第18話『知らん振りしても無駄だ!』
「それで、俺はどれぐらいまでの力を出していいんだ?」
倒してしまっていい、最悪命を奪ってしまっても構わない。
ましてや魔力結界を展開して被害を抑えてくれるだけではなく、たぶん人払いなんかもやってくれるということだろう。
であれば、問題は生殺与奪の権利がこちらにある以上、捕虜として拘束した人間に情報を握らせるわけにはいかないはず。
「本音を言うと、全力を見たい。でも結界が耐えられないし、学園が消えちゃうからなし」
「まるで力を予想できているような話しぶりだな」
「ここだけの話、本当に人が居ないことが確定しているから言えることなんだけど」
おっと、急にそんな前置きをされたら厄介な話に発展するって宣言しているようなものじゃないか。
でも表情一つ変えずに話を続けようとしているから、暗い話ではないのか?
「ボク、一部では【裁定者】って呼ばれているみたいなんだ」
「何それ。選択する側の人間?」
「時々、接触があるの」
「襲撃されるとか物騒な話?」
「その通り。だから常日頃から護衛を配備しているの」
「ん? だったら、今朝はなんで助けに来なかったんだ?」
「基本的に学園内のことは不干渉を貫いてもらっているの」
すんなりと納得できる理由ではあるが。
腕を掴まれて危なそうだったのに、護衛は立場的に手出し無用を貫くのか?
「でも周りの目がないところに連れ去られる危険な状況は別」
「少し疑問を聞いてもいい?」
「うん」
「ルラーナは、囲んできた相手を制圧できた?」
「……」
その沈黙はどっちなんだ。
「……できた、かも?」
「正直に答えて」
「余裕だった」
「通過したから状況は既に把握していると思うが。追加で来る人たちもまとめてどうにかできた?」
「……できた」
これさぁ……俺、ただ自分から厄介事に首を突っ込んだだけじゃん。
あのまま見過ごすことはできなかったのは事実だけど。
うーん……正義感が無駄になった気分で、やるせないというか取り越し苦労だった後悔が心に染みるというか……ため息しか出てこない……。
「騙すつもりはなかったの。でも助けてくれて嬉しかったのは事実だよ」
「まあ、ここまでの流れで誠意は感じるから憎み始めてはいない。これから起きる件を無責任に手放しで対応させようとしていないわけだし」
「責任は感じているの。だからボクにできることは精一杯やらせてもらう」
「それに関しては俺も頭を悩ませていたから助かるよ」
「相互関係――いい響き」
「事の発端はルラーナだけどね? あと、王子様って呼ぶのも辞めてくれる?」
「……」
会話のテンポがいいのに、都合が悪い流れになると考えてるフリしてるだろ。
手際の良さや応答の速さから、頭の回転が速いことぐらいわかっているぞ。
「2人だけのときなら、ダメ?」
「却下」
「密閉されたく空間で周りの目が完全にない状況では?」
「可能性を潰しに来るな。却下」
「世の中には空間認知を歪ませる結界があって。人払いと認識阻害で対象だけを認知できないようできるだけじゃなく、音声も遮断して完全密閉空間を作り出すことができて――」
「意思は変わらない」
「残念……」
サラッと凄いことを言いだしたな?
これから戦闘が始まった際に展開される結界は、要はソレを利用するということか。
ルラーナが会話の流れで新情報を出し続けてくれるから助かると同時に、知っている前提で話をされるから反応を抑えるのが大変だ。
「それはそれとして。そろそろ目的地だろうから最終確認」
「うん」
「話の流れから推測するに、護衛は1人ではない認識でいい?」
「そうだね。必ず複数で来る。最悪の場合、部隊を派遣してくると思う」
「ほう?」
「護衛隊、と言えば聞こえもいいし管理しやすいけど。言い方を変えたら制圧部隊、特務部隊」
「攻守一体の一面もあり、邪魔な存在を排除する一面もあると」
あまりにも現実味のない話に、空想の世界でしかなく想像することができない。
たぶん土地が欲しい、だから邪魔者は排除する、そして手に入れる――難しい話じゃないことは理解できる。
しかし元々の生活してた世界では身近でもニュースでも見たことがないから、理解はできても実感は沸いてこない。
そして法はあるのだろうが……この世界で人の命は平等ではないのだろう。
高校生ぐらいの年齢で生死の話をサラッとすることが、全ての証明だ。
「だから相手は確保の意思を示さなければ死ぬ覚悟もできているし殺す覚悟もある」
「――わかった」
どの道、裏の世界で活躍し続けた家に転生してしまったのだから避けられないことだもんな。
「……用意周到だな」
「思っていた以上に早かった」
目的地である、人気のない裏庭へ到着。
今朝は落ち着いて辺りを見渡すことができなかったが、奥側へ草木がある初見の印象と大差なかった。
しかし状況は違う。
「おいお前、今すぐ姫から離れろ!」
ルラーナの腕を掴んでいた少年が、俺へ感情が顔に駄々洩れにしながら怒号を飛ばしてきた。
しかし返答するよりも先に、謎の“姫”呼びされているルラーナへ目線を向ける。
「……姫?」
「さあ?」
ここに来て隠していた新情報、と勘繰ったが、どうやら違うようだ。
さっきまでのやり取りをしていたおかげで、その表情は正真正銘の疑問顔。
本当に何を言っているのか理解できない、と言わんばかりに眉間へ皺を寄せて顔を傾けている。
「ルラーナは理解できていない様子だが」
「ふ、ふざけるな! おおおおお俺の姫を軽々しく呼び捨てにするなぁ!」
なんかおかしいなぁ。
顔や背丈も同一人物と認識できるのに、態度と口調が乖離しすぎている。
この数時間で性格が歪んだ? ショックで気が動転している? ぶっ飛ばされて敗北したストレスで病んだ?
