第52話 カガク家の生き残り
ある日、突然、赤い尻尾邸の前庭に、飛行艇が舞い降りた。
そして、下部のデッキから一人のウサギ種が降りてきた。
おれと同じような形態で、大きなウサギ耳と2:2:3:2のずんぐり体型だ。
「こんにちは!」
「やあ!」僕はぶっきらぼうに応えた。
「「あれ?お父さんが、もう一人??」」とタロウ、アズサ。
「まあまあ、皆も集まってくるので、テーブルと椅子を用意するわ」とカレン。
畑に出ていたソフィーズや森人、にゃん吉たちが、何事かと寄ってきた。
彼は、ルーレット・カガクの子孫。21代目のヨハン・カガクと名乗った。
「えぇ、そうなんです。僕は、たまたま宇宙の辺境にビジネスで出ていて、宇宙消失事件をまぬがれたのです。それは、もう何が起こったのか、いや!起こっているのか、まったくわからなかったのです」
辺境から見ていると、そこにはいつもの星が浮かぶ宇宙が見えました。しかし、亜空間ネットーワークには、何も接続できないのです。2,3時間待っても、何も伝わってこないし、伝わらない。ネットワークの故障か?。それは1億分の1の確率でもないはず。ひょっとして、ブラックホールに飲まれたのだろうか?。それならば、事前に察知できたはず。とにかく現地にワープするのは控えたと。
(この星に帰ってこれなかった24代目のマルコス・カガクは、その災厄の真っ只中に飛び込んだのだろうか)
「それより、ご先祖様が、こんなところにおられるとは!!」
「こんなところとは、失礼な!」とカレンが睨んだ。
「あ・・、すみません」
アズサと妻のカレンと息子のタロウや、集まってきた皆を紹介した。
「みなさーん。よろしくお願いしまーす。ヨハン・カガクと申します」
「ところで、ルーレット・カガク総帥でよろしいでしょうか?」
「総帥と呼ぶのはやめてくれ。確かにルーレット・カガクだが、今はこの星の、ただの町長だし、名前をフリオ・マレイと呼んでいる」
「宇宙消失事件で、我々は母星も全てを失いました。残っているのは私と配下3000人ほどです。安住の地を求めて、早1000年が経ちました。その間、カガク商会として細々と仕事をしております」
「宇宙消失事件とな?」と僕は怪訝に首を傾げた。
ヨハンが語る宇宙消失事件とは。
空の向こうには、宇宙と言うほとんど何もない空間と多くの星々が広がっている。
夜、空を見上げると、沢山の星が見える。それが宇宙だ。
カガク家が住む宇宙には恒星が5億ほどあって、その中の太陽系に属した青い星に存在する。
元祖ルーレット・カガクが、この青い星にファミリーを作った。一人、二人、1000人、一億人。災厄発生時には130億のファミリーがこの星に住んでいた。
何千年もかけて魂を磨くことで、文明、文化を高めてきた。
そして、空間を操る手法を見出した。最初は空間接続法で宇宙に旅立ったのだが。
そして、わがファミリーは、この宇宙に広がった。8000年の時を経て、その数は130億人になった。その間、多くの軋轢があって、滅ぼした星々も1000や2000ではない。
わが種は強大な力と繁栄を得ることができた。
しかし、内部崩壊は避けられない運命なのだろうか。独占欲とは厄介な欲だ。
あれほど、苦労をつぎ込んできた世界は急速に滅びの途に就いたのだ。
最初は惑星の中での紛争が、宇宙に飛び火していった。
それがきっかけかどうかは、わからないが、最後は我々の一族もひっくるめて宇宙が消失したらしい。
企てた者も実行した者も、その渦の中に没したと思われる。
130億のファミリーもほとんどが呑み込まれた。助かったのは外宇宙に、たまたま行商に出ていた者だけだった。
それが、僕 ルーレット・カガクと、ここに来たヨハンたちらしい。
嫌な予感が働いたので、ヨハンたちは遠い辺境に移動した。
ヨハンたちは運がよかった。その間際に前方に生じた空間の揺らぎに身を投じることで難を逃れることができたとのこと。そして、今がある。ラッキーなことだ。
(空間の揺らぎは、パラレルワールド管理局の救済ゲートである)
「そうか。それは大変だったな」
僕は、力なくうなずいた。一人から始めたカガク族の星間行商ギルドが崩壊したのか。俺の記憶では宇宙唯一の大商会になっており、繁栄していた。
