第54話 廃都市からの珍客
私たちは目覚めた。
200年後に目覚めるようにセットして眠ったのだが、どうも数千年経ったようだ。
我々は長年かけて魔素と精霊という二つの素を開発した。
そして、それを実証するために、この星系に来た。
大星雲の片隅に冷え切った恒星とその周りに惑星が数個あるだけ。
最も近い恒星までは50光年離れている。
我々は、テラフォーミング計画を立て、10年をかけて住める星にした。
星の名前はイベリス。
直径2万キロメートルの人工太陽を50万キロメートル上空に配置した。核融合炉がベースであり、およそ10億年の寿命がある。太陽は常時イベリスだけを捕らえて光を放射する。
白い太陽は万物を照らす光、黄色い太陽は魔素を、青い太陽は精霊の光を放射する。
この星と月、そして太陽の制御装置は、あの太陽の後ろの外側に位置するので、地上からは見えない。
我々は特殊な能力として魔法が使えることになった。しかし、魔素は、多くの宇宙に共通する電子物理を阻害する。
光子、電子、陽子、核、元素、分子などからなる物理の世界に、それ等を制御する素を開発したのだ。
それを魔素と呼ぶ。それをあまねく放射する星を作った。黄色い太陽だ。
イメージと簡単な言葉で、物理の世界を制御できること。
例えば、火をイメージしながら『ファイアー』とつぶやけば、空中の酸素と炭素が反応して炎が発現する。
岩が砂になるイメージを浮かべながら『サンドチェンジ』とつぶやけば、目の前の岩が砂になる。
魔法と精霊の世界は、われわれの憧れであった。この地で最終的な検証を終え、明日、3つの太陽へ火入れ式を行う。
そして、我々は魔法と精霊の世界を満喫することになり、数千年の月日が過ぎ、栄華の限りを尽くしたのである。
魔法で、何でもできるということに飽きてきたのだろうか。仮想空間を開発してからは、人々は自分の好きな世界に旅立ってしまった。横のつながりがだんだんと細くなっていって、ついに個人の特定ができなくなった。すなわち居なくなった。
そして、滅亡の未来が迫ってきた。
一時は、仮想世界の疑似人格を含めて、10億人がこの世界を席巻していたのだが。
終がきて、魔女である私と、わずか1000人弱になった同胞とともに眠りについた。
覚醒する条件は、我々と異なる知的生命体の接近である。
来た!。
私は目を覚ました。
500メートルに、そのものたちが接近してきました。
眼のモニターを調整して、見えた者は。
あれは、カガク家の者ですね。
長い耳に赤い尻尾。確かにウサギ種のカガク家の者に違いないです。
再び商売に来たのでしょうか?。
前回は、太陽の外郭を補強するため、シェーロを調達してもらいました。有能な商売人です。
まあ、良いです。様子を見てましょう。
周りに、子供と思われる大きさの者が十数人と、白い大きな犬 !あれは聖獣様ではありませんか!。
それに、あの成人の女性は、人ではないですね。
エルフのような子供たちと、あぁぁ・・もう何なんでしょう!。
嬉しさのあまり、身体が震えます。
私の名前はマリル。
とりあえず、彼らの様子を見るために、近づきたいのですが、あの聖獣がきっと気づいて、皆に知らせるでしょうね。もうしばら、このまま観測して危険が無いことを確認しましょう。
「こんにちはー」
「わう」
「聖獣様、ここを通してくださいませんか?」
「わう。(久しぶりだな。通るが良い)」
「誰か来たみたいだ。アズサ、見てきてくれないか?」
「フリオー、大変だ。よくわからないけど・・・・」
アズサの横に、アズサとそっくりな人が立っている。どちらがアズサ?。
「あたしはマリルと言います。あなたが、ここの長でしょうか?」
右側のアズサが口を開いた。本物と思われる右側のアズサは笑いを堪えている。
「フリオ・マレイと申します。御用をお伺いします」
マリルの言うことには、あの廃都市の生き残りで、5000年のコールドスリープから目覚めたと。その目覚めの条件が”知的生命体の接近”で、その知的生命体が、廃都市を調査に来た僕たちだったと。
あれから、2年。マリル達は、我々を観察していたらしい。
マリルたち生き残りは1000人ほどで、レベル8の精神体であると言った。アズサに擬態したのも、なせる能力らしい。そして、彼女らの要求は、一緒に暮らしたいとのこと。
全く、僕の周りには、どれだけ稀有な人たちが集まってくるのだろうか。
マリル達には憑代としてホムンクルスを用意した。
そして、青い館の北方10キロメートル先に、1000人の村ができた。名前はマリル村。
ここは、赤い尻尾邸の庭の東屋。
僕とアズサ、カレン、タロウ、ソフィアとマリルが座っている。
マリルから、この星の誕生秘話を聞かせてもらっている。
「へー、じゃあマリルさんは、魔女なのですか?」
「そうです。昔はですね。しかし、もうこの星を統治する気はありません。静かに暮らしたいと思っています」
「それより、カレンさんは人ではないですね。なぜに、ここまで人に近いナノマシンがいるのでしょう?。いや、失礼しました。ちょっと想像外でしたので」
「それには、ちょっと話が長くなるのですが、いいですか?」と僕が話を受け取った。
お茶とお菓子で情報交換は、幾たびも行われた。
そして、困ったことがあれば、相談にのってくれるらしい。
良い隣人ができた。うれしい。
マリルは、ことのほかアズサに興味を示し、次期魔女の椅子を担ってほしいと嘆願していた。
(廃都市とこの世界の始まりは、次の機会にお話ししたい。)




