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One's Summer  作者: 新増レン
二章「思い出の箱」
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-6- 『祭りには装いを』

 

 祭りの夜になった。

 来てほしくない時間は、こんなにも早く訪れるものなのか。

 確かに町は普段とは違った賑わいを見せている。

 出店が立ち並び、老若男女――とまではいかないなりにも、いつもより若い顔が見え隠れしていた。隣町から遊びに来ている連中もいるだろう。

 食べ物屋から遊戯屋まで、数々の出店が立ち並ぶ中、俺は地味な格好で、祭り会場の入り口付近で待ちぼうけをくらっていた。

 これも、ついさっきの過ちである。



『一緒に出ないのか?』

『うん。だって待ち合わせした方が盛り上がるよ、きっと! それに、カギ持ってるの、私だもん』

『そうか。じゃあ、入り口で待ってる』

『あ、うん。すぐ行くから! 絶対!』



 結果、こうなる。

 わかっていたはずだ。こういう場所なら、女子はあの恰好をしたがる。

 つまりそういうことだ。この祭り会場のどこかにいる母を見つけ、家に一度帰って着物の着付けをしてもらい、鍵をかけて遅れた風を装って出てくる。

 ――とまあ、こんな感じだろう。

「はぁ……」


「あれ? 楓馬ふうま


「……咲楽さくらか」

 偶然にも、浴衣姿の咲楽が通りかかった。これから祭りだろうか。しかし、似合うな。

「珍しいわね。一人で来たわけ?」

「――絶賛、待ち合わせ中だ」

「……成程」

 咲楽はニヤリと笑い、意味ありげに頷く。

「そう言う自分こそ、一人で来たんじゃないのか?」

「残念。あたしには先約がいるのよ」

「彼氏か?」

「……違うわ」

「?」

 咲楽は少し元気がなくなった。今の言葉はNGワードだったのかもしれない。

「学校の友達よ。同じ高校に通ってるんだから、それなりの付き合いがあるでしょ?」

「そうか」

 ふと、忘れそうになる。咲楽達はここにずっと住んでいるんだ。

 しかしあれだな。自分が向こうで友人ゼロだとは胸を張って言えないな。

「大変よね、楓馬も」

「何が?」


「向こうで話せる相手、いないんでしょ?」


「――っ! 何故それを!」

「菜有から聞いたわ」

 確かに、頻繁にやり取りをしていた菜有には事情を話していたが、ここまで流出しているとは思わなかった。顔が熱い。

「でも、あんた達って本当に仲良いわね。数年ぶりでも、そう感じる」

「は?」

 なじられるかと思いきや、話題は簡単に変更していた。

 隣を見ると、どこか遠くを見つめる咲楽がいる。

「こうやって一緒に祭りに来るなんて、よっぽど仲良いなって思ったのよ」

「……? お前だってそうだろ」

「違うわ。少なくとも、これから会う友達は違う。――簡単に言うと、二人には隙が無いように見えるの」

「俺はともかく。菜有は隙だらけじゃないのか?」

「鈍感ね、意味が違う。……でも、なんであたしじゃないのかなって、時々思うかな」

「……どういう意味だ?」

 訊ねるも、咲楽は答える気が無い素振りで祭り会場の方へと歩き出した。

「あ、おい!」

「……楓馬!」

 声をかけると、振り向いた彼女に名前を呼ばれた。


「また明日。遊べるといいね!」


 そう言って手を振り、足早に消えていく。

 結局、彼女の言葉の意味は分からず仕舞いだった。



 咲楽と話してから数分後、着物姿の菜有が遅刻してやって来た。

「……理由を聞こうか」

「あ、とね。んと……あ! そ、それよりこれどうかな? お母さんが昔着てたやつなんだけど、似合う、かな?」

「似合ってるけど、菜有にはまだ早すぎたな」

「……それ、どーゆーこと?」

 頬を膨らませている。大体、自分でも察しがついているだろうに。

 しかし、まるで七五三だ。――とはとても言えない。言い方を変えよう。

「あれだ。大人の色気が足りないな」

「……ふーくん、なんかオジサンみたい」

「お、オジサン?! ――そ、それより、上手く話題を変えようとしても無駄だぞ! どうして遅くなったのか、ここではっきりと説明してもらおう」

「う……。お、怒らない?」

「理由による」

「……わかった。話すね」

 隠し事を見つけられた子供が、親にそれを説明するかのようだった。

 しかし内容は、先程予想していた通りで、意外性の欠片もない。

「――という理由です。どうかな?」

 礼をして上目でこちらを窺ってくる。まあ、さすがにこの程度の遅刻で怒る気にはなれないか。

「今回は許そう」

「ホントっ!? やた~~!」

 よっぽど嬉しかったのだろう。俺の周りをぐるぐるとまわっている。イヌか。

「ほら、もう止まれ」

「そうだね。さ、行こうよ!」

 ようやくいつもの菜有に戻ってきて、主導権を握りだした。

 彼女が先頭切って歩こうとしていく後ろを、俺はゆっくりと追っていく。

 その際、先程言いそびれた言葉を囁いてみた。

「色気はないけど、菜有はそのままで十分可愛いと思うぞ」

「……ひゃうっ?! な、なに?」

「さ、行くか」

 一瞬の隙をついて先頭に回り、主導権をこちらが握ると、今度は菜有が慌ててついてくる。

「ま、待ってよ~~」


「じゃあ、並んで歩くか」


「え?」

 先程から、俺は不思議に感じていた。どうして一緒に来ているのに縦に並ばねばならない。

「ほら、見て回るんだろ?」

「う、うん! えへへ」

 今度は肩を並べて、ようやく祭り会場へと足を踏み入れていった。


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