第25話『極黒の魔道弾でヘッドショット』
世界の常識を知らない俺でも、初見でわかる外観。
「氷龍……」
水色の肌だけで判断したのではなく、レヴィアが放った大魔法の影響を受けて炎が拡大していてた場所にも判断材料がある。
なんせ、姿を現したかと思ったら地面を凍てつく大地へと変貌させてしまったのだから。
「……始めて見た」
「私も」
「存在自体が希少で、そもそも話題にすら上がらないのに。どうしてこんな場所に」
あそこまで強力な力を扱う存在が話題にすら上がらないなんて、余程のことだと思うが。
もはや伝説的な存在として語り継がれているだけ、とでも言うのか。
それか普段は温厚で表舞台に出てくることはない、みたいな感じ?
氷龍は辺りを警戒している様子は伺えず。
かといって油断しているようには見えず、巨大な羽をバサッバサッと動かし空中に漂っている。
「あれは危険な存在?」
「どうかしら……授業でも出てこないほど話題性が秘匿されているとでも言えるから、なんとも」
「ふむ……」
「家の書庫で発見した文献によると、『古来より生物同様に子孫繫栄を主軸に後世へと代を変え続ける』と書かれていたわ。だから伝説的な存在と言えるし、魔獣の部類に属するとも言える」
生きているのだから、そりゃあそうだよなと思う反面、親が居るなら子もいるということになる。
であれば、あそこに居るのはどっちなんだ。
「とりあえず炎は消し止められたのだから、この場から離れることが最善だと思うわ」
「一応、確認したいんだが。あの氷龍って絶滅危惧種で国の保護対象になっている、とかはない?」
「むしろ討伐対象として指定されているわね」
「ほう」
「え、まさか……戦わおうとしていないわよね?」
力試しができそうだったゴーレムはレヴィアが討伐してしまった。
成績に反映されるのだから、悪くなくても俺が授業中に得られるものが少ない。
いろんな情報に触れることができた、というのなら収穫はあるが、実力を知ることはできていないから。
「一応言っておくけど。ドラゴン種ならびに龍種は魔獣ではなく魔物だから、倒してしまうと痕跡が必ず残ってしまうわ」
なるほど? 魔獣と魔物って別種なんだね?
そして今の話からするに、違いがあって痕跡が残るということは生物と同類になるのかな。
先ほど魔獣と戦闘したけど生物とは思えない挙動をしていたというか、体を貫通させたのに血飛沫すら上がらなかった。
ましてや死んだとき蒸発する用に消滅していったから、最期がああいう感じにならないということなんだろう。
「それに地上へ降りてこないと魔法が届かないかも」
「なるほど」
「私も加勢して誘導できたら可能性はあるかもだけど……」
「いいさ、無理はせず休んでてよ」
「こちらとしては待っているだけでも怖いわ」
言われて気付いたけど、そりゃあそうか。
思う存分暴れ回って魔法をぶっ放しまくる戦い方で、相手も反撃で攻撃を仕掛けてくる。
あの大火事を一瞬にして氷の大地へ変えてしまったほどの攻撃が、配慮など関係なく振り撒かれるとなれば、動けないレヴィアが危ない。
そう考えると接近戦が望ましいけど、空を飛べるわけじゃないから無理。
大魔法を使用すれば遠距離からでも攻撃を当てることができそうだが……まあ無理無理。
小魔法は速度重視だからこそ短文詠唱で魔法を発動することが可能。
しかし大魔法を間近で見学して学んだのは、魔法名だけに留まらず詠唱文まで暗記していないといけない。
元の宿主は知っていたかもしれないが、今の俺では何も思いつかないし、体で覚えていることから逸脱しすぎていて補助にもならず。
何かいい手はないだろうか……。
「やっぱりやめておきましょう。私が巻き添えを食う未来しか見えないわ」
「あ、閃いた」
「え?」
この世界にはないであろう、そして【存在武器】とルラーナなどが扱える上級テクニックの体外魔法発現を掛け合わせた、とっておきに遠距離攻撃方法。
しかも大規模的な魔法ではないし、イメージもしやすい。
そして最悪、腕輪が破損してしまってもドラゴンの死体が残るから言い訳ができる!
