第22話『咄嗟の行動で出てしまった、拳』
思い通りにいかないものだな。
「よし」
「これで俺も加算されるの?」
「そうね」
授業が始まり、まさかの開幕早々に獣――ではなく魔獣と接敵。
勢いそのままに戦おうとしたらレヴィアが制止してきて、俺は断ったまま見学して魔獣は瞬く間に討伐されてしまった。
そして理屈は理解できないが、どうやら魔道具はペア用に調整されているようで片方が倒しても成績値が加算されるとのこと。
わからん、魔道具のことはサッパリわからなん。
ぶっ飛ばしたアイツを『他人の力で粋がるな』、なんて思っていたけど全然人のこと言えた立場じゃなかった。
「退屈で不満だろうけど、成績値は平等に増えるからサボっているとは思われないわよ」
「なるほど。でもなぁ」
実技授業で相方が思う存分魔法をぶっ放している横で、ただ足を進めているだけなんて暇で暇でしょうがない。
魔獣が出現したらリアクションでも取っていた方が楽しいかな、なんて思っても、魔力障壁を展開し続けることに慣れてしまった今――負荷にすらならないから警戒心が消えてしまっている。
ましてや、昨晩の森みたいな獰猛の獣なんて出てこないからさ。
獣は出てきて成獣だと思うけど膝下ぐらいの猪や狼ぐらいで、魔獣も同程度の危険度。
魔獣の珍しさに目を見張るぐらいで、それ以外は本当に暇。
上空からドラゴンでも襲ってきたら楽しそう、というありえない妄想を楽しむぐらいしかない。
「さすが成績上位者。魔法の使い方や戦い方が洗練されている」
「不思議なものね。どの言葉を摘まんでも褒められているのに、あなたに言われると煽られているような感覚に襲われるわ」
「いやいやいや煽ってなんかないよ。だってほら、炎魔法で森が燃えそうじゃん」
学園の敷地内なのかわからないけど、広大な森の中。
視界が開けた場所はスタート地点の集合場所ぐらいで、“棘の獣道”とまでは言わないけど、整備されたと言える道は未だ見えず。
ビッシリと木々が敷き詰められていて、辺りは緑一色の草や背の低い木がある――というわけではなく、どちらかと言えば橙色の乾いた土の方が視界に入ってくる。
でもそんな中で炎魔法をぶっ放し続けられたら、大火事になると想像する人は少なくないはず。
「他の魔法を扱う選択肢もあるけど。でも1つの【魔元素】を極めてこそ、最高の魔法士に成れると思うの」
「なるほど?」
「そういえば、アヤトは何が得意なの? あの黒い魔法?」
「今のところはないかな? たぶん?」
「なんで疑問形なの」
「レヴィアみたいな発想が思い浮かばなかったから?」
「じゃあ、まあたしかに」
今日1日を通して、基本的に授業では7つの魔元素を扱った魔法を平均的に扱っていたし、魔力障壁だって明確な形状指定もなかった。
まだ1年生だから自由に教育する方針だったり、今のうちにいろいろと試して得意な元素を把握する期間なのかもしれない。
既に高校生という立ち位置なのにもかかわらず、世界観を探りながら行動していかなくちゃいけないのが辛いな。
小学生や中学生で習った範囲もわかっていないわけだし。
「でもさ、そこまでの実力があったのなら。昨晩の森でも獣ぐらいなら勝てたんじゃ?」
おっと――触れられたくない話題だったか、レヴィアは足を止めてしまい、俺も続く。
「さすがに耳が痛いわね」
空いている左手で右手を掴み、目線を下げている。
疑問に思ったとはいえ、唐突にデリカシーを欠いた質問だったか。
「感情的になって暴れるように魔法を発現させ続け、酷使し続けた体は【魔力不全】を起こしてしまっていたの」
よし、ここで俺が活かせる知識の単語きた。
といっても座学の授業で出てきた言葉だから知っていただけだが。
要は名前と今の説明通りで、魔力を変換し続けて体がオーバーヒートしてしまった状態。
厳密には、明確に体が熱くなるなどの症状はなく任意で魔力を変換しようとしても反応がなくなってしまう感じだ。
