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第20話『腐った性根に無慈悲な拳!』

「う、嘘だろ……いったい何が起きているんだ……」


 半分は俺が口に出したい言葉だよ。


「お前は仲間が必死に守ろうとしているにもかかわらず、最後の最後まで助けにも入らないんだな」


 護衛対象となる主人だから、守られて当然であり、負けることは実力不足とでも言わんばかりに。


「知らない知らない知らない!」

「はぁ?」

「その人は一度だって負けたことがなかったんだぞ! そそそそそれが、同学年のお前に負けるはずがない!」

「現実を見ろ」


 狼狽え、後退りし、感情を爆発させ。

 絶対なる信頼を置いていたのなら、なおのこと最後の勇敢な戦いに崩れながら涙を流せよ。

 それが命を賭して戦いきった者への誠心誠意の心遣いだろうが。


「そ、そうだ! 卑怯な真似をしたんだろ!」

「例えば?」

「知るかよそんなこと! どうせ魔道具でも仕込んでいるんだろ!」


 該当する事実はなく、ただ首を傾げる。


「それで、どうするんだ? 最強の仲間が倒れた今、主人であり主犯でもあるお前は」

「うるさいうるさいうるさい!」


 体格は優れている方ではないが、顔はそこそこイケメンだし、髪もバッチリセットしてある。

 声と事を荒げなければ視線を集めるような存在――だと思う。

 だが今はどうだ、表情をクシャクシャに歪めて言葉遣いまで崩れ。

 あれではまるで、学校にいる不良が感情に振り回され暴れ回っているだけではないか。


 いいや、もっと小さな……駄々っ子のソレだ。


「言い残すことはあるか」

「そ、それ以上近づくんじゃない!」


 ただの戯言であれば無視をして足を進めた。

 だが、彼は勝ちを確信したかのような表情を浮かべながら右腕を突き出している。


「これは魔法士特効の魔道具だ、動くな」

「……」


 俺のことを魔道具を使用し勝者となった劣悪な卑怯者呼ばわりした人間が、魔道具が最後に頼る頼みの綱って何かの冗談だろ。

 しかも対魔法士を前提とした魔道具を、たぶん合流したときに手渡されただろうに、仲間が戦っている最中ずっと傍観を決め込んでいたと?


