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One's Summer  作者: 新増レン
二章「思い出の箱」
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-7- 『告白、疑問』


「わぁ! うわぁ!」


 終始これだ。

 色んな店を見て回ることにしたのだが、菜有は初めて来たかのようにはしゃいでいる。

 勿論、何度も来たことがある。

「日本人なんだし、祭りくらい珍しくもなんともないだろ?」

「ちっちっち。ふーくんは冷めてるなぁ。こういうのは、馬鹿みたいに楽しんだ方が面白いんだよ?」

 ……。

「お前は元々そうだろ? いつも祭り気分じゃないか」

「そんなことないもん! 馬鹿じゃないもん! て、テストで0点取ったこともないし」

「そうだな。悪い。失言だった」

「もうっ!」

 あぁ、膨れてそっぽを向いてしまった。しかし、何か奢れば機嫌も直るだろう。

「ほら、わたあめ買ってやるよ」

「ホントっ?!」

「ああ」

「やた~~! ね、早くいこっ!」

「わかったから、強引に引っ張るんじゃない!」


 ぐいぐいと手を引っ張られ、二人で人混みの中を歩いていた。

 思えば、昔は背が小さかったせいもあって、この人混みが都会のビル群のようにも見えていたんだった。今では、俺も菜有もビルディングの一つだろうか。

「なあ」

「ん?」

「来て、よかったな」

「……え? う、うん! そうだよね!」

 先程よりも菜有は笑顔を見せ、気持ち程度、俺の腕を引っ張る強さが増していた。

 わたあめを買ったのち、色々と見て回った。

 そしてついにクライマックスが近づいていた。花火だ。


 俺達は花火を見るための場所を探し、立ちながらその瞬間を待っていた。

「しかし、何年ぶりかな。花火を見るのも」

「え? ふーくんの住んでる場所って、花火しないの?」

「市販の花火くらいはあるけど、こんなでかいのを見るとなると、この会場の何倍もの人混みに埋まる必要があるんだ。そこまでして見ようとはしなかったんだよ」

「ね、ね、それって、テレビとかで見る何発も上がるやつ?」

「多分、そんなのだな」

「うわぁ~~一度でいいから見てみたいなぁ」


「……いつか見れるさ。見ようと思えばな」


「そうだね」

 どうして、言葉に詰まったのだろうか。

 すぐに、案内してやるから一緒に見に行くか? とは言えなかった。


「あの、さ。ふーくんは、好きな女の子とかいるの?」


「……なんだ、急に」

「いーじゃん。まだ始まらないみたいだし」

「だからって、異性と恋バナなんてしたくないぞ」

「つまんないな~~。ね、ホントはいるの?」

 身を乗り出してくる菜有を見兼ねて、俺は口を割ることにした。こうでもしないと、花火を静かに見られそうにもない。

「……いまは、いないな」

「そう、なんだ」

「菜有はどうなんだよ?」

「ウチ? ウチは……いるよ」

「――! 本気か?」

「うん」

 驚いた。これには、心臓が恐ろしく音を立てている。

 まさか、一番恋愛と縁遠い菜有に限ってそんなことはないと、どこかで思っていた。

「そ、そうか……」

 喜ぶべきなのだろうが、焦りで頭が働かない。

「あのね、ふーくん」

「な、なんだ」

 菜有は、どこか真剣な表情にしている。

何を言うつもりだ。


「ウチの好きな人は、ふーくんだよ?」


「……………………は?」

「だからウチはふーくんを、友達とかじゃなくて、一人の男の子として好きなの」


 ドオオオオオオォォォォォンッッ!


 同時に打ち上がった花火の音が耳に届かないくらい、頭の中が真っ白だった。

 菜有が、好き?

 俺のことを?

