第14話『残酷な未来が待つ、孤高な少女』
「それでは、よろしくどうぞ」
その一言で周りは驚愕の色を隠せず、離れていく。
事の発端は――というか、ただ単に隣のクラスと合同授業なだけなんだけど。
場所は第2校庭もとい第2魔法演習場。
合同授業で使われるぐらいだから大きいわけだが、集会などで1学年全生徒を並ばせることが容易にできるほど。
1クラス40人、学年10クラスだから約400人ぐらいだから――たぶん入るだろう、たぶん。
そんな中、じゃあなぜたった一言を耳にしただけで離れていくかというと。
「わたくしの相手を務めることができる人が居ないので」
今までは想像の押し付けだったが、今はこうして言葉の後に「おーほっほっほっ」と高らかに声を出しながら笑っている。
しかも想像でやっていた、頬の横に手の甲を当てながら。
そんな高飛車悪役令嬢ことレヴィア・スカーレットは、擂り寄ろうとしていた人たちを蜘蛛の子が散るように離れさせた。
「ここまで人が離れたら、普通に話せると思うわ」
「……」
念には念を、ということで周囲を一瞥する。
様々な思惑が渦巻く態度や目線は伺えるものの、物理的な距離は生まれたから大声じゃない限り大丈夫だろう。
「それで、これはどういうつもりで?」
「……」
「これ以上の干渉は避ける、という結論になったと思うけど。まさか、従者の延長をしろと?」
「い、いえ……そういうわけではないの。誤解しないで」
「じゃあなぜ?」
あまりにも歯切れが悪い。
先ほどまでの態度から急変しすぎというツッコミは、この際しない。
表と裏があることを知っているから。
目元の力が抜けて目線だって下がり始めているし、何か言いにくい事情でもあることは察するが……関わる機会が増えると周りが面倒だし、何よりも厄介事が舞い込んでくる未来しか見えなくなってしまう。
「た、単に……」
「単に?」
「お――」
「お?」
「お話ししたかったから!」
「――……はい?」
今、理由を述べる内容として「お話ししたかったから」と言ったか?
「約束を破ったことは謝るわ。でも、私がそうしたかったから」
「その心は?」
「どうこうもうも、純粋にそう思っているだけよ」
交友関係のある人物からの発言であれば、心が躍っていただろう。
だが出会って間もなく、そもそも距離を置く約束までした。
その場しのぎの従者設定も、既に終了していることだし、そうじゃなくても金持ちや権力者などの地位が高い人間が考えることは理解できない。
歯切れの悪さや発言する躊躇いから、本心からの言葉かもしれないが――それこそが計算通りな立ち回りの可能性だって捨てきることができない。
「今はそういうことにしておこう」
「もう、本当なのに」という言葉がボソッと聞こえた気もするが、それすらも罠かもしれない。
「さて『防御魔法同士の衝突』が授業内容らしい、が」
「ええ、始めましょう。手加減してもらえると助かるわ」
と、互いに魔法障壁を展開。
俺は長方形の壁に対し、レヴィアは楕円形かつ奥行きのある障壁。
あの2人とやり合っていたときは、一方的に防ぎ続けていただけだったから勉強になる。
もう少し周りの生徒がどういう魔法を扱っているのか見渡した方がよさそうだ。
そう考えると、教室内でやった『攻撃魔法に対する対抗手段』の授業、もう少し他生徒を見て学ぶべきだったな。
「あら? あのときとは違うのね」
「ああ、まあ」
そういえば忘れていた。
学園では普通を装って活動することになったが、それ以前にレヴィアとは森で遭遇している。
しかも無意識に扱った魔力が、推定の幻核魔力であった。
この反応からレヴィアは疑問程度にしか思っていないから知識はないのだろう。
となると、ルラーナはどうして知っているのか気にあるところだが。
「たしか、『衝突しても防御の姿勢を維持し続ける』だったか」
「そうね。じゃあ」
俺はどうすればいいかわからないから、とりあえず止まったまま。
レヴィアがゆっくりと接近し始め、流れに身を任せる所存だ。
「えっ」
障壁同士が接触した瞬間、レヴィアの魔力障壁が瞬時に粉々となってしまった。
「これでも魔法障壁には自身があるのだけれど」
対する俺の障壁は、揺れることすらなく。
「自信過剰ではないと自負しているけど、自身が揺らいでしまうわね」
「まだ時間はある」
「そうね。続けましょう」
正直、何が起こったかわからない、何が優位だったかもわからないし、どうして魔法障壁が凄いっぽいのかもわからない。
レヴィアは距離を置き、再び同型の魔力障壁を展開。
「魔力障壁を重ねてみては?」
「え? 重ねる?」
「単純に枚数を増やすだけでは結果は変わらない。が、厚くするのは?」
「それはできるけど……そうね、やってみるわ」
両手を前に出し、たぶん実行しているのだろう。
向かって右の眉がピクッと動いているのを見ると、もしかして負担が大きいのか?
「なるほど……自分の実力不足を痛感するわね」
やっぱりそういうことか。
魔力操作って、いろいろと奥が深くて難しいんだなぁ。
「私もあなたみたいにできると思ったのに。とんだ驕りだったようね」
え、そうなの?
