第24話『ゴーレムへ放つ、彼女の大魔法』
「ん?」
妙な違和感を前に、足を止める。
「ちょ、ちょお」
背後には言葉すらまともに発することができないレヴィアが、「もう無理」と言いながら地面を擦りながら崩れ落ちる。
心配をして振り返って優しい言葉をかけてあげる方が親切だろう。
だが俺は、視界に飛び込んできた違和感から目を離すことができなかった。
なんせ、森の中を獣でも魔獣でもなく、盗賊でも山賊でも他生徒などの人間でもなく。
異質であり異物感が漂い続けている“ゴーレム”が歩いているのだから。
「あれは……」
「あぁれぇはぁ――はぁ――ゴ、ゴーレムよ」
「始めて見た」
「そ、それはそうでしょう。だっ、て、あそこより先は危険地域になるんだもの」
呼吸を整えつつも説明してくれているのはありがたいけど、大丈夫そう?
「あれって強い?」
「え、えぇ? まさか戦うつもり?」
「それもありかなって」
少しだけ観察してみたが、のそのそしていて素早い戦闘にはなりにくいだろう。
そしてゴーレムということは、自然発生というよりは人工的かつ魔工的に作成されたもののはず。
加えて徘徊し続けているだけではなく、獣や魔獣と対峙しても対応できるだけの能力を備え付けているだろう。
しかし本来の役割は別で――。
「あれは生徒が迷っても危険地域に行ってしまわないよう、道しるべでもあり、魔法使いの戦意を削ぐほど強力な魔法障壁を展開し続けているものなのよ」
――と、待っていればレヴィアがいいタイミングで説明を加えてくれる。
要は学園関係者ってにより作成されたゴーレムであり、生徒が危険地帯へ足を踏み入れないように立ち塞がる防波堤ということだな。
であれば対峙すれば可能性として、何かしらの通知がいくかもしれない。
しかし逆に言えば、レヴィアが常に目指す1位を獲得する条件としては申し分ないはず。
「そしてゴーレムは魔道具だから、倒されると管理者に知られるわ」
おっと、これは予想が外れた。
でも魔道具であれば通知が行く流れも不自然ではない。
しかし通知がいってしまうことが確定したから、幻核魔力を使用して戦闘することは避けることが必須。
まあ腕輪の魔道具があるから最初から使えなかったか。
「ちょ、ちょっと待って」
「ん?」
立ち上がるような砂を擂る音が聞こえ、振り返る。
「物凄く興味が湧いてしまったかも」
「何に?」
「あのゴーレム、歴代の学園生徒で破壊に成功した人は10人だけみたいなの」
「ほう?」
学園の歴史が何年ほど続いているのかわからず反応に困ると同時に、逆に10人も挑戦した人が居ることに驚く。
防波堤の役割をしているというのなら、あの先には危険が待っているということであり、外側の危険を周知していることでもある。
それを好き好んで倒してしまおうとするとは。
俺みたいなやつが居るってことなんだな。
いや待てよ……逆に考えると挑戦した人数はわからないから、まだまだ沢山居るかもしれないか。
「好成績を収め、名を知らしめるには絶好の機会だと思うの」
「そう……かも?」
「ええそうよ。成績で1位、実技で1位、座学でも1位。それが叶ったとしても、まだ足りない。だってそうじゃない? その功績は、数年に1度は訪れるかもしれないし、もしかしたら毎年出てくるかもしれない」
「不確定要素ではあるが可能性はあると思う」
「でしょ? だったら、その人たちと同じではない何かを残す必要がある」
レヴィアの事情をしているからこそ好成績を残すことへの貪欲さは全肯定する。
だが、なぜか自分の名前を知らしめたい願望を抱いていることに関しては理解し難い。
あったっけ? 事情を説明しているときにソレが必要な理由。
もはや野望なのかもしれないが、ガクガクの脚で表情と目元だけ覇気を出されても説得力がなさすぎる。
生まれたての子羊、とはまさにあの状況のことだろうな。
「でも挑戦するにあたってお願いしたいことがあるの」
「おんぶしながら戦う?」
「ち、違うわ! 大事なことよ」
「はい」
声色に真剣さが帯び始めたのを察し、崩れてはいない姿勢をビシッと正す。
「本気で戦ってみるから、大惨事にならないよう消火してほしいの」
「なるほど、了解」
「早く正確に、細く集中し。これが私の基本的な戦い方ということは既に把握してもらっていると思う」
「まあね」
「あれは結果からわかる通り、辺りへの被害を最小限に止める戦い方であり、成績を伸ばすためには必要な技術なの」
「ほう?」
「見ての通り、私以外の魔法使いは基本的に体力なんてない。だから、威力で勝る大魔法よりも、速度で勝る小魔法が有利であり必須技術なの」
敵を前にして「今から強い魔法を発動させるので待ってください」なんて言ったところで意味はないし、そんなターン制の魔法勝負は生死を分かつ戦いにおいてなんの意味もなさない。
でもその話だと、動きながら魔法を詠唱と発現させることができた方がいいってことじゃない? とも思ってしまうが。
だって、その理論だと小魔法を発動するときも両者が立ったまま動いていないってことでしょ?
