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第12話『謝罪など受け入れるわけはなく』

 廊下に出た俺は、今朝とさっきの出来事を歩きながら整理する。


 本当に偶然だったが、絡まれてしまった経緯とルラーナについて。

 さっきの連中は口ぶりからするに、ルラーナに絡んでいた輩たちと面識があるかはさておき、事の直接的な関係はないようだ。

 俺と同様に彼らも偶然通りかかった――ん?

 じゃあなぜ攻撃を仕掛けられた? 話がおかしくないか?

 たしかに俺が口論になっていて、声も聞こえているはずの声量だったにもかかわらず加勢はなかったの事実はある。


「お、おい……」

「ん?」


 廊下で声をかけられるなんて、いったい誰だ? しかも男から?

 と足を止めて振り返ると。


 階段広場からヒョコっと顔を出している、体を震わせた人が居た。

 名前も知らない彼だが、偶然にも顔を知らないわけじゃない。


「一緒に来てくれないか」

「なぜ?」

「頼む」

「理由は教えられない、でも一方的に願いは聞けと?」

「……本当にお願いします」


 敵対視して事情も聴かずに襲い掛かってきて、挙句の果てに2度目は奇襲を企ててきた側の人間が何を言っているんだ。

 今朝とさっきボコボコにされた消えない結果があるのに、『なおも何かを企てて攻撃する意志がある』、と捉えるのが普通。


 口車に乗って行ったところで罠が待っている以外、何があるというのか。


「本当っっっっにお願いします」


 手を合わせて頭まで下げ、そこまで謙った姿勢を誠意とも受け取ることが……怪しさが増していくだけだぞ。

 自分たちの愚行を猛省したうえで、頼み事あるなら何かしらの品と土下座が必須だろう――と思ったけど、文化の違いもあるか。


「わかった」

「え、本当ですか」

「うん」


 時間の猶予がないという点と、この様子だと長引くだけでなく付きまといも始まると思う。

 それに、このやり取りをしただけで通過していった生徒たちから向けられる目線が気になって仕方がなかったし、廊下で話をしている人たちがこっちを見ている気もする。


 人数を増やされて襲撃されたとしても、注意を怠らず冷静に判断と対応を行えば大丈夫だろう。


「……」


 移動の最中、俺たちは言葉を交わさなかった。


 これから待ち受ける事態は、性懲りもなく意地汚いものだと予想しておく。

 なんて考えていると、今日はもう見飽きたと思ってしまうほどの校舎裏側へ到着。

 案内人の彼を含め10人と対峙することに。


「その節は、大変申し訳ございませんでした!」


 ……ん? どういうこと?


 彼らは、誰1人として不適切な姿勢と態度を取らずに深々と頭を下げ始めた。

 予想が外れてしまったことにより唖然とするしかない。


 い、いや待てよ、まだわからない。

 11人目が背後から襲撃を仕掛けてくる可能性だって――。


「言い訳のしようがございません。本当に申し訳ありませんでした」

「1回目は偶然としても、2回目は意図的に攻撃してきたよね」

「はい。その通りです」

「じゃあ、なぜ急にこんな状況に?」

「裏があると思われても仕方ないと思っています」

「理由は?」

「正直に話をすると小恥ずかしいのですが……誠意を見せるために包み隠さず話します」


 ここまで清々しいと、逆に気持ち悪いな。

 いやいやいや、まだ気を緩めちゃダメだ。


「ルラーナ嬢を好いており――いえ! 結婚を前提にお付き合いを申し込もうと思っていまして!」


 あ、これ本音だ。

 全部つながった。

 疑問が消えたよ。


「それで、情報収集をしていたところ。1人の時間を好むようで、隙を見つけては裏庭で寛いでいると」


 1人の少女の情報収集? 行動把握?

 それさ、単なるストーカーってやつじゃないの?


