-7- 『告白、疑問』
「わぁ! うわぁ!」
終始これだ。
色んな店を見て回ることにしたのだが、菜有は初めて来たかのようにはしゃいでいる。
勿論、何度も来たことがある。
「日本人なんだし、祭りくらい珍しくもなんともないだろ?」
「ちっちっち。ふーくんは冷めてるなぁ。こういうのは、馬鹿みたいに楽しんだ方が面白いんだよ?」
……。
「お前は元々そうだろ? いつも祭り気分じゃないか」
「そんなことないもん! 馬鹿じゃないもん! て、テストで0点取ったこともないし」
「そうだな。悪い。失言だった」
「もうっ!」
あぁ、膨れてそっぽを向いてしまった。しかし、何か奢れば機嫌も直るだろう。
「ほら、わたあめ買ってやるよ」
「ホントっ?!」
「ああ」
「やた~~! ね、早くいこっ!」
「わかったから、強引に引っ張るんじゃない!」
ぐいぐいと手を引っ張られ、二人で人混みの中を歩いていた。
思えば、昔は背が小さかったせいもあって、この人混みが都会のビル群のようにも見えていたんだった。今では、俺も菜有もビルディングの一つだろうか。
「なあ」
「ん?」
「来て、よかったな」
「……え? う、うん! そうだよね!」
先程よりも菜有は笑顔を見せ、気持ち程度、俺の腕を引っ張る強さが増していた。
わたあめを買ったのち、色々と見て回った。
そしてついにクライマックスが近づいていた。花火だ。
俺達は花火を見るための場所を探し、立ちながらその瞬間を待っていた。
「しかし、何年ぶりかな。花火を見るのも」
「え? ふーくんの住んでる場所って、花火しないの?」
「市販の花火くらいはあるけど、こんなでかいのを見るとなると、この会場の何倍もの人混みに埋まる必要があるんだ。そこまでして見ようとはしなかったんだよ」
「ね、ね、それって、テレビとかで見る何発も上がるやつ?」
「多分、そんなのだな」
「うわぁ~~一度でいいから見てみたいなぁ」
「……いつか見れるさ。見ようと思えばな」
「そうだね」
どうして、言葉に詰まったのだろうか。
すぐに、案内してやるから一緒に見に行くか? とは言えなかった。
「あの、さ。ふーくんは、好きな女の子とかいるの?」
「……なんだ、急に」
「いーじゃん。まだ始まらないみたいだし」
「だからって、異性と恋バナなんてしたくないぞ」
「つまんないな~~。ね、ホントはいるの?」
身を乗り出してくる菜有を見兼ねて、俺は口を割ることにした。こうでもしないと、花火を静かに見られそうにもない。
「……いまは、いないな」
「そう、なんだ」
「菜有はどうなんだよ?」
「ウチ? ウチは……いるよ」
「――! 本気か?」
「うん」
驚いた。これには、心臓が恐ろしく音を立てている。
まさか、一番恋愛と縁遠い菜有に限ってそんなことはないと、どこかで思っていた。
「そ、そうか……」
喜ぶべきなのだろうが、焦りで頭が働かない。
「あのね、ふーくん」
「な、なんだ」
菜有は、どこか真剣な表情にしている。
何を言うつもりだ。
「ウチの好きな人は、ふーくんだよ?」
「……………………は?」
「だからウチはふーくんを、友達とかじゃなくて、一人の男の子として好きなの」
ドオオオオオオォォォォォンッッ!
同時に打ち上がった花火の音が耳に届かないくらい、頭の中が真っ白だった。
菜有が、好き?
俺のことを?