 歓声が上がっているのは、俺達にではなく、花火だ。

 しかし落ち着こうとしても、動揺が醒めることはない。


「あのね、ふーくん」

「――!」

「返事、聞きたいなぁ……なんてね」

 きっと、菜有は勇気を振り絞ったに違いない。今までは友人関係だったが、恋人関係となれば、今までの関係には決して戻れなくなるかもしれない。

 それでも、菜有は言ってきた。ここは、答えなくてはいけない。

 はずなのに、頭の隅にある何かが、邪魔してくる。

 俺も好きだ。でも、この好きは何だろうか。恋だろうか。それとも、思い違いだろうか。

 何にせよ、俺は答えなくてはならない。


「俺は――」


 と答えかけた時、不安が過った。正体不明のそれは、答えを濁らせる。

「菜有のことは好きだ。でも、これが恋なのかはわからない。だから、答えは保留にしてくれないか?」

「保留?」

「突然すぎて、答えられそうにない。だから、待ってくれないか。気持ちを整理したい」

「……わかったよ。ふーくんの言うことだもんね、信じるよ」

「菜有……」

「でも、ウチの気持ちは、そうだから……」

「……ああ」

 数の少ない花火は、その瞬間に光ったものを最後に、夜空から姿を消していた。

 


 帰り道、橋を渡る際、知り合いと鉢合わせる。

「お。お二人さん、奇遇だね」

 そこにいたのは、祭り会場にいそうなチャラついた知り合いだった。

善治ぜんじ、何でこんな所にいるんだ?」

「いや、ここって祭り会場から離れてるでしょ? ぼくがあそこに近づくと、大騒ぎになってしまうからね。ハハハ」

 笑い方が腹立たしい。

 奴が何を言いたいのか理解できたが、菜有は無理だったようで、隣で首を傾げている。

「いやぁ、モテる男はつらいよ」

「あ、そういうことか!」

 手をポンとたたく仕草を見ると、菜有はようやく理解したらしい。

「――で、お前の誇大妄想はどうでもいいから、本当の理由を教えろ」

「うわ、その態度キツイな~~。わかった、話しますよ。そうです、ここで花火を独占していたんですよ」

「……確かに、ここからならよく見えるが、何でこんな穴場知ってるんだ?」


「…………そりゃあ……おっと」


 善治が何かに気付いたように口を閉じる。

「どうした?」

「いや、何でもない。でも酷いなぁ。ここは昔、みんなでお祭りに来た時、花火を見たベストスポットでしょ」

「みんなで、祭りに……」

 その言葉に、引っ掛かりを覚えた。何も初めてではない。今日何度目かの感覚だ。

「善治、お前は憶えているのか?」

「……憶えているも何も、忘れるはずないじゃないか」

「そう、だな」

 しかし俺は憶えていない。こいつらと一緒に来たことは何となく知っているが、何か、そこだけが妙に納得いかない。

「もしかして、まだ……」

「まだ? 何のことだ?」

「そりゃあ――」



「ゼンくんッッッッ!」



 善治が何か言いだす前に、菜有が大声で遮った。

「……? 急にどうしたんだ、菜有」

「なんでもないよ! ふーくん、もう疲れちゃったから帰ろっ! ね?」

「あ、ああ。善治、またな」

「いやいや。二人の邪魔しちゃったみたいで、ごめんね」

 善治が頭を掻きながら謝罪をしているが、どこか急いでいる菜有の手に引っ張られ、俺は帰路に就いた。



「説明、あるんだろうな?」

 帰宅後、先程の態度について説明を求めるが、菜有はわざとらしく話を逸らしてかわしてくる。よっぽどの理由があるのだろうか。しかし、どうして友人にあんな態度がとれるのか、全く理解できなかった。

「……はぁ、もういい。話したくないなら無理にとは言わない。ただ、俺が隠し事をされるのが嫌いだって知っているだろう? そういうのは、やめてくれ」

「……うん」

「ふぅ……花火、きれいだったな」

「――! そ、そうだね! 今までで一番きれいだった!」

「大袈裟な……」

「大袈裟じゃないもん! 本当だよ?」

「そうかい。そりゃあよかったよ」

 そうして、どうにか関係の破綻は免れた。


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