「ちなみに仲間は、全員で俺を応援してくれるって協力してくれていまして」

「……」


 その彼らへ目線を向けると。


 なんて律儀なんだ。

 話を進める男以外は、誠心誠意の謝意を伝えたいのだろな、最初からずっと頭を下げ続けている。

 自分たちの行いを悔いていると同時に、仲間のためにということか。


「じゃあ、仲間を引き連れて1人の少女を取り囲もうとしていたと?」

「いや……それは……その……」

「全部話すんだろ?」

「はい! 最初は途中まで捜索を協力してもらっていました。足を進めながら、ワイワイと俺が茶化されながら」


 まあ、仲間内特有の身内ノリってやつか。

 たぶん「おいおい、付き合ったらデートのこと教えろよー」「結婚式には俺も招待してくれよ」「子供の名前は決めてるのか?」なんて感じだろう。

 断られる可能性なんて考えもせず、お気楽に――ああ泣けるぜ、俺には金輪際訪れなさそうなリア充たちの会話じゃねえか。


「だから……そう、ですね。行き着く先の結果は、彼らが背後で茶化したり笑ったりして、俺の告白を見守って。ということになっていたと思います」

「それをされて相手は喜ぶと思うか?」

「ど、どういうことでしょう」

「もしかしたら自分が嗤われているかもしれない。もしかしたら遊びの延長で馬鹿にされているかもしれない。もしかしたら告白されて喜んだ姿を見世物にされるかもしれない。そんな可能性について考えなかったのか?」

「そ、それは……」


 目線を下げ、本当に思ってもみなかった可能性を提示され困惑の色を隠しきれていない。

 と同時に、好きな相手へ不快な思いを抱かせてしまっていた可能性が胸へ突き刺さり、罪悪感に苛まれても居るだろう。


「俺たちは、そんなつもりはなかったです。不快に思わせたのなら誠心誠意謝ります」

「随分とお気楽な意見だな」

「え……?」

「嘲笑され、弄ばれ、見世物にされ。そう感じさせた時点で次はない。どれだけ誠意で謝罪を述べようとも、傷付いた過去は消えない」

「……でも」

「でもじゃない。それが現実だ。今回は未遂で終わったとしても、そんな不誠実な行動をする未来があった事を忘れるな」

「……はい」


 情けない、何が「はい」だ。

 こいつらはここで反省するかもしれない、それは態度で予想できる。

 だが、勢い余って感情任せに俺を襲った2回は消えないし、その横暴さはルラーナにとっても毒でしかない。


「だから僕は、キミたちを許すつもりはない。彼女の気持ちも汲んで」

「……」

「もしも、偶然、可能性。それら全てがなかったときのことを、もっと深く考え、猛省する以外の選択肢はない」


 こうして時間を空けずに謝罪してきたこと自体は褒められることだ。

 誠心誠意の謝罪も伝わってきたし、自らの過ちを悔いる表情と行動も立派とさえ言える。

 だが、それが許すかどうかは別問題だ。


 とか言っても、個人的にはどっちでもいいけどね。

 彼の好きなルラーナの名前を出し、半ば脅しみたいなことを言い始めているけど基本的に俺は関係ない。

 でも許せば調子に乗る可能性があり、日常生活でめんどくさいノリで絡んでくる可能性がある。

 だったら、俺に近づかないで居てもらえる方がいい。


 まああと、こういうやつらはお灸を据えておいた方がいいと思う。

 どうせ調子に乗って別のどこかでやらかすだろうから。


「他には?」

「い、いえ……」


 途轍もないほどのダメージを負ったのだろうということは、覇気のなくなった返事とこの世の終わりみたいな表情を見ればわかる。

 仲間たちはわからないけど、復讐の可能性は視野に入れておくか。


「じゃあ僕は戻るよ」

「――この度は、本当に申し訳ございませんでした」


 弱々しく掠れた声が背後から聞こえてきたけど、俺は反応を示すことなく教室へと戻っていく。


 はぁ……俺の休み時間って、自分のために時間を使えないのか?

 せめて次の休み時間は、お昼休み時間は! 1人の時間を過ごせるはず!

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