第10話『難関に対応し、これからの姿勢』
最初の難関に対し向き合う姿勢が試される。
再び訪れた実技授業の時間。
それだけであれば別に問題はなかったのだが……。
「これから順番に先生の魔法を防いでもらいます」
しかも何が恐ろしいって、実技なのに教室内で行う点だ。
先生の説明通りに行くのであれば、防御魔法でどうにもならなくても魔道具である制服に付与されている魔術で怪我はしない――とのこと。
身の安全が確保されているからと、攻撃する防御するだけの簡単な話じゃない。
先生の魔法が暴発することはないにしても、生徒側が防御魔法を焦って展開して攻撃魔法を『弾き飛ばす』または『受け流す』行為に至ってしまった場合。
炎魔法であれば教室や机が燃えるのでは? 氷魔法であれば窓が割れたり壁に穴が開くのでは? 風魔法であれば物や最悪人が吹き飛ばされてしまうのでは?
そんな疑問が次々に浮かび上がってきてしまうのだが。
言葉が悪いかもしれないけど――正気か?
「そもそも論。攻撃魔法と防御魔法が、なぜ存在するのか」
言いたいことはわかるし伝えたいこともわかる。
それら手段は身を護るために必要な技術であり。
身も蓋もない話をするのなら、知識も経験も乏しい人間は害を為す存在に襲われた際、抵抗虚しく蹂躙されてしまうだけ。
いや、そんな優しい言葉で説明しているからこそ認識が甘くなってしまい鍛錬が疎かになってしまう。
要は、殺すか殺されるか。
この世界で生を受けた夜、俺はそれを経験した。
秩序がある人間社会に浸っていると薄れてしまうが、ルールなど通用しない人間や相手に関しては弱い方が死ぬだけの話だ。
「みんなには誰も死んでほしくない」
おっと、訂正しなければならない。
随分と直球に物を伝えてくれる先生だったようだ、甘く見ていました。
「今こんなことを言われても、誰も実感がないと思う」
それはそう。
だって、右を見ても左を見ても自分で大成した人間は居なくて。
金持ちのボンボン集団の中で、生きる死ぬの話は心に響くはずがない。
「それでいい今は。でも襲われるときは必ず外ということはない。だから今から少しずつ、室内でも対応できるよう練習していこう」
学園の方針的に、どうやっても権力者しかいない子供たちへ刺激ある授業は行わないと思っていた。
気品あふれる言葉遣いで、誰に対しても低い姿勢で、隠蔽できる事案は全て揉み消して。
でも実際に生活してみ思うことは、全てが真逆。
実技の授業は生徒同士に直接実践させ、明確な特別扱いを受ける生徒は居なくて、隠蔽するような行動はなくて。
教師は生徒の将来を想い、全員と平等に接してくれている。
「それでは始めよう」
と、入り口席の生徒から指名されて実技が始まった。
俺の番に到達するまでは――。
「では次」
1人目の生徒は見事に防御魔法で攻撃魔法を消滅させた。
この間、10秒程度。
間隔は短いけど、想定以上に収穫がある内容だ。
俺の防御魔法は半透明の壁で魔法を消滅させる、という方法。
でも1人目の生徒は“炎魔法”に対して“水魔法”で対応してみせた。
有利属性と不利属性を上手く組み合わせることで、そう消滅ではなく打ち消すことができるようだ。
つまり、俺がやっていたことは魔力差による魔法の消滅ということになるのか。
「いいぞ、それもまた正解だ」
なるほど。
同属性の魔法で対処したとしても、攻撃魔法よりも濃縮な魔力を扱って防御魔法を展開することにより相殺もしくは吸収できるということか。
表現的には圧縮された、と言った方がよさそう?
