第17話『巻き込まれ事故だろこれ!』
もはや恒例となってしまった、例の校舎裏へ続く通路で足を止める俺たち。
可能なら、せめて今日は見たくない景色だったが案内されたのなら仕方ない。
「――それで? こんな人気のないところまできて用事とは?」
「まずは用事というよりも報告が先」
「報告?」
「まずは先生の用事はボクが代わりに終わらせておいたよ」
「え」
「偶然だけどね、あの人たちが先生に頼まれごとをしている場面に出くわして」
「なるほど。じゃあ思惑も?」
「うん。性格悪いよね」
それはそう、と言いようがない。
だが同時に、通りかかったような人に聞こえる声の大きさで作戦会議していた状況を想像すると、本当にお間抜け集団と敵ながら哀れに思えてきてしまう。
あいつらも自分たちなりに頑張ってるんだな。
「もしかして、あんな意地汚い連中に絡まれ続けてるの?」
「まあ日常の一部とさえ言えるかも」
「そのことは先生に相談したの?」
「いや、してない」
「意地悪な連中、消しちゃう?」
「随分と穏やかではない内容だな」
「だって邪魔じゃない?」
「邪魔ではある」
前の宿主的には是非とも消えてもらいたい存在ではある。
だが今の俺にとっては、おもちゃでありエンターテイメントを楽しむためのモブ役として機能してもらっている側面もあったり。
文字通り物理的にも魔力的にも消えてもらうことは容易でも、いざ“消えてもらうか”という選択肢手を提示されると躊躇ってしまう。
というか淡々と表情を変えずに物騒な話をするんだね?
仕草だって、「消しちゃう?」という軽いノリのときに髪を耳へかけたぐらいだし。
「興味本位だが、どうやって消すつもりなんだ?」
「物理的に」
「つまり?」
「命を刈り取ってもいいし、学園から退場してもらうことも」
「本当に物理的だった」
「気が変わった?」
「そんなに勧められても、やるなら自分でやる。誰かの手は借りない」
「かっこいい、さすが王子様」
「逆に提案だが、その王子様ってやつを辞めることはできないか?」
「できない」
あまりにも即答されるものだから、呆れて鼻から息を漏らすことしかできない。
「じゃあ話は戻って。先生の用事って俺にって話じゃなかった?」
「授業で回収した作品について質問したかったみたい」
「それをどうやって解決したんだ?」
「似ていることを目の前で披露した。そして解説した」
「なるほど?」
「完璧に再現はできなかったけど、ボクは魔力操作が得意だから」
触れていいのかわからず聞けないが、魔力操作の面だけを見るとかなり優秀なのだろうな。
この学園では結果がよければ過程は重視しないスタイルなのだろうか、それとも魔力を体内変換する重要度はあまりなく、魔力をそのまま変換する方法でも同意義に認められているのか。
「とりあえず。助かったよ、ありがとう」
「まだまだ序の口。いろんなことで手助けできるから、いつでも言ってね」
「もしかして他にも?」
「ううん、今回はこれだけ。だから、ここで【存在武器】を披露したいところだけど……」
「まあ、いつ人が来るかわからないしな」
「それもあるけど、別に見られても問題はないよ」
「じゃあ他に?」
「うん。実は……」
この流れ、予想でしかないけど変な流れになりそう……。
「今朝、ボクの腕を掴んでいた連中が面倒なことを企んでいるようなの」
「ほう。どんな?」
「どうやらアヤトがボクの従者だと思って、実力では敵わない家の方で圧力をかけようとしているみたい」
「それは確かにめんどくさい状況だな」
「でね。もう指示出しをしちゃった、という状況なの」
「誰に?」
「家の方。学園近くに待機している護衛の人たちが居るから、その人たちに」
「なるほど」
ここまでの話、嘘みたいな流れだが本当の話なのだろう。
護衛が学園付近で常に待機している、というところは理解し難いが……金持ちや権力者の考えていることを理解できるはずもないか。
「それで、俺はどうしたらいい?」
「またボクを狙って動くだろうから、けちょんけちょんにしてほしい」
「難しくはないが。それで解決する案件なのか?」
「……しないと思う」
「だろうな」
先ほど謝罪をしてきた人たちは、自分たちの行いを反省できるタイプの人間だった。
彼らは恋慕を過去のものにできるかはさておき、強引な手を打ってくることはないだろう。
しかし別グループの方は、倒しても倒しても学園が同じ限り作戦を変えて挑み続けたり迷惑行為を続けるタイプ。
ルラーナが出した物騒な【消す】という選択肢が脳裏を過るも、まだ即決するには早い。
たぶん、嘘でも俺とルラーナが婚姻関係にある、と言ったとしても破談や略奪の計画を企てるに違いないよなぁ。
「何か策は?」
「たぶん学園から消す手段は難しいと思う。家の力で復学は余裕だろうし」
「強引な権力の行使も選択肢に入るほどの家、なのか」
「どちらかというと、厳格な方かも。お父さん側は軍の偉い人で、厳しいみたい。だから退学も休学も許さないみたいで、劣情を抱いたり権力による汚いやり方はしないし正義の塊って感じ」
「凄いな。でもそんな父をもってしても、残念な息子に育ってしまうんだな」
「お母さん側も魔道具学の研究者で、ボクたちの制服や軍の制服を開発している人。ちょうど新年度のボクたちが来ている制服がソレだよ」
