第4話『悪役、夢を語る』
「ボクの名前はルラーナ・ルサリアルランハート」
歩き始めて早々、唐突に自己紹介をされて止めるタイミングを見失ってしまった。
というのもあるが、これからどうするか考えていたせいでもある。
昨晩の少女同様に関係は断っておきたいところだが……同じ学園に通っている以上、完全には難しいか。
「まずは謝罪をさせて欲しい」
「何を?」
「偶然通りかかっただけで、盗み見たりするつもりはなかった」
と言い訳を並べ続け、俺への注意を散漫にさせて能力に対する追及を逃れよう……と考えているんだが。
「1つ聞いていいかな」
「うん」
俺は足を止め、ルラーナへ体を向ける。
「どうしてさっきから目線をこちらに向けているんだ」
「だって、見たいから」
どういう理屈?
「名前、教えて欲しい」
「それに関しては断らせてほしい」
「どうして?」
「厄介事に首を突っ込んでしまった後悔があるし、長引かせないためにも」
「そう……」
物寂しそうに下げながら、ルラーナは歩き出す。
俺も肩を並べて歩き出し、気まずい無言の時間を絶える。
相手からすれば突き離すのなら助けてもらわなくてよかった、という気持ちもあるだろう。
それに関して言われたら素直に謝罪する。
しかし、最初に蹴散らした人間も追加され状況がさらに悪化していた可能性の方が高かったわけだし、力がなくても見過ごす方が無理というもの。
チラっと目線を向けると、未だ目線を下げたまま。
黒髪ロングが歩くたびにサラサラと動き、正面からでも思ったけどモテる容姿はしている。
腕を掴んでいた男が主犯、というか、狙っているのだろうが……乱暴さや諸々を含めて合う組み合わせではない。
まあ……この学園は金持ちばかりなのだろうから、何かしらの縁があったり親同士の繋がりがあったりするのだろう。
「ねえ、なんであんなに強いの?」
「努力もとい修行の結晶というところかな」
「何か目標があるったり?」
「ああ、俺は最強を目指している。誰にも負けない強さを手に入れ、世界の裏側で暗躍したい」
「凄い。盛大な目標」
あ。
「い、今の忘れてくれない?」
「どうして?」
うわぁああああああああああああああああああああ!!!!!
俺としたことが、ここだけの関係と割り切っていたはずなのに自分の目標を口に出してしまった!
しかも勢い余って一人称も“僕”でいこうと決めていたのに“俺”って言っちゃったし!
「そんなに凄い目標があるのに、もったいない……」
かつて友人だった人へ打ち明けたとき、キョトンとされるか大爆笑された。
俺はずっと本気でそう思い続けていたのに、誰1人として真に受ける人も応援してくれる人もいなかった。
だというのに、今“凄い”って言った……?
「ボクには目標といえるものは何もない。生まれてからずっとそう」
正面から表情を窺ったわけじゃないが、明るみのない声色が全て物語っている。
「小さい頃から……いや、生まれてからずっと……偽物って言われ続けてるの」
「偽物?」
生まれてからずっと、ということは養子じゃないだろうし、まさか不倫か入れ替えでもあったドロドロな話……じゃないよな。
そんな問題を抱えているのなら、こうして裕福層が通う学園に入学することはできないだろう。
というよりも、そんな揉み消したいような事実を自分から言うはずがないし、たぶん周りも知っていること……だと思うし。
「ボクね、周りの人間が魔法を扱えなくしちゃうの」
「ん? でもさっき男が使おうとしてなかった?」
「うん。使おうとしてたね。でも発動しなかったと思う」
「相手は知っているの?」
「みんな知ってると思う。だから誰も近づいてこない。ああいった、自分が優位に立っていると思っている人たち以外は」
あー、どこにでも居るタイプの人間か。
自分の力を過信しているか、両親や家の力を自分の力だと勘違いして態度がデカくなりやつ。
ん? でも待てよ?
俺、間違いなく魔力を活用して身体能力を向上させて動いていたぞ?
「でも凄い。魔法を使わなくても強いなんて。かっこよかった」
「ん? え? まあ?」
「それに、さっきの人たちも倒しちゃったんでしょ?」
「そう……だね」
何も言わずに通過したけど、さすがに言い訳できないか。
「1つだけ質問しても?」
「うん?」
「魔法を扱うことはできないが、魔力を扱うことはできる?」
「凄い着眼点。でも理屈は一緒。空気と同じように漂っている魔力を体内に取り込み、魔法として発現させる。魔力を扱うことと魔法を扱うことは同じでしょ?」
「うん、そうだね」
この世界の常識を突き付けられ、返答に困ってしまう。
そういえばそうだった、この世界には大気中に空気とは別の存在として魔力が漂っている。
でも息を吸うように自然な動作で体に取り込むことはできず、意識的かつ意図的に魔力を扱い、変換が上手い人間が魔力の威力を上げることが可能。
下手な人間は、取り込んで変換できなかった分は外へ漏れ出てしまう。
なるほど、その理屈であれば俺が魔力を扱うことは可能だ、魔法に関しても。
なんせ俺は魔力を体に吸収し続け蓄え続けているのだから。
「じゃあ自分で魔法が使えないってこと?」
「ううん、使えるよ」
「ほう?」
「漂ってる魔力をそのまま利用する魔法。精度は欠けちゃうけど」
「なるほど」
完全に忘れてました、その魔法。
この世界には2種類の魔法発動させる手段があって。
体内に取り込んで発現させる魔法と、漂っている魔力を利用して発現させる魔法がある。
前者は精密さや意識通りに扱うことができ、後者は全てが真逆ではあっても物量や威力に優勢。
どちらにしても魔力変換が実力の有無にかかわってくる……ということを完全に忘れていた。
「――じゃあここで」
「さっきは助けてくれて本当にありがとう」
「偶然の偶然だったから、自分が幸運だったと思っておけばいいよ」
「うん。奇跡であり必然だったと思うことにするね。じゃあね、白馬の王子様」
最後に向き合ったけど、彼女は少しだけ柔らかい表情で意味不明なことを言い去って行った。
掴みどころがなく、発現や言動が理解に苦しむ。
状況が状況じゃなくても関係性を継続することは避けたい感じだったな。
まあでも、口を開かなければ綺麗な顔立ちだったし? 手に華を持つ、という意味では隣に居たら気分も高揚しそうだけど?
そんな夢物語は置いておいて。
独り、拳を握り締め空を見上げる。
俺は最強になる。
表での立ち回りはまだ考えてないけど、裏の世界を支配し、悪を討つ。
裏で悪を討つ……そう、良い意味での悪名を広めてやろうじゃないか!
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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