第21話 行商人がやってきた
3年目の春が来た。
「ウゥ・・ワン」
いつもと違うシロの唸り声に、アズサと僕は顔を見合わせた。
「どうしたのかな?」
家の外に出てみると、50メートルほど先に人が見えた。
シロがブロックしている。
「あのーー聖獣様、ここを通していただきたいのですが?。お願いします」
シロに、頭をペコリペコリと下げて、お願いしている。
「初めて見るね」
「うーーん。背中に荷物をたくさん担いでいるように見えるし、悪い人には見えないね」
「シロ、通してあげて」とアズサ。
「行商人のガロムと申します。遠くに煙が上がっているのを見かけて、もしやと思い参った次第です」
「僕はフリオ、横は娘のアズサだ」
ふっとガロムの後ろを見ると、アズサぐらいの小さな男の子が隠れていたのに気が付いた。
小さな子を連れているということは、戦う意思がないということ。あまりにも無防備とはいえるが、商人の身体を張った根性を見ることができる。まあ、連れてくる時点で、事前に”子供を連れていても問題ない”ことを調査はするとは思うが。
ここから、南西に120キロメートルほどのところに、ヤマネ町と言う人口3000人ぐらいの町があり、そこを拠点に行商をしているとのこと。ここへは道がないので、小さな子供連れもあって徒歩で8日ほどかかったらしい。
男の子の名前は、パウロ、6歳になる。アズサと同じ歳だね。
「品物を見せてもらえるかな?」
ガロムはシートを広げると商品を並べだした。
人里から遠く離れているので、きっと日常雑貨が入用ではと、その類が多い。
「これは丈夫なロープです。それと可愛い髪留めなんかはいかがですか?。そうそう、ハサミやナイフなどもあります」
「種は持っていないか?。香辛料の類など」
「バジル、コリアンダー、とうがらし、ディル、山椒などいろいろあります」
手に取って見て、アズサと相談しながらほしいものを手前に寄せた。
「こちらから交換できるものは、こんなのものがあるが」
干し肉、干し魚、干し果物、栗、クルミなどを見せた。
「正直、どの程度が交換に合うのかよくわからないので、ガロムの裁量に任せるよ」
「ありがとうございます。それでは、この品を頂きます」
なかなか正直な若者に見える。今後の取引に期待できそうだ。
冬場に作ったアクセサリは、村での需要がわからないので、物を見せてみた。
是非、取り扱わせてほしいと言うので、3品ほどサンプルとして貸し出した。
「商売は信用第一です。確かにお預かりしました」
アズサとパウロとシロは、仲良く遊んでいるようだ。なにをしているのやら?。
お茶と焼き栗を出して、いろいろ聞きだした。
ヤマネ町の他に、ヌマタ村、タロイモ村など集落があるようだ。西の大きな森の向こうには王国があって、多くの人が住んでいると。ガロムたちは、その王国から海伝いに山脈のこちら側にやってきた人々だそうだ。
この地には、王国には属しておらず、税もなければ招集もない。若干いざこざはあるが、長が仕切っているとのこと。
森と山脈を合わせて『迷いの森』と言われており、踏破した者はいないそうだ。印をつけたり、星や太陽の位置などを頼っても、いつの間にか元に戻されているらしい。
それに、森が生き物のように動いて、捕食するらしい。怖い。
「ところで、シロのことを『聖獣様』と呼んでいるようだが、どうしてかな?」
「はい。聖獣様です。我々を守っていただいています。
シロのような大きな聖獣様は、各地に居て、怪我をして動けなくなった人や迷子などを助けてくれます」
なるほど、アズサを助けて、僕のところに持ってきたのだ。
聖獣って何?は、ここでは聞かないでおこう。
夕食は、ガロム親子を入れてバーベキューにした。
アズサとパウロが仲良く話している中に、シロが合いの手を入れていた。
久しく、人の会話が少なかったので、楽しかった。
アズサとの会話は別だよ。気兼ねがいらないし、お互い馬鹿を言っている節もあるし。
行商人の親子は、一晩我々の家の横にテントを張って泊まっった。翌日、次回は一か月後ということで、ヤマネ町に帰っていった。




