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第5話『偽物令嬢との駆け引きに、敗北』

 授業中――俺は聞き捨てならない話を聞いてしまった。


『倉庫に眠る書物の中には、禁忌の本が封印されている』というもの。


 あまにりもオカルトな話というか、先生は生徒を怖がらせるために話題を出したのだろう。

 案の定、生徒が身震いをしている姿を見て笑みを浮かべていた。


 幽霊的な存在として、この世界では“禁忌”や“封印”というワードが人間を怖がらせる象徴らしい。

 それはそれとして。


「……」


 倉庫内に到着し、書物探しを開始。

 禁忌だの封印だのって話だったから、てっきり蜘蛛の巣が張り巡らされていたり埃が被っている状況を想像したのだけど。

 思っていた以上に綺麗だし、探し物をしやすいように整理整頓されている。

 これでは目当ての書物を発見しても期待外れな結果で終わりそうだ。


 別に俺はオカルト的なものを信じているわけではない。


 ただ、教室中がガヤガヤしている最中に先生がボソッと「理を覆すほど恐ろしい力が眠っている」という言葉に反応しただけだ。

 なんて言うのは、誰かに伝えるための言い訳。

 じゃあ実際はというと。


 当然、最強へ至るためのヒントを得るためだ。


「――」


 物品や書物は沢山あるけど、厳重に封印されている箱らしきものは未だ発見できず。

 教室まるまる1つ分の広さに天井まで届く棚が数列も並んでいるから、探し当てるには時間がかかるのは部屋に入ってすぐ覚悟した。

 さすがに数回に分ける必要が――。


「これか?」


 箱に入っているわけじゃないけど、黒い縄? と黒い鎖? みたいなものが本を結んでいる。

 いや……どちらかといえば包んでいるようにも見えるな。


 どう考えても封印を解錠すれば怒られるのは確定。

 だが衝動に抗えることができない。


 魔力で短剣を作成し、切断を試みる。


「できちゃった」


 では遠慮なく、と本を開く。

 ありがたいことに苦労せず読み進めることができるも、記述されている内容は小難しいことは事実だけど理解できるものばかり。

 言い回しに眉をひそめることもあるけど、たぶん回りくどいだけで大事なことではないだろう。

 でも読み飛ばすことはできない、どこに大事な内容が記されているかわからないから。


 ん? なんだこれは。


幻核(げんかく)魔力……?」


 ――――――――――正式表記は幻核魔力(エンハンスマテリアル)

 超濃縮された魔力群を示した魔力であり、通常の魔力より強力な魔法が発現可能。

 しかし器となる宿主の成熟もしくは資格が必須であり、要件を満たさぬ状態で幻核魔力(エンハンスマテリアル)を体内に取り込むと最悪死に至る。

 なお、この書物を封印した棘も幻核魔力(エンハンスマテリアル)を使用していることから、同類による開放がない限り情報が伝わることは金輪際ない――――――――――。


「半分以上が脅しじゃん、これ」


 あまりにも魅力的な内容が記されており、もはや必須級なものだ。

 そして、この書物を封印した人物は幻核魔力(エンハンスマテリアル)を既に扱うことができる人物ということになる。

 上には上が居る、とはまさにこのこと。

 この事実に辿り着くことができなければ、例え表舞台の人間全てに勝利しようとも、裏舞台から出てこない最強には勝つことができない――ということだ。


 ……ん?


 待てよ、『同類による開放がない限り情報が伝わることは金輪際ない』って書いてあるよな。

 あれ?


