-6- 『祭りには装いを』
祭りの夜になった。
来てほしくない時間は、こんなにも早く訪れるものなのか。
確かに町は普段とは違った賑わいを見せている。
出店が立ち並び、老若男女――とまではいかないなりにも、いつもより若い顔が見え隠れしていた。隣町から遊びに来ている連中もいるだろう。
食べ物屋から遊戯屋まで、数々の出店が立ち並ぶ中、俺は地味な格好で、祭り会場の入り口付近で待ちぼうけをくらっていた。
これも、ついさっきの過ちである。
『一緒に出ないのか?』
『うん。だって待ち合わせした方が盛り上がるよ、きっと! それに、カギ持ってるの、私だもん』
『そうか。じゃあ、入り口で待ってる』
『あ、うん。すぐ行くから! 絶対!』
結果、こうなる。
わかっていたはずだ。こういう場所なら、女子はあの恰好をしたがる。
つまりそういうことだ。この祭り会場のどこかにいる母を見つけ、家に一度帰って着物の着付けをしてもらい、鍵をかけて遅れた風を装って出てくる。
――とまあ、こんな感じだろう。
「はぁ……」
「あれ? 楓馬」
「……咲楽か」
偶然にも、浴衣姿の咲楽が通りかかった。これから祭りだろうか。しかし、似合うな。
「珍しいわね。一人で来たわけ?」
「――絶賛、待ち合わせ中だ」
「……成程」
咲楽はニヤリと笑い、意味ありげに頷く。
「そう言う自分こそ、一人で来たんじゃないのか?」
「残念。あたしには先約がいるのよ」
「彼氏か?」
「……違うわ」
「?」
咲楽は少し元気がなくなった。今の言葉はNGワードだったのかもしれない。
「学校の友達よ。同じ高校に通ってるんだから、それなりの付き合いがあるでしょ?」
「そうか」
ふと、忘れそうになる。咲楽達はここにずっと住んでいるんだ。
しかしあれだな。自分が向こうで友人ゼロだとは胸を張って言えないな。
「大変よね、楓馬も」
「何が?」
「向こうで話せる相手、いないんでしょ?」
「――っ! 何故それを!」
「菜有から聞いたわ」
確かに、頻繁にやり取りをしていた菜有には事情を話していたが、ここまで流出しているとは思わなかった。顔が熱い。
「でも、あんた達って本当に仲良いわね。数年ぶりでも、そう感じる」
「は?」
なじられるかと思いきや、話題は簡単に変更していた。
隣を見ると、どこか遠くを見つめる咲楽がいる。
「こうやって一緒に祭りに来るなんて、よっぽど仲良いなって思ったのよ」
「……? お前だってそうだろ」
「違うわ。少なくとも、これから会う友達は違う。――簡単に言うと、二人には隙が無いように見えるの」
「俺はともかく。菜有は隙だらけじゃないのか?」
「鈍感ね、意味が違う。……でも、なんであたしじゃないのかなって、時々思うかな」
「……どういう意味だ?」
訊ねるも、咲楽は答える気が無い素振りで祭り会場の方へと歩き出した。
「あ、おい!」
「……楓馬!」
声をかけると、振り向いた彼女に名前を呼ばれた。
「また明日。遊べるといいね!」
そう言って手を振り、足早に消えていく。
結局、彼女の言葉の意味は分からず仕舞いだった。
咲楽と話してから数分後、着物姿の菜有が遅刻してやって来た。
「……理由を聞こうか」
「あ、とね。んと……あ! そ、それよりこれどうかな? お母さんが昔着てたやつなんだけど、似合う、かな?」
「似合ってるけど、菜有にはまだ早すぎたな」
「……それ、どーゆーこと?」
頬を膨らませている。大体、自分でも察しがついているだろうに。
しかし、まるで七五三だ。――とはとても言えない。言い方を変えよう。
「あれだ。大人の色気が足りないな」
「……ふーくん、なんかオジサンみたい」
「お、オジサン?! ――そ、それより、上手く話題を変えようとしても無駄だぞ! どうして遅くなったのか、ここではっきりと説明してもらおう」
「う……。お、怒らない?」
「理由による」
「……わかった。話すね」
隠し事を見つけられた子供が、親にそれを説明するかのようだった。
しかし内容は、先程予想していた通りで、意外性の欠片もない。
「――という理由です。どうかな?」
礼をして上目でこちらを窺ってくる。まあ、さすがにこの程度の遅刻で怒る気にはなれないか。
「今回は許そう」
「ホントっ!? やた~~!」
よっぽど嬉しかったのだろう。俺の周りをぐるぐるとまわっている。イヌか。
「ほら、もう止まれ」
「そうだね。さ、行こうよ!」
ようやくいつもの菜有に戻ってきて、主導権を握りだした。
彼女が先頭切って歩こうとしていく後ろを、俺はゆっくりと追っていく。
その際、先程言いそびれた言葉を囁いてみた。
「色気はないけど、菜有はそのままで十分可愛いと思うぞ」
「……ひゃうっ?! な、なに?」
「さ、行くか」
一瞬の隙をついて先頭に回り、主導権をこちらが握ると、今度は菜有が慌ててついてくる。
「ま、待ってよ~~」
「じゃあ、並んで歩くか」
「え?」
先程から、俺は不思議に感じていた。どうして一緒に来ているのに縦に並ばねばならない。
「ほら、見て回るんだろ?」
「う、うん! えへへ」
今度は肩を並べて、ようやく祭り会場へと足を踏み入れていった。




