第13話『永遠の挫折が訪れる、天才少女』
「――全部、見てたよ」
もう裏庭には近づかないよう、授業終了してから反対側の校庭側へ向かい始めた。
授業終わりの生徒とすれ違う可能性はあるだろうが、逆に人目があったり移動授業終わりだから変な絡まれ方はしないだろう、という読みで。
だというのに、今回も廊下で捕まってしまった――渦中の少女に。
「何を?」
「今朝から、ずっと」
ルラーナは、いったい何を唐突に言い始めているのか。
俺は純粋に疑問を抱きつつ、彼女は黒髪を耳にかけながら話を続ける。
「あの人たちと揉め事があったでしょ。そして謝罪もされてた」
その問いに対し、歪み無く日常生活を送っている人であれば「誰となんのことを?」という質問を質問で返していたことだろう。
だが俺は、その問いに対し、物凄く心当たりがある記憶しかなくて情景が容易に記憶として蘇った。
「それは鎌をかけているのか?」
「え、どうしてわかったの」
「何が? 何を?」
驚いているような声色と言葉なのに、なぜ表情は珍しくも明るく嬉しそうにしているのだろうか。
本当に意味がわからず、ルラーナという少女を理解できない。
「ボクの存在武器、鎌なんだよ」
そ、存在武器???? いったいなんの話????
「本当にそうだったんだ。でも偶然だよ」
「まだ学園で扱ったことはないからね。凄い」
本当に存在武器って何? 幻核魔力の親戚かな?
「そんな、『存在武器を初めて聞いた』みたいな反応をしても嘘だとわかっちゃうよ」
「そうかな?」
「別名【潜在能力技巧】。魔力を武器として扱う武器で、使用者の明確な心象と魔力操作の技量によって生成する技術。属性を付与することもできるし、魔法のように放出することもできる」
「ああそうだな」
なーにを言っているのかまったくわからない。
でも知識不足で馬鹿にされたくないから、とりあえず相槌を打って、全部喋ってくれるからありがたく聞いておこう。
「ボクと試したんだね。ふふ」
「まあ、な」
「試される、ということは期待してくれているということなんだね」
ん? これまたなんの話?
「期待に応えられるよう、もっと勉強しなきゃ」
「うん、勉強は大事だね」
「でもボクからも質問させてほしいかな」
「何を?」
「あの、赤毛の女の子。誰? も、もしかして彼女……?」
彼女なんて居ないわボケェ! とツッコミを入れたいところだけど。
俺の行動を見ていた、という旨を話していたことからレヴィア・スカーレットのことで間違いないだろう。
え、もしかしてだけど。
感覚的にルラーナの目線を――と思っていたが、本当に見ていたってこと?
ストーカーされていたルラーナが、俺をストーカーしていたってこと?
何それ怖い怖い怖い。
「偶然出会って会話する流れになった、ただそれだけ」
「そうなの?」
「今日の今日まで関係すらなかった人間が、それ以上でもそれ以下でもない」
「そうなんだ」
事実そうだし。
関係を続ける未来はないし、あの悪役令嬢は実行力があるから危ない思想と相まって必ず厄介事に巻き込まれる。
それはルラーナに関してもそうとも言えるが、弱みを握られているし知らない情報をくれるからギリギリセーフ。
ストーカー気質があるのか、偶然かは知らないが……問題があるとすれば今のところはそれくらいか。
じゃあ今は、存在武器について情報を聞き出そう。
話の流れから察するに、『個人を印象付ける魔力で作成される武器』なのだろうが――俺が創り出す魔力剣はソレに該当するのだろうか。
「存在武器は、誰かから教わったのか?」
「うん。稽古をつけてくれていた師匠に教わって、3歳のときに」
「随分と早いんだな」
「最初はみんな祝ってくれたよ。ボクは天才だって褒めてもくれた。でも5歳の誕生日、呪いが始まった」
「魔法を消滅させる?」
「そう」
天才型の魔法使い、それがルラーナという少女なのだろう。
しかし本当に厄介なのだろうな、全てが過去形なのだから、年齢などではなく呪いによって全てが過去になってしまったということか。
「ボクが近くに居ると、みんな魔法が扱えなくなっちゃうって厄介だよね。例外なく自分にも影響が出ているし」
あまりにも若すぎる天才からの降格、永遠に続く終わりがない挫折。
周りが全員敵に見えて仕方ないだろうに、よく今まで頑張ってくることができたな。
学園に通うことができるのは、自身の努力か、それとも家の名誉や誇りのためか。
そんな過酷な環境で育ってきたとはつゆ知れず、容姿や家柄だけを見て近づいて来り好意をぶつけてくる輩が居るとは。
これからも過酷であり続ける……救いがない話だな。
「だから、師匠にはずっと感謝してる。存在武器を扱えることが唯一の救いでもあるから」
「難しい話だし同情したくもある。でも容易に慰めの言葉は送らない」
「ふふっ、優しいね」
「時間があるときにでも見せてほしい」
「お望みなら、ここでもいいよ」
「急を要する頼みではない。それに、廊下で魔法を扱うって怒られるだろ」
「でも先生に見つからなかったら大丈夫」
「そういう問題じゃない」
曇りのない純粋なまなざしを送りながら「どうして?」と言いたそうに首を傾げないでくれ。
「僕のも見てもらいたいから」
「やっぱり使えるんだ」
「まあ」
俺のが存在武器ってやつか判断してもらいたいだけだけど!