「先日パラレルワールド管理局から呼び出しがあって出向いてみると、ルーレット・カガクというウサギ種がいるらしいと情報を頂きました。もしやと思い、その人に様子を聞くと、どうも同類のようだと確信したのです。何はともあれ、早速出かけてきたのです。まさか、1500年前に行方不明になっていたルーレット・カガク様だとはびっくりしました。大きな収穫です。うれしい」
ヨハンは、一挙にまくしたてた。
確かに、こやつはよくしゃべる。久しぶりに商い魂が身震いするよ。
「ここから、少し西にマルコス・カガクの研究所跡があるんだ。彼はカガク家の24代目の兄だと手記には書いてあったよ。彼は、この星の魔法について研究していた。そして、この星の魔素をエネルギーにしたナノマシンで構成された生物として産みだされたのが、このカレンだ。マルコスの研究成果だ」
「というか、魔法はイメージで発現できる。ほら、子供の時、魔法の話や、異世界ものなどに心を踊らされなかったか?。僕はね、噂を頼りに、この魔の星を探し当てたのだよ。明日、見せたいものがある。今日は、遅いので休もうではないか」
ヨハンとその従者5人は、マレイの家に泊まった。
赤い尻尾邸は、増築して客室が通路の両脇に10室ある。
翌朝、居間でヨハンはフリオからこの星での経緯を聞いている。
カレン、タロウ、アズサたちは、朝食後の朝の勤めに出て行った。
「これをみてくれ、ジオラマにある印一つ一つが目的地なんだ。この目的地に立つことをイメージすれば、ここに瞬時に行ける。飛行艇も車も馬車もいらない。この世界には科学はいらないだろう」
「おぉ・・、それは便利ですね。でも誰でもが使用できるものなんですか?」
「それはね!。魔力の多さが関係している。魔力が多いほど遠くに転移できる」
「で、フリオ様は、如何様で?」
「うん。僕は1キロメートルぐらいかな?。アズサが10キロメートルほど、カレンとタロウは、僕と同じぐらい。もっと距離を伸ばす方法を模索中だ」
「私にも可能でしょうか?」
「まあ、この地に馴染んでからだね」
「もう一つ、これは重要なことだが、科学と魔法は両立しない。この星では科学が作用しない。電子より魔素の方が優位なため、蓄電もできないし、電気で動くものは作れないんだ。もっとも、君たちが乗ってきた小型艇も、あっちこっち機能しなくなって動かなくなるよ。もうだめかもしれないね?」
「えぇっーー」
急いでヨハンは母船に、事情の説明と指示がある迄、降りてこないように言い渡した。
ギリギリ間に合った。翌日には通信もできなくなった。
「僕たちが乗ってきた母船は、あの太陽の外側に停泊しています。母船に居る技術者では、もう宇宙船を建造することもできません。今、僕たちが使っている母船と着陸艇3基が現存しているだけです。交換部品が無くなれば終わりです。あ!それと、あの太陽の外側に、宇宙船が停泊していましたが、あれは、ルーレット様が乗ってきたものなんですね」
「そうだ、一緒に来た者たちは、あそこでコールドスリープに入ってもらっている。後40年は目覚めない」
ヨハンとその執事、メイドの5人は、赤い尻尾邸に10日ほど滞在して、周囲を見て回った。
そして、移住の決断をした。
「1000年の月日は長いです。取引先も少なく・・・。いや!決して弱音を吐いているわけではないです。でも・・・・弱音ですね。共に旅をしている3000名の希望もあって、どこか永住の地に辿りつきたいと。できれば、この地に移住させてもらえないでしょうか?」
「単刀直入に来たね。カレン、アズサ、タロウ、ソフィアどう思う?」
「迷い森との間に盆地があります。うけいれましょう」
「ありがたきお言葉。よろしくお願いします」
ヨハンたちを受け入れる準備をしよう。レベル7の彼らをレベル3で受け入れる。大変だよ。
これまでは、身の回りをアンドロイドがほとんどやってくれてた。仕事は希望すればアンドロイドがやってくれてた。そんな生活をしている者たちが、自分で水汲みや食事を作るとなると、大変だな。
ヨハンたちのアンドロイドは使えないことも重々承知してもらわねばならない。