敵を前に「出ろ! 出ろ!」と叫んだところで、不発が連発するだけ。
「境遇を聞いた今だから深堀はしない」
「ありがとう」
「でもあなたに助けられて、いろいろと衝撃的だったわ」
「忘れる約束は?」
「ごめんなさい。あんな状況を忘れるなんて、さすがに無理よ。だって魔法なしに大きな熊をぶっ飛ばすなんて、人生の中で巡り合うわけないもの」
その言い分に関しては納得できる。
俺だって逆の立場であれば、忘れるなんて無理だ。
「ん?」
なんか今、横ぐらいから枝が折れたような音がしたような。
『ガァアッ!』
「えっ」
唐突に耳を打ったのは、獲物を見つけて興奮した獣の声。
音の方ヘ振り向くと、ちょうど話題に出ていた同類の大熊。
杖を握る腕を下ろし、加えて左手で押さえていたレヴィアでは既に駆け出している大熊の突進に対応できない。
いや、対応できても制御を見誤って自分も被弾の可能性がある。
だったら――先生、後で謝ります。
「――っ!」
魔法は発現させない、魔力で身体能力を向上させるだけ。
余計なことは考えず――地面を蹴って大熊へと飛び出して行く。
「おらっ!」
勢いと力任せに大熊の顔面を殴り、ぶっ飛ばす。
大熊からの悲痛な叫びすら返ってくることなく、木々をクッション代わりに――何本も何本もバキバキバキバキッと鈍い音を鳴らしながら――まだまだ進んでいく。
「え、あ」
レヴィアは認識が追いついたようで、声にならない声を漏らしている。
と、同時に木々が折れ続け薙ぎ倒されていく音が止んだ。
「ありがとう。また助けてもらってしまったわね」
「偶然の連続だけどね」
もはやデジャブとしか言いようがない。
驚きすぎたのか、先ほどまでの冷たい炎を彷彿させる凛とした態度から一転、体から力が抜けていくように崩れ落ちてしまった。
「大丈夫?」
「ごめんなさい。完全に不注意だったわ」
俺は手を差し出し、ほとんど自分の力で立ち上がるレヴィア。
「相変わらずの力ね。もはや人間の領域なんて抜け出しているんじゃないかしら」
「あっ」
腕輪へ目線を移動。
完全に壊れていることを悔み始めるも。
「壊れてない」
「そうね?」
咄嗟に扱った魔力は幻核魔力だから、魔力を感知する魔道具は破壊する覚悟だった。
でも予想を反し、破損どころか故障の様子は見られない。
しかし今、これはこれで困った状況になってしまったな。
昨晩の件は昨晩の件として、話を終わらせるつもりだったし、俺も俺で扱っている黒い魔力が幻核魔力だったことを知らなかった。
そして今日、レヴィアと顔を合わせて魔法を発現させ。
通常の魔力を扱って魔法を発現していたから、馬鹿力ぐらいの説明しかできない。
ルラーナと違い、黒い魔剣を見ても幻核魔力と言い当てていないし、魔力向こうのような特異体質でもないから特定に至っていないのだろうが……。
「……」
「どうしたの?」
魔道具のことを気にする素振りを見せなかったら、まだなんとでも言い訳できたが。
気にするだけに留まらず破損の有無を確認してしまい、言葉にも出してしまった。
この世界において幻核魔力は希少なのか貴重なのか、それとも秘密的な情報なのか秘匿必須な情報なのか。
とりあえず判断できないから気軽に打ち明けることはできない。
だが現状の乗り越える良い案は……何か……。
「いくら合同授業とはいえ、1位を目指したいよな」
「え、え? そうね。いつでも目指すのは1位だけ」
「じゃあ。他生徒の状況が把握できていない今、悠長に足を止めていられる時間の猶予は?」
「ないわね」
「よし行こう!」
「えっ、ちょ」
あまりにも強引な手段ではあるけど、話題を逸らし走り出した。
レヴィアの向上心と目標を刺激し、見事にプライドが反応した。
であれば、これすらも勢い任せに物事を進めてしまえばいい、という話。
「行くぞ行くぞ行くぞ」