 ここまで下衆野郎だと、もはや乾いた笑いすら出てこない。


「お前が魔法を発現させたら、この魔道具は同力の魔法を発現させる」

「ほう?」

「こっちは労力なしで反撃をし続けられるんだ! 負けるはずがない」

「それは凄い」

「当たり前だ。これはお母さんが開発した――厳密には試作段階だが、立派な魔道具だ」


 この期に及んで、随分と腑抜けたことを抜かす。

 一対一の真剣勝負の場において、なおも他人の力で勝利を掴み取ろうとする腐った性根は、見上げるどころか天を仰いでしまいそうだ。


 だがまあ、力添えしなかった理由は解明できた。

 そんな代物を持っていたら戦闘の邪魔にしかならないからな。

 本人がそこまで理解し計算的でいたかは不明だが。

 逆に変な気を起こして戦闘に入ってこなかった方が、彼的には助かっていたのかもしれないな。

 馬鹿は馬鹿なりに他人の足を引っ張らないだけまだマシだった、ということで。


「では、少しだけ質問に答えてくれないか」

「はっ。いいだろう。最期の情けだ」

「魔法を発現し、魔法を発現させた移行する。謂わば魔法の反射とでも言えるだろう」

「上手い言い回しをするじゃないか」

「もしも魔力障壁を展開したまま接近したら、どうなるんだ?」

「さぁ? 同じ威力の魔力で障壁を展開するんじゃないか?」


 対魔法に関しては明確に効力を把握しているが、魔力に関しては効力を発揮しない可能性があるわけか。


「多くは質問しない。次で最後にする」

「まあいいだろう。大目に見てやるよ」

「1撃の魔法に対しての魔力が、その魔道具で扱える許容量を上回った場合。魔法を反射することはできるのか?」

「俺はそこまで鮮明なことはわからない。残念だったな」


 開発した当人もしくは研究開発チームの当事者でもない、ただの息子が性能を完全に理解しているわけもないか。

 それにしても、随分と勝ち誇った余裕の表情を続けているな。

 完全に勝利は自分の手の中にあると完全に確証しているようだ――いや、しているのか。


 だが俺こそが、勝利への確証を得た側の人間だ。


「じゃあここからは、警告だ」

「お、おい! 動くなって言っているだろ!」


 いくら怒号を飛ばされようと、俺は足を確実に1歩1歩進んでいく。


「魔法攻撃に対し、自動的に魔法を発現させて反撃する。それが、その魔道具。そうだな?」

「最初からそうだと言っているだろ!」

「ではなぜ、魔法で発現させているであろう剣が出現しない?」

「え……」


 そう、こいつは哀れだ。

 護衛の人間は間違いなく実力者であり、強さを追い求めて【存在武器】を習得し、技を極めていた。

 だがこいつは、その存在も彼の努力も実力も直視せず評価せず。

 守られていたのなら、一度ぐらい目にすることはあっただろうに向上心の燃料とすることもなく。


 ポッと出の、周りの人間に情報を貰っている俺が言えた立場ではないが……哀れでしかない。


「もしかして不良品なのかこれ!?」


 あろうことか最後の砦すら疑うとは、惨めなものだな。


「貫き射殺せ――氷矢(ひょうし)。があっ!?」


 わーお、すげえ。

 杖を取り出したかと思えば、なんの迷いもなく詠唱し、氷の矢を魔法で発現させ。

 その瞬時に腕輪である魔道具に付与されている魔術が発動し、発現した魔法へ同じ魔法をぶつけて粉砕してしまった。


「よかったじゃないか、本物だぞ」

「うるさいうるさいうるさい!」


 本当、こいつはいつまでも現実を直視しないんだな。


「お前、いつの間に!?」


 一連の流れで、魔道具による魔術の発動は驚きはしたが足を止めはしなかった。

 そして俺は手を伸ばせば届く距離まで接近し、足を止める。


「どうしてこいつには発動しないんだよぉ!? お前も魔道具を隠し持っているに違いない!」

「黙れ」

「卑怯者! クズ野郎! 死――」

「黙れって言ってんだろ」


 俺は魔剣を消し、右拳と足を引いて顔面にめがけて振り抜いた。


「――かっは!」


 当然、全身に蓄えた幻核魔力(エンハンスマテリアル)を活性化させ、尋常じゃない力を発揮して殴り飛ばした。


 あいつは一直線に飛んでいき、ガラスが割れるような結界の決壊音を響かせ、木々をへし折り、何度も地面をバウンドしてザーッズサーッと滑っていく。

 間違いなく頬骨と顎は粉砕しているし、全身の骨も折れまくっていることだろう。

 着地した頃には見るも絶えない顔と体になっていることだろうが――だがそれでいい、そこがいい。


「ぷふっ。ふはは、ははっ」


 心の奥底から込み上がってくる快感は笑みに変換され、堪えることができない。


 人間の上に立つ偉い権力者である、人間の底辺よりも下なクズ野郎をぶちのめした。

 ああ、良すぎる、最高だ。


「ははははは――はぁ。ざまあみろ」


 吐き出し終え、冷静に状況を振り返ると。

 第三者がこの状況を見たら、間違いなく俺が悪者の枠に当てはめられるのだろうな。


 スタートから、他人の恋慕に首を突っ込み、要らぬ手間と疑いがかかり、相手を逆上させて事が大きくなってしまった。

 関わった人間全てに悪影響を及ぼしている、もはや俺こそが疫病神とでも言えてしまいそうだ。


「でも俺は進み続ける」


 目標は依然として変わらない。


 ――最強になること。


 さて、と。

 耽っている余裕はないな。

 戻ってルラーナと合流するか。


「……」


 反転して歩き出すと倒れている彼が視界に入り、敬意を払うために目を閉じる。

 あなたは救いようのない主人を守るため、命を賭す覚悟で勇敢に戦った。


 ――いい戦いだった。

ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!


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