第3話『悪役、悪を摘む』
「おはようございます」
そんな、丁寧な言葉行き交う学園。
誰もが白を基調とした上下にワンポイントの赤色長ネクタイな制服を着ている。
言葉遣いや身のこなしには上品さが漂っており、見るからに俺が知っている高校とはかけ離れていて。
どうか、どこかにボタンを2個ほど外して制服を崩して着用している人を探してしまっている自分がいる。
「……」
そんな廊下を歩き、教室へ向かうことへの抵抗を感じた俺は時間の猶予を活かすために再び外へ出て裏庭へ向かう。
この学園へ通っている俺もまた同類であることは、昨晩帰宅しただけですぐに把握できた。
家は4階建てで、部屋の数は各階に何個もあり。
歩く廊下には赤い絨毯が敷いてあり、横の窓にも分厚い赤いカーテンが何枚もあった。
当然、使用人というか執事というかメイドというか――料理人から身支度係まで居て、もう金持ちのソレ。
朝食でさえ両親の手作りではなくレストランで出てくる品々が並んでいた。
「はぁ……」
幸いにも記憶はなくとも、体が覚えていることはある程度のことができるようで助かった。
ついでにわかったことは記憶に関して。
完全に記憶がなくなっているというよりは、体や脳に連動している記憶は意識しなくても出てくる。
というのも、両親の名前すらわからなかったけど口を開いてみたら出てきた。
加えて使用人の方々も同じで、勉強の内容も手を動かしてみるとスラスラと書けて。
だから自分の名前を書くこともできたし、この世界の言語や勉強も大丈夫ということになる。
自分で努力していない能力を借りているみたいで、前の宿主が頑張った努力の成果を称えつつも腹の中に居心地の悪さを感じてしまう。
まさか不良という存在を避けてきた人生だったのに、右も左も優良生徒しか居ない場所で居心地の悪さを感じてしまうなんて誰が想像できたか。
「ん?」
完全に裏庭へ到着したわけじゃないけど、人だかりを発見。
人を避ける行動をしているのに……ここは学園だし、物理的に孤立する方が難しいのはその通り。
通路中央、左は校舎、右は草木という状況だから迂回して裏庭を目指すより、諸々を諦めて教室へ戻った方がいいかもしれない。
「もうやめてください」
半身ほど振り返ったタイミングで、女性の声が耳に届いて動きを止めた。
見かけたときには男子しか視界に入っていなかったから、てっきりそういう集まりかと思っていたのに。
どうやら状況は違うらしい。
「そんなこと言わず、ね?」
「学園では関わらないでください」
さて、どうしたものか。
学園での立ち回り方は、まだ考えていない。
女神様から聞いた元の宿主は比較的穏便で、こういった厄介事を前に飛び込んで行くような勇敢さは持ち合わせていなかった。
物凄く親近感を覚えてしまったが……あ。
「そこで何をしている」
考えている内に、他のグループが帰り道を塞いでいるじゃあありませんか。
「憂鬱な気分を晴らすために空を見上げたまま歩いていたら、ここへ」
「そんな馬鹿なことがあるか」
「あるだろ普通に」
「あ?」
おっと、勢い余って心の声が漏れてしまった。
「ほら、寝起きが怠かったり、テストが面倒だったり、宿題を学園に忘れてきてしまったり。朝から気分が最低な日ってあるでしょ?」
「まあそりゃあ誰だって――そんな口車に乗るわけないだろ」
いや今、腕組して「うんうん」「あるな」と頷きながら納得してたじゃん。
1人どころか、視界に入っている4人全員が同じ反応を示していたよ?
「敵意はないから、穏便に済ませよう。今すぐ去るから」
「アレを見た人間を易々と通すとでも?」
「同じ学園の生徒を脅す? それとも、殺めると?」
「さすがにそこまでするつもりはねえ。だが、痛い目に遇ってもらわねえと誰かに言うかもしれねえだろ?」
こういう輩には、「そんなことをしなくても」と言っても通用しない。
「そんなことをしなくても誰にも言わない、なんて言葉は信用できねえ」
ほらね。
というか、既に習字の筆ぐらいな長さの杖を取り出して魔法を放つ準備を始めている。
まさに『聞く耳を持たない』という言葉を完璧に再現しているな。
じゃあ僕が取る選択肢は、いくつかある。
とりあえず魔力で剣を生成してぶった斬ったら即時解決するが、まあさすがに今はやめておこう。
今回の最適解は、昨晩試すことができた魔力を体に蓄え身体能力を向上させる体術。
「俺、強いよ?」
「見栄を張ったところで意味なんかねえ!」
左足を引き、体勢を少し低くする。
魔力の補充など必要ない。
修行脳な俺は、いついかなるときも魔力を体に蓄えているから――。
「なはっ!」
「んはっ!」
「だはっ!」
「とはっ!」
――人間離れした高速で移動し、拳を顔面と腹部に抉るようにぶち込むこともできる。
昨日より出力を抑えながらもパフォーマンスを向上させることができた。
4人全員が完全に気を失って倒れ込んでいるけど、過剰防衛と認めるが自業自得ってことで。
「……」
あちらはあちらで、お取込み中だからこちらの状況には気が付いていない様子。
しかし尚も動きがないということは、女子1人を男子数人で囲んでいることに変わりない。
既に面倒事を1つ片付けたから、これ以上の関与は火種を撒き散らす行為になる。
学園では目立たないようにする方針を立てようとしていた矢先の出来事。
もはや1つも2つも変わらないと割り切るか、今からでも見なかったことにして転生前同様な生活を送るか。
「は、離して!」
ああそうだな。
周りの人間に嘘を吐いたとしても、自分にだけは嘘を吐きたくない。
俺は助走をつけながら跳躍し、着地と同時に壁となっている3人を校舎の壁へ投げ飛ばす。
「あ?」
残り3人。
腕を掴まれている様子が視界に入り、その男以外は蹴り飛ばして木にぶつけた。
少々やりすぎた気もするが、打ち付けられた5人は意識を失っている。
「誰だお前」
「手を放せ」
「言われなくても!」
杖を手に振り返った男と無駄な時間を過ごす必要はない。
魔法を発動させられる前に、拳を下から振り上げて顎へ一撃。
そのまま振り抜かず、首を掴んで地面へ叩きつける。
「――」
強そうな外見をしていたような気はするが、完全に意識を刈り取ったようだ。
過剰防衛? いやいや、1体複数人だからセーフセーフ。
「白馬の王子様……」
男たちの壁が取り払われ、姿を現したのは少し目線を下げるほどの身長をした黒髪ロングの少女。
手首を抑えていることから、男に捕まれて痛かったのだろう。
「とりあえず、ここから離れよう」
「は、はい!」