「扱えているってこと?」


 ――――――――――幻核魔力(エンハンスマテリアル)は、常に生成され続ける魔力が濃縮されることによって形成される。

 これは自浄作用でもあり、魔力生成が過剰になることを防ぐ効果もあり。

 しかし、そもそもが認識されなず常人は吸収または利用することすら叶わない――――――――――。


「そろそろ時間か」


 休み時間という時間の制約がもどかしい。

 思い切って1時間分の授業をサボってしまおうか、という選択肢はあるものの、それはそれで言い訳を考えるのが面倒だし、家の方に連絡を入れられる可能性も面倒くさい。


 名残惜しいけどここまでだ。

 本をパタンと閉じ――。


「再封印ってどうやるんだろう……」


 自分でやっておいて、やはりこの問題に直面する。

 しかし時間的猶予はない。

 本を閉じてシレーッと元にあった位置へ戻しておこう。


 クルッと回って何事もなく廊下へ移動。

 さあ教室へ戻ろうとしたときだった。


「何してたの?」

「……」

「この部屋、生徒は入らないようにって先生が言ってたよ」


 自称・偽物令嬢、ルラーナ・ルサリアルランハート。

 急に横から声をかけられたから正直驚いた。

 そんなことよりも、どうしてここに……。


「だね。でも頼まれて」

「そうなんだ? 頼りになるんだね」

「どうだろう。偶然だと思うよ」


 ルラーナからの返答はなく、静寂が訪れる。

 疑っているのか、俺の出方を観察しているのか。

 身長が俺よりも低いから仕方ないけど、上目遣いがよりそう感じさせる。


「じゃあ、ボソボソと独り言が聞こえたのは?」


 ギクッ……あまりにも不覚、言い訳ができない。

 というか、そこまで知っていて情報を後出しするのか。


 いや、いいやまだいける。


「珍しい物ばかりだったから、興味が湧いたんだ。僕、こういう物珍しさに弱くて」

「その気持ちはわかる。ボクも入ってみたい」

「だよね」


 もしかして今、俺は揺さぶられているのか。

 まだ決定打となる情報を持っていて、隙を突こうとしている……?

 でもそこまでする理由はなんだ?


「こんなところでどうした?」

「先生」

「そろそろ授業が始まるから、教室に戻るんだぞー」

「はい」


 次々にドキッとする展開が続く。


「戻ろう」


 さっきの対応もルラーナがしてくれた。

 陥れる目的があるのなら、今ここで先生に報告していたはず。

 でもそうじゃなく、今も普通に廊下を歩いているだけ。


「ふふ、ボクは王子様の隣に居ることができたらそれでいいの」

「はい?」

「本当は自分を“俺”と呼ぶところを“僕”と偽っていても、ボクに対して嘘を吐いて騙そうとしても」

「……」

「実は最初から全部聞いていたよ。幻核魔力(エンハンスマテリアル)についても」


 やはり決定打となる情報を隠し持っていた。

 しかし妙だな、やはり弱みを握って何かに利用するつもりなのか。


「ボクはさっきのことを全て誰にも言わない」

「代わりに対価を支払え、と」

「そんな物騒なことは言わないよ。さっきも言ったけど、ボクを傍に居させてほしいの」

「その心は?」

「表も裏もないよ。ずっと一緒に居たいから」


 なんだそれ。

 どうして気恥ずかしさを滲ませずに真顔で告白みたいなことを言えるのか。


「――……わかった」

「やったっ」


 チラっと目線を向けると、ルラーナは横顔でもわかるぐらい満面の笑みを浮かべていた。


「それともう1つ。ボクと居るときは、周りに誰もいなかったら本当の姿を見せて欲しい」

「……わかった」


 ここまで話を進めておいて、拒否権があるはずもなく。

 でもまあ1人ぐらい、素の俺を知っている人間が居たとしても悪くはないだろう。

 協力関係ではないにしても、世間知らずな俺は少しでも情報が欲しいのだから。


「で、僕たちの関係はどんな感じになるんだ?」

「学園では友人同士。ボクとしては主従関係でもいいけどね。もちろん、ボクが下だよ」

「それは勘弁してほしい――ん?」

「ボクはお姫様になりたいわけじゃないよ。従者として付き従いたいの」


 こ、これ……もしかして、変な人物と知り合ってしまった……?


「これからよろしくね主様」

「う、うん」

ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!


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