先に行こうかな。
動き出そうとした時、シルシからイラが呪いを返しその代償として倒れたのが伝わってきた。
「ああ、もう時間切れか。もう少し価値観の違う人と話していたかったのに。残念」
ファルコが大袈裟に肩を下げがっかりとした仕草をした。
やっぱりおしゃべりを楽しんでいただけだった。この野郎。
「最後に……君は何人目のローガンだい?」
「十六、いや十七人目だ」
「そうか」
君も犠牲者だな……そう小声でファルコが呟くと同時にローガンの姿が消えた。地下牢に移したのだろう。
「さ! 死にたて新鮮なうちに呪いを完全に解呪しようか」
「ファルコ! てめぇ! イラのこと死にたて新鮮とか言うな!」
「おーい。先に行くぞー」
「ははは。三人で行動するなんて久しぶりで楽しいな」
これからイラの解呪をしようっていうのに、どこまでもふざけた発言をする楽しそうなファルコ。それに食ってかかる俺。それを意に介さずさっさと先に行くリッカルド。
なつかしい光景だ。
◇
執務室に入ると、血溜まりの中でイラが倒れていた。
呪詛返しの反動で仮死状態になるとは聞いてはいたが出血のことは聞いていない。
慌ててイラを抱きしめそのままファルコを睨みつける。
「悪かったって。毒素を出し切るように余計な呪いを出し切らないとダメなんだよ」
ファルコがイラに手をかざすと黒いモヤに纏わりつかれた魂が出てきた。
「このままこの子の体に魔力を送ってあげてね。いくら仮死状態とはいえ魂がないと死んじゃうから。リッカルドは万が一の邪魔が入った時の為に周囲警戒よろしく」
「任せろ」
「イラ……死ぬな」
イラを抱きしめながら魔力を送る。
ファルコの周りに魔術陣が展開されるとイラの魂に纏わりついているモヤが少しずつ剥がれ消えていく。
「ここまで深く呪いが刻み込まれていると一回身体から魂を離して丸ごと洗浄しないと、綺麗に解呪できないんだよね」
「しゃべりながらやって失敗なんかするなよ」
「オレこれでも魔王だからね? はい終わり〜」
意外と早く終わった。ファルコが解呪したからか?
だが解呪したにもかかわらず魂はイラの身体の中に入らずふよふよ浮いているだけだ。
どういうことだ?
「ここからが本番。隣国が失敗していた不老不死の術は実は魂呼という名前で、死にかけの魂をこちらに呼び戻す術なんだ。招魂術とも呼ばれているね」
ファルコがしゃがみこみ俺と目線を合わせてながら話を続ける。その瞳は先ほどまでのふざけた様子ではなく真剣そのものだ。
「関わりのある者の呼びかけにこの子が応えなければ魂は戻らない。普通は家族なんだが……ディノ。できるかい?」
「当たり前だろ。俺以上にイラを思っている奴なんていない」
俺の返答が満足のいくものだったのかファルコは微笑むと魂呼のやり方を教えてくれた。
ただ呼びかければいいと。そんな簡単でいいのか疑問が残るが。
「イラ……いや、セイラ。戻ってこい。俺はまだお前に正体を明かしていない。再会の合図のはらぱんもされていない。俺にちゃんと気持ちを伝えさせてくれ。セイラ」
俺が一言一言発するたび、身体から金色の糸が出てきてセイラの魂に向かって伸びていく。だが魂まで届かない。
すると、魂からも金色の糸が出てきて俺の出した糸と絡み合う。
そのまま引き寄せられるように魂がセイラの身体に入っていった。