軽く話を聞いただけでも、ただただ凄い両親を持ったエリートということはわかった。
と、同時に“親の心、子知らず”とはまさにこのことなんだろう。
でも疑問なのが、その両親が子供の身勝手な行動を見過ごすとは思えないし許可するとも思えない。
言伝が行き渡ったとして、逆に子供が厳罰に処される未来しか見えないが。
「問題はおばあちゃんの方で」
「あー」
「孫が可愛くて可愛くて仕方ないのかな。普段は家に2人で生活しているみたい」
「なるほど。表面的なことはわかった」
「おじいちゃんも傾向としては同じだけど、お父さんと一緒で軍の人で偉い地位に居るから甘やかしたりはしていないみたい」
「おばあちゃんっ子ってやつか」
「でも難しいね。おばあちゃんだけが唯一地力がない人みたいで」
「地力?」
「おじいちゃんが一目惚れした相手だから、手に職をつけなくてもいいようにしていたんだって」
能力があるかないかは実際わからないとして。
専業主婦を許可し、そのままということか。
そこまでの金持ちであり護衛が居るぐらいの人員豊富な環境で、家庭内の仕事があるのだろうか、と純粋に思ってしまう。
他人の家の家庭について考えている場合ではないな。
ん? ていうか。
「随分と詳しいな。家同士の付き合いが長いとか?」
「ううん、全然」
「じゃあどうして? 情報公開されていたり?」
「権力には権力を、情報には情報を」
「え、もしかして」
「ボクも既に情報を探っているということ」
「詳しく聞かない方がいいよね」
「ふふ。ボクの家へ遊びに来てくれるなら教えてあげる」
「遠慮しておくよ」
「残念」
金持ちだの権力者って怖えー。
権力を保持し続けている側と実力を向上し続けている側、本当に別次元で相容れない存在同士なのだと理解した。
俺が住んでいる家も大きいと思ったが、ルラーナやレヴィアの家は城とか要塞みたいな場所に住んでいるのだろう。
実際に見るまでは想像の域を出ないが、たぶん想像以上のものが待っているに違いない。
でも逆に考えると、今から俺が相手をする人間はそういう人物ということ。
そりゃあ確かに殴った気絶させた、魔法で勝った、勉強で勝った、ぐらいで話すが終わる内容ではないな。
「でも情報を得たとして、俺の家側や家族が攻撃されるような事態にあるんじゃ?」
「どうだろう……おばあちゃんだけの力じゃ、動かせてもせいぜい護衛の人たちぐらいだと思う」
「それ以上は制御されると?」
「厳格な家だからね。おじいちゃんが最後の砦になるかもだけど、お父さんとお母さんが全力で阻止してくれるだろうし、もしかしたら味方側になってくれると思う」
「ほえ~。大体は身内に優しいものだが、そうじゃないんだ」
「事が起きてみないと確定しないけど」
でもだからこそ複雑だなぁ。
今俺にできることは、腕を組みながら空でも――え? 木の上に誰かいるんだけど。
「さすが。よく気付いたね」
「到着して間もないというのに、お嬢様の慧眼には感服いたします」
「いいのよ。情報を」
視界に入った俺が一番驚いているし、偶然も偶然。
会話が勝手に進んでいき、仮面を付けてる忍者みたいな服を着た人が木の上から降りてきた。
長いポニーテールと声的に女性なのかな?
「情報を止めることできず、申し訳ございませんでした」
「いいわ。その後は?」
「戦闘後、数人を確保したのですが情報を吐き出すことはありませんでした」
「指示の内容が不明なのは痛いわね」
「申し訳ございません。既に偵察を派遣しておりますので、動向は逐一報告可能です」
「お勤めご苦労様。引き続き対応をお願い」
「ですが、思っていた以上に動きが早いかもしれません」
「予想時刻は?」
「……たぶん、お昼休み時間中に攻めてくるかと」
「わかったわ。有事の際は、援護ではなく全員で防御結界を頼むは」
「よろしいので?」
「ええ。このお方が全て倒してくれるから」
忍びみたいな人は、疑いのまなざしを俺へ向けてきた。
わかる、わかるよ考えていることは。
初めて顔を合わせた人間が、これから襲ってくるであろう敵を1人で倒せるか信じられないよね。
俺も逆の立場だったら同じ反応を示す。
でもさ、その前に話が進みすぎじゃない? この場に居るのに置いてかれてる自信しかない。
「一旦は倒してしまっていい、ということで合ってる?」
「うん。1人残らず全員。命の保証はなくてもいい。でも1人ぐらいは残してくれると尋問できるかも」
「つまり、相手は確実に俺を殺しに来ると」
「確定ではないけど、後のことを考えられる人間が及ぶ行動ではないでしょ?」
「まあたしかに」
今朝の件、教室での件、実技の件。
それら全てを加味して、正常な判断を下し自身の意思を優先できる人間は居るだろう。
しかし逆に、自分の意思を悪い方へ優先させ行動してしまう人間が居ることもわかった。
だからこそ確定要素はなくても直感でわかる。
「じゃあボクたちは少し広い場所へ移動しよう」
「どこ?」
「今朝の場所でいいと思う」
結局、またあの場所か。
校庭とかでドンパチするよりは人目もないし、候補としては正しいか。
「それでは引き続き、お願い」
「かしこまりました」
「――じゃあ行こう」
再び木の上へ消えていく彼女を見送り、俺たちは歩き出した。