俺、体が覚えている限りは鮮明にイメージしているだけだけど。
でもそうか、ここでも納得した。
要するに元の宿主が、悪ガキも黙る実力者をも超える努力と練習をした結果ということだ。
自分で何かを行っているとすれば、魔力を常に体に蓄え続けていることぐらい。
「そんなことはない」
「謙遜されると心に傷を負ってしまうわ。だって、維持しているだけで精いっぱいだもの」
そこまで大変なものなのか。
「せっかく助言してもらったのに……ごめんなさい」
急に謝罪を口にしたと思ったら、結界が衝突するまでもなく砕け散ってしまった。
「今すぐにでも座り込みたいけど、あなたのためにも耐えるわ。だから、このままで居させてちょうだい」
「気にしなくてもいい」
「そうはいかないわ。私が倒れでもしたら、あなたに迷惑がかかるもの。注目を浴びるのは嫌でしょ?」
「――ああ」
周りの目がなかったら今すぐにでも倒れたいって、そんなに大変だったのか。
「大丈夫。授業内容のおかげで、周りから見た私たちは怠けているように見えないわ。これぐらいの距離だと障壁も見えないだろうから」
「わかった」
ほーう、魔法障壁はある程度の距離が空けば目視は厳しくなるのか。
「でも私は迷惑を掛け続けてしまっているから。隠している身の上話をさせてもらうわ」
ん? でもそれ、聞いたら厄介事に巻き込まれそうな話じゃない?
隠しているって言ったよね、しかも金持ちだの権力者だのの身の上話っていい方向にならない感じだよね?
「実は私、卒業式を終える19歳に試練という名の生贄となる儀式が待っているの」
「儀式?」
ほーら、19歳で試練だの、生贄だの、儀式だの、めんどくさい話にしか出てこない単語が並び始めたよ。
どうせ後から秘密を知っている、重要参考人だとかで狙われたり捕まる流れじゃないの?
「ええ。学園へ入学するときに知らされたの。酷いものよね」
「不穏な話だね」
「20歳を迎えるためには試練という名の儀式を生き抜かなければならない、と」
「それが達成されなければ?」
「……死ぬみたい」
やっぱり暗い話じゃん。
てかどんな内容だよ、達成できなくちゃ死ぬ? それを伝えられたのが本番が始まる4年前?
いったい誰からそんな過酷な試練を与えられるんだ。
「正直、今でも何かの冗談か、話を信じて必死に強くなることが目的だと信じたいわ」
「そうじゃないと?」
「だってお父様とお母様から直接伝えられたから。真剣な表情で」
さらに暗くなっていくじゃーん。
しかも両親からって……死の宣告を伝えられるって、地獄かよ、救いがなさすぎるだろ。
「一切の助言はなく、助力もなく。過去の成功事例があるかもわからない」
うーん……さすがに同情してしまう。
彼女は、その話を聞かされてからずっと孤高であり続け、強さを追い求め、成績すらも上位を目指し続け。
誰に助けを求めることもできず、孤独でもあり続けているということか。
「昨晩、森に居たことと関係している?」
「そうでもあり、そうじゃないとも言える。恥ずかしい話、何も考えていなかったとも言える」
未来への不安を抱き続けるストレスと、両親や血筋へ期待に応えたいというプレッシャーから自暴自棄となってしまったのだろう。
その反面――強くなりたい、強さを確かめたい、負けたのなら死んでもいい、映り続ける嫌な夢から醒めたい――という想いと感情がぐちゃぐちゃに混乱してしまったか。
複雑な家の決め事へ口を出すと更なる厄介事が舞い込んでくるだろうが……。
「もう4年。まだ4年。絶望が待つ未来かもしれないが、希望を捨てる道理にはならない」
「え……?」
「孤独ではなく孤高であり続けるのなら、更なる高みがここに居る」
「ど、どういうこと?」
「昨晩、実力の一片を見たはずだ。そして今、更なる一片を体験した」
「そうね。実力不足を痛感しているわ」
「であれば、頂には未だ到達していない。研鑽の余地は大いにあるということ」
言葉通り、そして体験した通り、レヴィアは己が実力不足を痛感していることだろう。
それは何かしらの痛みや疲れを倒れないよう耐え続けている、歪んだ顔を見たのなら一目瞭然。
まだまだ1学年も始まったばかりで頂点に立った、その実績で全てを語るには何もかもが早すぎる。
努力も実力も威勢に合ったものであることは、周りの反応からも伝わってきた。
井の中の蛙、大海を知らず――。
が、今の彼女でもあり。
――されど空の青さを知る。
へ、繋がっていくはず。
「まだまだ強くなれる。そういうことさ」
「……」
「俺の障壁を揺らすこともできていないわけだし」
「ふふっ。優しいのか厳しいのか、どちらかにしてもらいたいものね」
言葉が届いたのか、笑顔ではないが少なくとも表情が暗いものではなくなった。
「あなたの障壁、何枚も重なっているだけでなく、扱われている魔力の変換が凄すぎるのよ」
「そう?」
「そうよ。普通じゃなくても無理。偉人や伝説の魔法使いじゃなくちゃ触れただけで無効化か砕け散るわ」
本当にそうなの? 無意識にそんなことをやってたの?
これ、実力を見誤っていたとか簡単な言葉で片づけられないほど、自分で自分を把握できていなさすぎるってことか。
どこかで試さないと、能力を隠すとかって話じゃなくなってくるぞ。
「ありがとう。おかげさまで体と気分が楽になったわ」
「どういたしまして」
「そろそろ授業が終わりそうね」
「もうそんな時間か。実技は楽でいい」
「あなたにとってはそうでしょうね。ちょうど集合がかかったわね」
「じゃあ戻るか」
「ええ、わたくしの後ろについてきなさい」
あーそれは続けるのね。
てか調子も戻ってるじゃん。
「はい喜んで」
何はともあれ、少しぐらいは付き合ってもいいか。
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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