歓声が上がっているのは、俺達にではなく、花火だ。
しかし落ち着こうとしても、動揺が醒めることはない。
「あのね、ふーくん」
「――!」
「返事、聞きたいなぁ……なんてね」
きっと、菜有は勇気を振り絞ったに違いない。今までは友人関係だったが、恋人関係となれば、今までの関係には決して戻れなくなるかもしれない。
それでも、菜有は言ってきた。ここは、答えなくてはいけない。
はずなのに、頭の隅にある何かが、邪魔してくる。
俺も好きだ。でも、この好きは何だろうか。恋だろうか。それとも、思い違いだろうか。
何にせよ、俺は答えなくてはならない。
「俺は――」
と答えかけた時、不安が過った。正体不明のそれは、答えを濁らせる。
「菜有のことは好きだ。でも、これが恋なのかはわからない。だから、答えは保留にしてくれないか?」
「保留?」
「突然すぎて、答えられそうにない。だから、待ってくれないか。気持ちを整理したい」
「……わかったよ。ふーくんの言うことだもんね、信じるよ」
「菜有……」
「でも、ウチの気持ちは、そうだから……」
「……ああ」
数の少ない花火は、その瞬間に光ったものを最後に、夜空から姿を消していた。
帰り道、橋を渡る際、知り合いと鉢合わせる。
「お。お二人さん、奇遇だね」
そこにいたのは、祭り会場にいそうなチャラついた知り合いだった。
「善治、何でこんな所にいるんだ?」
「いや、ここって祭り会場から離れてるでしょ? ぼくがあそこに近づくと、大騒ぎになってしまうからね。ハハハ」
笑い方が腹立たしい。
奴が何を言いたいのか理解できたが、菜有は無理だったようで、隣で首を傾げている。
「いやぁ、モテる男はつらいよ」
「あ、そういうことか!」
手をポンとたたく仕草を見ると、菜有はようやく理解したらしい。
「――で、お前の誇大妄想はどうでもいいから、本当の理由を教えろ」
「うわ、その態度キツイな~~。わかった、話しますよ。そうです、ここで花火を独占していたんですよ」
「……確かに、ここからならよく見えるが、何でこんな穴場知ってるんだ?」
「…………そりゃあ……おっと」
善治が何かに気付いたように口を閉じる。
「どうした?」
「いや、何でもない。でも酷いなぁ。ここは昔、みんなでお祭りに来た時、花火を見たベストスポットでしょ」
「みんなで、祭りに……」
その言葉に、引っ掛かりを覚えた。何も初めてではない。今日何度目かの感覚だ。
「善治、お前は憶えているのか?」
「……憶えているも何も、忘れるはずないじゃないか」
「そう、だな」
しかし俺は憶えていない。こいつらと一緒に来たことは何となく知っているが、何か、そこだけが妙に納得いかない。
「もしかして、まだ……」
「まだ? 何のことだ?」
「そりゃあ――」
「ゼンくんッッッッ!」
善治が何か言いだす前に、菜有が大声で遮った。
「……? 急にどうしたんだ、菜有」
「なんでもないよ! ふーくん、もう疲れちゃったから帰ろっ! ね?」
「あ、ああ。善治、またな」
「いやいや。二人の邪魔しちゃったみたいで、ごめんね」
善治が頭を掻きながら謝罪をしているが、どこか急いでいる菜有の手に引っ張られ、俺は帰路に就いた。
「説明、あるんだろうな?」
帰宅後、先程の態度について説明を求めるが、菜有はわざとらしく話を逸らしてかわしてくる。よっぽどの理由があるのだろうか。しかし、どうして友人にあんな態度がとれるのか、全く理解できなかった。
「……はぁ、もういい。話したくないなら無理にとは言わない。ただ、俺が隠し事をされるのが嫌いだって知っているだろう? そういうのは、やめてくれ」
「……うん」
「ふぅ……花火、きれいだったな」
「――! そ、そうだね! 今までで一番きれいだった!」
「大袈裟な……」
「大袈裟じゃないもん! 本当だよ?」
「そうかい。そりゃあよかったよ」
そうして、どうにか関係の破綻は免れた。




