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第7話『無意識に煽り散らかし、ざまあ』

 諸々、今後の方針について思考しようと心構えしていたのに。

 まさかの実技授業で外で行うことになった。

 正しくは授業だったことを忘れいてた、だけど。


「それでは、各自準備するように」


 と、だけ言い残した先生は小休憩と用意してある椅子へ腰を下ろす。


 ここは、魔術演習場。

 別の言い方をするなら、第二校庭――といったところか。


 この世界では体操着があるわけもなく、綺麗な制服で行う。

 現実味のない現実を前に、体育の授業でやっていた準備運動を始めようとするも。

 周りを見渡すと誰も屈伸運動なんかしておらず、ジャンプするわけでもなく杖を取り出している。

 持った杖で宙をクルクルと円状に回したり、クラシックな指揮棒みたいに動かしている人の姿も。


 なるほど、この世界では体操などというものはなく、魔法を発動させるために体の緊張を解したりするのか。

 仁王立ちで杖を操作することばかり集中しているのだから、認識としては間違っていないはず。

 じゃあ俺はどうするべきだろうか。

 いきなり黒い魔力を扱う? いや、なしなし。

 混乱を自ら誘い込むことをしてどうする。


「……」


 あ、そういえば。

 物凄く今更だけど今朝、着替えを手伝ってもらっているときにホルスターベルトみたいなものを脇付近に装着させてもらっていたな。

 上着を浮かせて右手で探ってみると、すぐに杖の持ち手を発見。

 そのまま取り出してみる。


「ほう」


 黒い宝石で来ていると錯覚するほどの磨きもしくは塗装されている杖。

 持ち手が少し太く、先端にかけて細くなっていくも先端が尖っているわけではない。

 チラっと周りの生徒が持つ杖を拝見してみると、それぞれ個性があるのだろう、木そのものの色が出ているものや真っ白なものまで千差万別。

 それによって何が変わるかはわからないけど、1つだけわかることは金がかかっていそう、ということだけ。


 では俺も、と皆に倣って仁王立ちのまま杖をクルクルとクイックイッと動かす。


「それでは、3人一組になって」


 目線を逸らした隙に立ち上がったのだろう、先生はいつの間にか全体に近づいて指示を出し始めた。


 と同行を観察している場合ではない。

 友人関係に恵まれている方ではない自覚があり、それは元々の高校生活でも同じことだった。

 じゃあ今、何をすることが正解かわからず。

 このまま待機し、先生が余った人同士を組み合わせてくれるまで待機するしかない。

 いつもそうしていたように、『もしかして』という淡い期待を持ちながらソワソワと回りへ目線を向けながら。


「おい、ちょうどいいから俺たちと組めよ」


 あー……随分とめんどくさい2人組が来てしまったなぁ……。


 礼の悪態を吐く2人組。

 レヴィアが気を利かせてパシリ扱いをしたのだから、バックに凄い人間が居るという可能性を考慮できないのだろうか。

 それともあれか? この世界では、格上の人間がパシリ扱いしたのなら報復を恐れず、共有財産ということにでもなるのだろうか?