「幻核魔力で作成された存在武器、楽しみにしているね」
「その名前、出していいのか?」
「大丈夫。誰も知らないから」
背後を行き交う生徒へチラっと目線を向けると、誰も振り向かないし気にしている様子もない。
単に他人の会話を盗み聞きする人間が居ないだけかもしれないが、情報を持っている人間の発言だからこそ、なのかもしれないな。
「推測すると。建物内で莫大な魔力で作成しなければいけないのに、あんな狭い場所でそれをやったってことだよね。アヤト、人を注意できないと思う」
「流れに身を任せただけだ」
ああそうか、封印の書は幻核魔力という同種であり同類でなければ解除することはできない。
そして、その存在を知っているルラーナが言うからには、俺が作成する黒い魔剣は幻核魔力を使用した存在武器となるのか。
でも今の話しぶりから、狭い場所で扱おうとすれば何かしらが起きて大変なことになる可能性があるということ。
本当に流れに身を任せ続けた結果の連続だが、全てが危険と隣り合わせだったわけか。
影響や被害がどれほどになるか不明だけど、危ない危ない。
ん? じゃあやっぱり、廊下で実行するのは危険だったわけじゃん!
「でも想像できないのが形、かな。あんな狭い場所で作成可能な武器ってなんだろう。ナイフか指輪みたいなアクセサリとか?」
「後のお楽しみってことで」
あまりの鋭さに内蔵がグイッと持ち上げられた感覚に襲われてしまう。
永遠の挫折を約束された哀しき天才、と揶揄しようとしていたが。
現在進行形の天才だろうし、ストーカー気質は探偵気質に昇格だ。
ルラーナの前で言葉を重ねすぎると、いつかは上げ足を取られるだけではなく隙を突かれそうで怖いな。
「ふふっ、そうだね。そのときを心待ちにしてるよ」
「ああ」
「そろそろ教室に戻らないと」
歩き出した背中を見て足を止めていると。
「どうしたの?」
「え?」
「途中まで一緒に行こうよ」
「え」
「ボクと一緒に歩くの……嫌?」
そんな少し俯いて上目遣いで言うのやめてもらえません?
誰かの後ろを歩くなら、そうレヴィアの後ろを歩くみたいな感じだったら何も抵抗ない。
だがしかし、女の子と並んで歩くだぁ???? 俺が????
そんなリア充イベントが訪れるなんて、何かの間違いだろ!?!?
「ずっと……隣に居たいから。ダメ、かな」
そ、そういえばそんな脅し文句を言われていた記憶がある。
つまり今、この誘いを断れば先生に告げ口をされるということか。
あ、ああ! いいだろう! その挑戦、受けて立とう!!!!
「問題ない」
「本当? ありがとう」
俺は胸を張って堂々と歩きだす。
隣に居るルラーナの表情など見ることはできず、会話を持ち出すこともできない。
周りから目線を向けられている気もするけど、それは自意識過剰なだけだ。
ああそうさ、堂々としていたらいいんだよ堂々としていたら。
何も疚しいことなんて、何もありはしないんだ!!




