第26話『大騒動で混乱状態、故意な事故』
「先生」
終始、羞恥心を堪え続けていたであろういろいろと真っ赤なレヴィアを抱きかかえたまま、集合場所へ到着。
辺りには誰もいないが、先生は緊張と焦りを表情に出している様子だ。
「キミたち! よかった大丈夫だったようだね」
「大丈夫じゃない1人は居ますが」
「レヴィアくん、もしかして怪我を?」
「い、いえ。私――わたくしは大丈夫ですわ」
「そうか。キミほどの子が怪我をするわけがないか」
随分と絶対なる信頼を寄せられているようで。
俺に対しては途轍もない心配を前面に押し出していたのに、レヴィアのときだけは心配よりも確認する感じだった。
それほどまでに実力があるということでもあり、実績を積み上げてきている証拠ということだろう。
でも先生、彼女さっき自分で立ち上がることができなくなるほど全力を出していましたよ。
後から腕輪を見て結果がわかると思いますが、驚かずに評価してあげてください。
「キミたちで最後だ。今すぐに校舎内へ退避するんだ」
「何かあったのですか?」
「龍種が襲来したんだ」
「龍種ですか?」
「ああ、もしかしたらドラゴンと言い換えると耳にしたことがあるかもしれない」
「え、あのドラゴンですか?」
「そうだ。森の中で聞こえただろう、あの凄まじい咆哮を」
「たしかに聞こえました。あれがそうだったのですね」
物凄く近い場所から『なんて白々しい』という無言の目線を圧を感じるも、目線は向けないぞ。
「得体の知れない声に恐怖しました」
言葉として出さないか懸念したが、表立って能力をひけらかしていない事実を把握しているからこそ、俺の演技に付き合ってくれた。
今回が能力の初出しだった場合、たぶん不意に喋ってしまっていただろう。
さっきは勢い余った行動を失敗と捉えて後悔していたが、結果的に正解だったようだ。
まあ……命を助けただけに留まらず、願いまで聞き入れ、こうして再び危機的状況を救ったのにペラペラと話されたら不義理でしかないから軽蔑していたが。
「あ、先生」
「どうしたんだい。やはり体に痛いところが?」
「それは大丈夫なのですが。走ってくる合間に魔道具が壊れてしまったようで」
さっきは確認していなかったけど、今となって右手首へ目線を下ろすと一見してわかるぐらい最初にはなかったヒビが入りまくっていた。
「いいさ、それぐらい。レヴィアくんのは大丈夫なのだろう?」
「はい、大丈夫みたいです」
「その心配はいいから、速やかに校舎内へ退避するんだ」
「ちなみに、そのドラゴン――居なくなりましたよ?」
「え?」
「偶然にもドラゴンを視界に納めることができまして。墜落していました」
「本当のことかね、それは」
「はい」
俺の進言に眉間へ皺を寄せて顎を触る先生。
思考をフル回転させているのだろうことは一目瞭然。
大騒動と発展し混乱状態となっている今、戯言として扱うのか真実として受け入れるのか判断材料をかき集めているに違いない。
それほどまでにドラゴンもとい龍種という存在は、強力でもあり脅威でもあり恐怖でもあるのだろう。
「でも確かに。咆哮が響き渡った後、それに続く攻撃はなく姿も見せていない。加えて巡回中のゴーレムが倒されている通知も来ていない」
ゴーレムと戦闘する前にレヴィアが情報を出してくれてよかったぁ。
説明通りに通知が行くようだし、今の説明を深読みしなくても1体の討伐は既に把握されているようだ。
手放しに褒められるような功績でも、状況が状況だから後回しにされているのだろう。
「もしかして【魔幻天最】が偶然にも対応してくださった可能性もあるか……」
おぉ、ここでもレヴィアが出してくれた情報が勝手に出てきてくれた。
説明を受けたから言っていることや想像していることが理解できるし、なんなら流れで事態が解決しそう。
「わかった。でも念のために移動はしておいて。先生たちが確認しに行くから」
「わかりました」
指示に従い移動開始しようと足を開いたときだった。
「あ、そうそう」
「はい?」
「想像したことはなかったけど、アヤトくんは力持ちなんだね」
「鍛えてはいます」
「それとレヴィアくん」
「はい」
「危機的状況とは言え、怪我をしていないのに……一応は公共の場だ。公私混合させるのは周りの生徒に勘違いを及ぼす可能性があるよ」
先生は何を言っているんだ?
「あ! あぁ! いえこれは! 事情がありまして!」
「まあいいさ。学生たるもの青春は謳歌しなくちゃね」
「違うんです! 話を聞いてください!」
「さて、急ぐからこの辺で失礼するよ」
「先生ーっ!」
と、不明なやり取りを交わした後に先生は走り去って行った。
魔法使いは体力がない、なんて認識でいたが――先生は普通に走ってるから認識を改める必要があるな。
「――く」
「ん?」
「わ、私……歩く」
「もう大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないけど、歩く」
ずっと小さい声で話しているから聞き取りにくい。
おまけに目線と顔も下げているから、なおのこと。
「ふらふらだけど本当に大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫」
「ふーん」
「でも倒れそうになったら腕だけ貸して」
「うん」
1歩、また1歩と歩き出すレヴィア。
しかし、その間隔は1歩あたり10秒ぐらい。
校舎の入り口までは……たぶん100メートル。
この調子だと先生たちが戻ってきちゃいそうだけど、まあ安全なことは俺たちが一番よく理解しているから焦る必要はないか。
さて、バレる心配はないが結果はどうなるかだけ気になるな。
「あっ」
「おっと」
俺の右腕へ倒れ込んできたレヴィアに合わせて足を止める。
「ごめんなさい。まだ歩いてみるわ」
「ほどほどに」
俺たちは、よちよち歩きと同等の速度で足を進めた。