 社会勉強の一角として、せっかくの機会を活かそう。


「じゃあよろしく」

「あぁ? 一緒に組んでもらったことに対して感謝の言葉を告げるべきじゃねえのか?」

「ほらそこ、今は喋るときじゃないぞー」


 先生からの横やりに「ちっ」と舌打ちをする彼ら。

 ここまでの会話が聞こえていたのなら、ソレも聞こえているかもしれないのによくやる。


 少しの間待っていると案の定、溢れた人どうして組むことになっていた。

 あの状況を回避できた1点だけを考慮するなら、2人に感謝の気持ちを伝えても罰は当たらないのかもしれない。

 まあ言わないけど。


「――という感じに、練習を開始してくれ」


 テキパキと実務と説明を終えた先生は、再び定位置の椅子へ戻っていく。


「じゃあ、お前が先に防げ」


 これから行われる授業内容は、攻撃と防御。

 至ってシンプルで攻撃魔法を防御魔法に当てるだけ。

 先生の監督下にある今、さすがに高威力の魔法をぶっ放すことはしないだろう。

 どうせ当たっても制服に施されている防御術式で相殺される仕組みだ。


 ついさっきの授業で、さも当たり前かのように話が出てきたら目が飛び出るところだった。

 ちなみに世界基準の話をすると、『魔法は発動型』『魔術は起動型』に部類されている。


「切り裂け、風!」

「おっと」

「避けるな!」


 授業の振り返りをしていたから、不意に横へ跳んで回避行動をとってしまった。


「ええい。切り刻め、風!」

「拒め、破門」


 向かってくる緑色のバナナみたいな魔法攻撃に対し、俺は長方形の魔法障壁を展開。


「は……?」

「ん?」

「お、お前今……何をした」

「防御魔法を発動した」


 先生の指示通り、攻撃魔法を防御魔法で消滅させた。

 何も間違ったことはしていないし、黒い魔力も使用していない。

 体が覚えている通りに漂っている通常の魔力を体内へ取り込み、杖の先端から魔法を作成するように魔力を変換して発動させた。

 この世界において、極めて普通のこと。


「いつもなら防ぎきれず倒れていただろ」

「不正をしたのか」

「そうだ、そうに違いない。魔術を利用したんだろ」


 要領を得ないな。

 たった1回の攻防があっただけで、何を防いだと疑われなくちゃいけないのか。

 攻撃された、防御した、魔法が消えた、ただそれだけだろ?


 てか気になるのが、1つ目よりも2つ目の方が攻撃力増してないか。


「ズルいぞ!」

「いや魔法だけど」

「卑怯な真似をしやがって!」

「も、もしかして……」

「なんだよ」

「スカーレット様からの慈悲を受けているんじゃ……」

「そ、そんな馬鹿なことがあるはずないだろ」


 なんだか勝手に話が進み始めている。

 たぶん慈悲=魔術が施されている道具か何かを持っている、という話なのだろうが。

 当然、そんな事実はない。


 片方は冷や汗をかきながら少し顎を震わせている。

 対して攻撃をしてきた男は、逆鱗に触れたのか眉間へ皺を寄せ始めた。


「2人でやるぞ」

「でも先生が見てる」

「知るか。授業の一環で3人組なんだから、こういう練習だってするだろ」

「それもそうか」


 せっかく警戒していたのに、単純かよ。


「僕はそれでいいよ」

「舐めた口をききやがって!」

「後から泣いて後悔するんだな!」


 すぐ威勢まで取り戻しちゃって。


 と観察している内に、攻撃準備を開始する2人。

 一緒に言葉を発しているから何を言っているのか聞き取ることができないけど、たぶん最初よりも威力が増している。

 通常であれば学友に向けて放つことはないであろう、その魔法はすぐに放たれた。


「拒め、破門」


 俺が発動させる魔法は、これで十分だろう。


「なっ!?」

「はっ!?」


 想定通り、複数の緑バナナと複数の氷塊は半透明な魔法障壁によって消滅。

 辺りに飛び散ることも、残骸が俺の衣類へ届くこともなく。

 跳ね返って土を飛ばすこともなければ、反射させて彼らへ危害を加えることもない。

 衝突と同時に、文字通り消滅。


「それで、次はある感じ?」

「ふ……ふざけやだって!」

「じゃあ今度は攻守交替?」

「まだだ! まだ続ける!」


 何を必死になって沸々と怒りを爆発させているのか。

 格下だと常日頃から虐めていたから、反撃された気分になって躍起になっているのか? 実際には反撃してないけど。

 首筋を浮かび上がらせ歯茎まで出し。

 次は額かこめかみに血管でも浮き出してきそうな勢いだ。


「おいそこー聞こえているのかー?」


 と、俺は先生の声に反応して体を向ける。

 今更になって気付いたけど、俺って脚すら開いてなかったな。

 たしか仁王立ちからの膝を曲げたり、足を前後に開いたりするんだったか。


 ああ、もしかして彼らは魔法を消滅させられた事実に耐えられなかっただけでなく、戦闘態勢にすらなって否かった俺へ態度や姿勢に対して頭を沸騰させていたのか。

 今にも地団駄を踏み、ごちゃごちゃと文句を言いたそうな気配をビンビンに感じる。

 先生に制止させられてもなお、刺々しい目線を注がれていることから――たぶん推測は当たっていそうだ。


「では次に――」

「……」


 ふっ。

 でも俺は、悟ってしまった――いや、理解してしまった。

 あの悔しそうな顔と態度を拝むの、楽しいなって。

 必死に表情を抑えているが、このなんとも言えない優越感というのだろうか。

 今にも満面の笑みを浮かべて煽り散らかしたいな。


 この……なんというか……悪役ムーブ……最高だ。

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