第16話『そんな話は聞いていない!』
「どういうつもりだよ」
待ちに待った昼休み時間が訪れた矢先、机から立とうとしただけなのに呼び止められる。
その顔には見覚えしかなく、ついさっき授業で一緒のグループになった面々――計5人。
「どうって、何が?」
「さっきのあれだよ」
「抽象的な質問に具体的な回答は得られないと思うけど」
「だから、さっきの授業でやったことだよ!」
俺は“あれ”が示すものと行為について、そして何に対して苛立ちを感じているのかは最初から分かっている。
なんせ、こちら側から仕掛けたことでもあるから。
でもなんというかさ。
自分が意図を汲み取らせるような会話するという、相手に丸投げな会話をしてきているというのに。
いざ伝わらず聞き返されると逆上して感情的に声を荒げるなんて――相手の地位など知らないけど、これで権力者や貴族って立場だったら爆笑する自信しかない。
「僕は先生の指示に従い、順序通りに完成させた。ただ授業を受けていただけじゃない?」
「そういうことじゃねえ!」
「要領を得ないな。何が言いたいの?」
自身の感情と疑問を言語化できないとか、子供かよ――あ、俺も含み全員子供か。
「どういう小細工をしたんだ」
「小賢しい真似をしやがって」
「僕は何もしていないよ」
「そんなはずがないだろ」
「ああそうだ、授業前に内容を知っていて準備して隠し持っていたんだろ」
「なるほどな。付け加えるなら、誰かに依頼して完成させてもらったんだろ」
「金で先生を買収してたりもするんじゃないか?」
「そうに違いない。ああそうだ、あの方に頭を下げて作ってもらったんじゃないか」
凄い凄い、俺は一言も発していないのに次々に罪が重なっていく。
当たり前だが、そんなことはしていないし、するまでもない。
てか買収って一方的に決めつけているが賄賂に繋がるから先生もアウトになるだろ。
俺を貶めたいがために周りの人間も巻き込んでいく、とかあれじゃん。
映画やドラマとかである、状況を理解できず暴れ回って主人公たちに迷惑をかけまくる人、主人公を陥れるために裏切り行為をして敵へ寝返るも立ち回りが下手すぎて内側から崩壊へ導く人、だ!
当人は必死に考えているのだろうが、あまりにも無能すぎて空回りし続けていることすら気が付けない残念キャラ……いたたまれないし情けなく惨めに……いや、滑稽でしかない。
「言いたいことはそれだけ?」
「あぁ?」
一同の侮蔑な笑みは引き、鋭い眼差しを一身に集める。
「いや、演技の発表会を練習しているのかと思って」
「はぁあ!?」
「じゃあ僕は行くよ」
傷つけられた自尊心だかプライドだか知らないが、戯言祭りのおままごとに付き合っている暇はない。
行き場のない鬱憤をぶつける先がないのなら、至らない自分自身を高める時間に使ったら有意義なのにな。
他人を下げることでしか自分を優位に見せることができないとは、随分と情けないボンボンたちだ。
俺は立ち上がる。
しかし彼らは通路を塞ぎ続け、譲るつもりはないようだ。
「行かせるわけがないだろ」
「トイレだったとしても?」
「じゃあ漏らせよ。ここで」
男子は鼻で嗤い、女子は鼻を摘まみ空いている手で宙を仰ぐ。
ここで盛大に音を立てながら放屁でもしてやろうか? 出ないしトイレが目的地でもないけど。
「ああ言い忘れてたが、先生が昼休み始まってすぐに用事があるから来るようにって言ってたなぁ」
「はい?」
そんなことを急に言われても、俺は聞いていない。
目線を逸らして壁掛け時計へ目線を向けると、既に10分も経過していた。
「遅刻するだけじゃなく、先生の用事を無視してトイレに行こうってんだ。随分と余裕じゃないの?」
「ああでも、先生にお金を渡していたら怒られないか?」
よくもまあ、そんな面白くもない話でキャッキャッと猿みたいに手を叩いて笑えたもんだ。
こんな人間が家では礼節の勉強をしている? 礼儀作法の指導を受けている? 嘘だろ、さすがに。
でも仕方ない。
先生が呼び出しているのなら、行くか。
「おっと。行かせるわけがないだろ」
「まあでも、先生からすれば、2限前から伝わったと思っているから待っているだろうなぁ」
ああなるほど、そういうことか。
先生は分け隔てなく生徒と接する面で言えば尊敬できる。
だがしかし、もう少し生徒全体を見渡して信頼すると同時に不信の目も持ってほしいところだ。
要するに先生は、目の前に居る彼らの誰かへ言伝を頼んだ。
が、それを意図的かつ故意的に情報を止めていたということ。
それを時間が過ぎ、妨害を行いながら伝えるなんて意地が悪い。
歪んだ性格にもほどがあるし、ここまで執着する行動力も凄い。
もはや呆れを通り越して感心してしまうな、本当に凄いよ。
「――ねえ、ちょっといいかな」
唐突に、そんな声が聞こえて俺も含め辺りを見渡す――も、声の主は発見できず。
まさか周りの生徒が見兼ね、話に割って入ってくるという心温まる状況だろうか。
「ボク、彼に用があるんだけど」
訂正――ちゃんと聞いたことのある声でした。
「え?」
先ほどまでの威勢は引っこ抜けてしまったのか、間抜けな声で振り返る一同。
「に、偽物令嬢!?」
「そう呼ばれるの、もう慣れたけど失礼だよ。面識もない人間に対し、ちゃんと言葉は選んだ方がいいよ」
「は、はい……」
指摘されているのにもかからわず、ここで謝罪できないことこそが彼らの本質だろうな。
だが驚いた、ルラーナは【偽物令嬢】と不名誉な呼ばれ方をしているものだから敵対する人間が多いのかと思っていた。
しかし借りてきた子犬みたいにシュンとなって道を開けている彼らを見ると、レヴィアと遭遇したときと似ているようなものを感じる。
でもまあ、そんな人間に指導されてもなお謝罪しないって、こいつらの性根はどこまで腐りきっているんだ。
本当に見上げたものだよ、関心を抱くし感心するよ。
「行こう。アヤト」
俺の返事を待たず、クルーッと回り終えてから廊下の方へ向かうルラーナ。
先ほどまでの辛辣な言葉遣いとは真逆に可愛らしい行動をするものだから、こんな状況でもつい笑いそうになる。
不本意そうに眉間に皺を寄せたり顔を歪ませている、彼らが譲ってくれた道を堂々と歩き廊下へ出た。
「ここでは目立つから。離れよう」
「うん」
ああ、あの顔――よかったなぁ。
屈辱に耐える、苛立ちを隠す、腸が煮えくり返っている、そんな表情。
手伝ってくれたルラーナには感謝を伝えたいぐらいだ。
そんなことを考えながら、「用事とは?」という疑問は一旦留めておいて歩き出した。