「もう少し冷静に話をしてくれ」
「うるさい! お前に指図されなくても俺は冷静だ!」
「じゃあ、用件は? 離れるだけでいいなら、お望み通り離れるが」
と、茶化すつもりはないが要望通りに横へ大きく1歩。
「もっとだよもっと! 視界から消えろ!」
「じゃあボクも一歩」
「おい」
「はぁああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」
俺はまったく煽るつもりはなかった――なかったのに、ルラーナよくもやったな。
一歩離れたというのに、一歩近づいてきてどうする。
「落ち着くんだ。今のはルラーナが悪い」
「ボクは悪くない」
「謝ったら落ち着くかもしれないだろ」
「それはない」
「ま、まあ……ほら、な? 俺が代わりに謝る。ごめん」
「お、お前ぇ! 俺を馬鹿にしやがってぇええええええええええええええええええええ」
いやいやいや、俺は誠心誠意を込めて頭まで下げたよ? 綺麗に直角まで。
誰がどう見ても謝罪する人間にしか見えないと思うけど、もうあいつこそ話を聞く気ないじゃん。
「お坊ちゃま。こちらを」
「――あ、あぁ。ありがとう」
「ここからはお任せを」
「わかった。ちゃんと殺してくれ」
「かしこまりました」
これまたどこから出てきたのかわからない、仮面を被ったタキシード姿の人が出てきた。
しかも何かブレスレットのような物を手渡し、装着しながら彼は離れていく。
「どうせこうなってたから。何を言っても無駄だったよ」
「でも煽らなくてもよかっただろ」
「だって隣に居ていいって言った」
「それは話しの流れで」
「ボクはアヤトの隣に居るって決めたから」
そんなやりとりをしていると。
「――きゃっ」
「その状況で反応し対応するとは」
「傷つけちゃいけない対象なはずだろ」
「ええ、それはそうですとも」
「アヤト……かっこいい」
会話の途中で攻撃を飛ばしてきたものだから、ルラーナの肩に手を置いて抱き寄せた。
攻撃は流れて地面に落下したようだが――確認はしていないけど吹き飛んだような音はした。
口では非攻撃対象と言っておきながら、“命以外は保証しない”ということか。
そして、間違いなく学生程度では比べ物にならないぐらい強い。
「厚かましい申し出だとは重々承知しておりますが」
「奇襲を仕掛けておいて、どの立場で?」
「先ほどの件に関しましては謝罪させていただきます」
「怪我すらしてないから気にしてないけど」
「懐の大きさに敬意を。では早速ですが、お姫様を離れさせてはいただけませんか」
流れは読めた。
手足の1本ぐらいはなくなってもいい、という立ち回り方だと思っていたがそうじゃないようだ。
奇襲の1撃は俺を試すため、そしてルラーナを傷つけることは本意ではない、と。
命を奪う対象である俺へ謝罪したり敬意を払ったり、いまいち掴めないという人だな。
「わかった」
まあたぶん、ルラーナが近くに居ると魔法を発現させることができないから、最低限の礼節を弁えて要望を通そうとしているのだろう。
「じゃあ、手筈通りに」
「ああ」
結界が展開されてからが本番か。
「要望をお聞き入れくださり誠にありがとうございます」
「――じゃあ始めよう」