そして俺は再び思考と訂正しなければならない。
周りの人間は金持ちのボンボンとまとめ上げて枠に納めてしまっていた。
だが実際は、それぞれが努力した結果でもある。
現に瞬発的な対応力を求められる今の授業で、少なくとも2人は適切に魔法を扱う力量を示した。
彼らだけが例外ということもないだろう。
3人目は俺と同じく魔法障壁を展開し、対応してみせた。
「次々いこう」
1人、また1人と前に出て実戦が始まる。
さて……俺はどう対応するべきか考えなければならない。
何も考えなくても、ただ対応するだけでいい――という意見はごもっとも。
だが立ち回りを変えるいい機会とも言えるからこそ、難関とも言える。
家系の事情を間接的に把握してしまったとはいえ、知ってしまったからには能力を隠し続けることは悪いことではない。
暗躍して裏の世界を支配する目標とも一致しているし、計画の一部と考えたらむしろ理に適っている。
しかしどうだろうか、負の側面に目を向けるとどうだろう。
元の宿主が悩み苦しみ歯を食いしばり拳を握り締めた日々を、そんな極度のストレスに晒され続けたことのない俺が耐えられるだろうか。
「……」
無理だろうな、必ずどこかで爆発することが確定しているようなものだ。
であればいっそのこと――表でも活躍してしまってはどうだろう。
さすがに能力は抑えるけど、あの自分を見下していた人間が悔しそうにしている歪む顔を拝めることは悪い気がしない。
もはや自ら進んで悪役を演じることに快感すら覚えた。
それに、無意識かつ無計画ではあったものの名前も知らない2人に恥をかかせたばかりだ。
劣情を抱かせ、悪意から敵意へと変わるまで時間の問題と容易に想像できる。
であれば今更か。
「では次」
「――はい」
俺の順番が来た。
学友に倣い立ち上がって通路から前へ出る。
先生と対面し、杖をホルダーから引き抜く。
今までの流れで大体はわかる――合図はない。
「燃やせ、炎」
「――燃やせ、炎」
「なっ!?」
先生は口をパックリと開け、硬直してしまう。
「この瞬間に同じ魔法で打ち消した……だと……!?」
そう、俺は先生が放った魔法をそのまま発言させ、ぶつけた。
既に授業でやった内容かもしれないが、同じ魔法、同じ魔力が正面から衝突した場合どうなるのかが気になってしまった。
だから、力調整の技術を示すため実行した。
でもどうやら、想定外な対応だったようだ。
「まさか予測したのかい?」
「いえ。先ほどから、先生は各魔法を順不同で発現させていましたので、無理だと悟りました」
「じゃ、じゃあ……合わせたというのか」
「はい」
さすがにイントロクイズみたいに魔法を発現させたわけじゃない。
知識や経験があったのなら可能かもしれないが、少なくとも今の俺にはできないし、早口で唱えることも無理だ。
だから俺は、後出しで完全に被せた。
他の生徒と同じく、攻撃を防ぐ認識だったら防御魔法を発動させるだけでいいから、瞬発力を試されるようなことはない。
でも今回の件で学んだことは、魔力までも合わせるというのは無謀に近いということ。
ちなみにさっきは本当に偶然の賜物。
もしかしたら先生の魔法を打ち消すだけでなく、勢いそのままに先生を攻撃するところだった。
「凄いな」
「でも先生、今の成功は偶然です」
「それでも凄いよ、本当に。以上。席に戻っていいよ」
「ありがとうございました」
俺は一礼し、席へ戻る。
その途中に悪意ではないヒソヒソ話が耳に届いた。
「さっきの凄かったね」「今の見たかよ」「俺もやってみてぇ」なんて声が。
優越感に浸るつもりでやったことではないが、悪い気分ではない。
少なくとも、悪意に満ちた侮蔑の目線や言葉に比べたら。
当然、そんな声が溢れてきたら。
「くっ……偶然だろ」「自分でもそう言っていたんだし」「鼻に付く態度だ」という声も届いてくる。
元の宿主である彼が耳にしたら、たぶん善の声よりも悪の声だけが届いてしまっていただろう。
でも今の俺は……善の声が体に染み渡り、悪の声は前菜――いや、空気程度にしか感じないな。
よし、これからはこんな感じで敵意を栄養にして善意を浴びていこうじゃないか。