「後ごめんなさい」
「ん?」
「お……おんぶは、お願いしないけど。腕を貸してもらえないかしら」
「わかった」
真っ赤な髪と同じぐらい顔を赤く染めていることから、プライドを捨ててまでお願いしているのだろう。
と美化したいが、たぶん疲労が溜まりすぎて少し開けている30メートルぐらい先の場所まで“歩くことができないから助けて”という羞恥心が表に出てしまっているのだろうな。
戦闘前に精神をかき乱す邪魔をする必要はない。
俺はレヴィアの横まで足を進め、右腕を差し出す。
「ありがとう」
「女性をエスコートする練習も必要そうだし」
「それで言うなら、私も隣を歩いてくださる男性に恥をかかせないよう立ち振る舞わなくてはね」
と、かっこいい言葉を発し、姿勢も正して表情も凛々しくあろうと有言実行しているのだろうが。
案の定、足だけは意志に反している。
「勝算は?」
「わからない」
「自分の魔法に自信は?」
「あるわ。負ける気がしない」
「最後に質問いい?」
「ええ」
「もしも倒せなかった場合。消火ならびに撤退。または、それら全てを完遂し俺が倒してしまってもいいかどうか」
「情けないことを言えば、私が倒せなかったゴーレムを倒されてしまうのは心境的に複雑なものはあるわ」
「じゃあやめ――」
「いえ。倒してしまった構わないわ。上を見て学び、それを糧として活かすこともまた、成長の過程だもの」
「わかった」
この悪役令嬢、周りへの立ち回り方は役そのものなのに。
自分事になると向上心の塊というか、成長に貪欲というか。
1位になること、そして1位でい続けることへのプライドは明確に伝わってくるのに――いや、だからこそプライドにしがみつくことなく迷いなく捨て去り、成長の……贄とできるわけだな。
俺もプライドなど捨て、周りの評価など気にせず修行に励んでいたからこそわかる。
レヴィア・スカーレット――彼女は間違いなく俺と同類の人間だ。
「ここでいいわ」
脱力を感じ、戦いの邪魔をしないために数歩退く。
「頂に達した過去の英雄から継承せし炎の法――万炎の雨は無慈悲にも希望をも焼き払い――全てを灰に帰すまで炎々と燃やし尽くし――残されし万物を際限なく劫火が拡大していく――【グランドイグニスレイン】」
詠唱文と魔法名を唱えた後、レヴィアを中心に、俺を通り越すほどの大魔法陣が展開。
しかしまだ魔法は発現せず、赤い煌々しくもあり、地面から太陽の光が漏れ出ているのかと錯覚するほど眩しく燦々と放出し始め。
それら光が脈動する。
いったい何が始まるのか、と質問を投げかけたいところだが。
先ほどまでの話を鑑みると大魔法を発動させたのだろう。
そして今は大魔法を発現させるまでの準備段階で、魔力を体内に取り込んで魔法へ変換している最中ということ。
ただの予測だが小魔法は、詠唱後に魔力吸収から魔力変換して魔法発現。
それに対しての大魔法は、詠唱後に魔法陣展開し魔力吸収から魔力変換を経て魔法陣へ魔力の注ぎ込みが行われ魔法発現。
「……」
あまりにも工程と発現までの時間がかかりすぎ。
そもそも初めの詠唱文と魔法名が長いし、待機時間も長いし、大量の魔力を使用するから体力を消費するし、魔法陣が地面に展開されるということはたぶん身動きが取れない。
であれば、たしかに体力をつけてもあまり意味を為さないことは納得できる。
加えて仁王立ちで魔法勝負することへの疑問が消えた。
もしも大魔法をぶつけ合うような戦いになったら、いや、小魔法同士でも魔法発現の速度で勝敗が決まるのは必然とさえ言える。
「――」
おっ、魔法が発現した。
こんな万全の準備を整えていることを知らないゴーレムは、偶然にも足を止めていた。
そこを狙ったかのように、頭上へ地面と同じ大魔法陣が展開されたかと思えば超大量の炎――いや、劫火の雨が降り注ぐ。
ゴーレムは悲鳴や声を上げるのか気になったが、もはやそんな音は、地面を抉り木々をなぎ倒す響き渡る轟音の連続で届くことはない。
重機が動き地面をドリルで掘っている、加えて金槌で木を叩く音が同時に鳴り響いているような、耳を塞いでも貫通してくるほど壮大な音が鳴り響き続ける。
「こ、これでどうかしら……」
一気に空気が抜けた風船みたいな感じで地面へ腰を下ろすレヴィア。
「姿形は見えなくなっているね」
見上げるほどの木々が並ぶ場所でも上半身が見えていたほど大きかったゴーレム。
なんメートルだろう……たぶん10メートル以上はあったと思うが、辺りの木々含め全てが燃え尽くし辺り一帯が代わりに炎の渦が巻き上がっている。
「そう……よかった」
ここは「目的を達成したのだから大喜びするところだろう」と言いたいが。
目線すら上げることができず、上半身を立たせていることで精一杯な彼女へかける言葉ではない。
今は彼女の願いを遂行する――え。
「わお」
「ど、どうしたの? まだ……ゴーレムが残っていたの?」
「いやなんて言うか、その。お願いされていたことが達成できなかった。ごめん?」
「何を言っているの? え……」
レヴィアも顔を上げての漏れた声だろう。
であれば、燃え広がっている炎が消えた事実も視界に入れたはず。
そうそして、同じく。
「ド、ドラゴン!?!?!?」