「一応確認しておきたいんだけど」
「う、うん」
「あの氷龍って、先生たちだったら倒せそう?」
「どうかしら……戦っているところを見ていないから断言はできないわね」
「それはそうか」
「でも学園に展開されている強力な防御結界であれば攻撃を防ぐことはできると思う」
「なるほど」
「内側からは魔法を貫通させることができるから、結界を活用すれば討伐可能かも?」
「わかった」
そんな凄い、魔法障壁をも超える魔法結界なるものの情報に驚きつつ。
であれば最悪の事態も回避できるということ。
「失敗したら抱えて結界内に撤退する」
「できるだけ早めに判断してもらえると助かるわ」
「善処する」
「たぶん戦っている最中、ずっと生きた心地がしないでしょうから」
さて、準備準備。
「何をしているの?」
「戦闘準備」
「随分と不思議な準備ね」
俺は右手を氷龍へ掲げ、小指と薬指を曲げ親指を立て。
左足を引き、肩を開いて指先から肩まで一直線に保つ。
そう、右手に銃を持って照準を定めている姿勢だ。
「届かなかったら諦めがつくからちょうどいい」
「え?」
左目を閉じ、右目で氷龍を一点に見る。
そして指先に体内に蓄え続けている幻核魔力を指先より少しに“弾丸”を想像しながら放出、形成。
濃縮された魔力をさらに濃縮するイメージで、先端を細くさせ尖らせつつも丸みを帯びさせ。
素人丸出しだが、想像通りの弾丸が完成。
見よう見まねだが、対物ライフルの弾丸を想像してみた。
「な、何それ……?」
「一応だけど、俺の後ろに回って耳を塞いで口を開けておいてもらえる?」
「うん」
レヴィアは未だ立ち上がることができるほど回復していないようで、地面をズサズサと擦りながら移動しているようだ。
移動を指示したのは浅い知識だけど、記憶の片隅にあったものを念のために言ってみた。
ロケットランチャーとかは後ろに居ると危ないって聞いたことがあるけど、スナイパーライフルはたしか大丈夫だったような気がする。
「よし、撃つよ」
移動する音も止まっているし、俺の声に返事がないから指示通りにやってくれているということ。
「狙うは当然――ヘッドショット――ッ!」
発射時に懸念していた音は鳴らず、サプレッサーも驚きの無音。
しかしソニックブームも驚きに衝撃波が発生――俺を起点に左右の地面や木々などが吹き飛ばされ粉々に砕け散り、それは弾道に沿って道を形成していく。
そして、対象へ着弾するまで時間はかからなかった。
『ンギャァアアアアアアアアアアッ――――』
結果、頭部へ直撃し悲痛の断末魔も途絶え力なく急降下。
いろいろな想定外を体験したけど、氷龍の声も想像以上に騒音すぎてビックリした。
これだと学園まで届いてしまっただろうから、死体も発見されることだろう。
ゴーレムを討伐した件もあるし、諸々が時間の問題だったわけだけど。
「う、嘘でしょ……」
「討伐完了」
「えっ!?」
「ん?」
「うわ」
レヴィアが急に驚き始めるから、振り返ってみると。
俺から前方と横の地面が抉れ、更には足場を残して背後まで衝撃波の影響が及んでいた。
そして驚いていた意味と俺が反応した意味を示すのは。
あのとき退避指示を出していなければ、今頃レヴィアは吹き飛ばされていたか、最悪命を落としていたということ。
「あ、危なかったね」
「ごめん。今、生きた心地がしない。ねえ……私、本当に生きてる?」
「生きてる生きてる。大丈夫」
「あぁ……気を失いそう」
頭をフラフラと振りながら目を抑えるレヴィア。
さすがに気の毒としか言いようがない。
「生きてることを確認するついでに」
「ひゃっ!?」
「おんぶや嫌そうだったから」
状況が状況だから、このままここに居座り続けるわけにはいかない。
俺はレヴィアをお姫様抱っこして、立ち上がる。
「1人で歩け――ないけど、立つことぐらいは」
「できるの?」
「いえ……」
「時間に余裕があるわけじゃないから、今は我慢して。それともおんぶの方がいい?」
「こ、このままで……お願いします」
急に抱きかかえられたら驚くだろうし、顔が真っ赤になるぐらい恥ずかしいと思うのは百も承知。
頑張って両手で顔を覆い隠していても隙間から見えるし、逆の立場だったらと考えたら理解できる。
「落とさないよう努力するけど、片手だけでも服を掴んでおいて」
「……はい……」
とんでもなくか細い声が返ってきたことを確認し、駆け出した。




