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35 閃いた

「ふぁ~……」

「おはよう、よく寝れたか?」

「ぜーんぜん」


眠れはしたけどあんまり疲れが取れた気がしない。

床が柔らかくないだけでこうも違うもんなんだな。


「んん~……レヴェゲン……」


一緒に寝ていたエルフちゃんも丁度起きた。

朝食を適当にすませた後にラジオをつけてみるとまだ音楽が放送されていた。

この曲は日本語訳されたやつをアニメ映画で聞いたことがあるな。

元のはこんな感じなのか。


「それで、これからどうするんだ?」

「はぁ?これからって?」

「いや、このままここにいるわけにはいかないだろ」


せっかく寛いでたのに面倒くさそうな話題を振りやがって。

ここが自宅じゃないというストレスを我慢してようやく慣れたのになぜ移動せにゃならんのじゃ。


「どうしてここにいちゃいけないと思うの?」

「どうしてって……安全な場所に行かないと駄目だろ」

「一夜明かして大丈夫だったんだしここ安全じゃない?」

「でも絶対じゃないだろ」

「はぁ~……絶対安全な場所なんて存在しないの!ここで妥協すればいいじゃんもう……」


どこに行ったって今まで見てきた以上のモンスターが存在する可能性なんていくらでもあるわけで。

女学園が安全な可能性が高いというのはあくまでも多少信頼できる戦闘能力がある人がいるからというだけ。

食料がなくなったわけでもないのに人馬型モンスターが待ち構えてる外に出てわざわざ危険を冒すことしてどうなる。


「志摩さんはいいのかよ、この子をこんなところで生活させても」

「嫌になったら移動すればいいだけじゃん、そもそもこの世界が一生同じ場所で生活できるもんなのかわかんないし」


というか世界がこうなる前から一生同じ建物に暮らしてる人間なんてのも稀なんじゃないかな。


「というかさ、秋恵はどうしたいの?」

「ちゃんとこの子を守ってくれる大人がいる場所に連れて行きたい」


昨日の話といい、だんだん秋恵がどんな人間なのか分かってきちゃった。

秋恵は責任感とか義務感みたいなものが本能レベルで根付いちゃってるって感じだ。

正直あまり好きなタイプじゃない。


「ふーん……秋恵ってさ、この子を子供扱いしてない?」

「どういう意味だ?子供だろ」

「見た目のことでしょそれ……よく考えてみなよ、この子からしたら親も友達もいない全く未知の惑星に突然転移したのに凄く落ち着いてるでしょ」

「ああ」

「泣き喚いたりもしないどころか狩りをして私達の胃袋を満たしたり、たぶん私達がいなくたって一人でも生きていける能力を持ってると思うよ、十分大人でしょう」


異世界人――地球人もだけど――を地球の大人子供で区別する意味があるのかという点は置いとくとして、エルフちゃんは精神的にはもう大人。

もし私が言葉の通じない異世界に転移させられたらエルフちゃんみたいに冷静でいられる気がしない。

だいたい秋恵がエルフちゃんを助けて怪我を負ったというのも怪しいところだ。

もしかしたらエルフちゃんにはあの人馬型モンスターを退ける術を持っていて、それを知らない秋恵が勝手に助けに行って勝手に怪我したなんて可能性もある。


「結局のところ秋恵は義父と会いたくないから”子供は大人が守らなきゃいけない”みたいな考えかたを理由にこの子と過ごす時間を延ばしたいだけなんじゃない?」

「っ……!」


秋恵は歯を食いしばって露骨に機嫌が悪そうな顔をしたが、自分が今どういう表情をしているのかに気づいたのか顔を背けた。

図星だったからムカついたにしても、まったく検討違いのことを言われてムカついたにしても私が機嫌を損ねたのには変わりない。

殴られたりしたら嫌だなぁ。


「そうかもしれ……いや、そうだ……そのとおりだよ……」


これはムカついたってより自己嫌悪って感じかなぁ。


「クァスエスッ?リグサェス?」


落ち込んだ様子の秋恵にエルフちゃんが心配そうな眼差しを向けた後、私の方を見ながら秋恵を指差した。

言葉はわからなくとも私が秋恵に言った事が原因なのは察しているらしく、どうにかしてくれといった感じの反応をしている。


「えー……うーん」


言っちゃった後でなんだけど恨まれたらそれも面倒だろうしここで解決しておくべきなのかな。

いや、面倒になったらそれはその時考えればいいわけで。


「ヴィアセレ」

「あーもう、わかったよ……」


カタリナといいエルフちゃんといいなぜ異世界人はこうも私に言う事を聞かせられるんだ。

他人なんてどうでもいいと思ってるはずなんだけどどうして言う通りにしたくなるんだろ。


「秋恵、言い過ぎた悪かったよ」

「いや、志摩さんは事実を言っただけだ」


だからその事実を言ったのが問題なのでは。


「……何かして欲しいこととかある?」

「なんでもしてくれるのか?」

「ま、まあ……」


痛くないことならしよう。


「それじゃあ教えてくれ、これからアタシはどうしたらいいんだ?」

「どうしたらって……好きにしたらいいじゃないのさ」

「好きにって……」


どうも秋恵はなにか行動をしないと安心できないらしい。

責任感と義務感が強いからなのか、腹が減ったら食べるのと同じようにとにかく何かをしなければならないみたいな意識があるんだろう。

秋恵の場合文明社会だから成り立つ目的を持っていたけど、世界が終わってその目的を失ったせいでどうしていいかわからないんだろうな。


「ここでのんびりしてもいい、エルフちゃんを連れてどこかに行ってもいい、義父に会いに行ってもいい、私に無理やり安全な場所がどこなのか吐かせてもいい」

「無理やりって……そもそもこの子を置いてどっか行くなんてできない」

「なんで?」

「一度助けたら最後まで責任持つもんだろ」

「あのね、責任なんて存在しないの、それを強制する人もいなければ法もない、秋恵が私を孕ませても籍を入れ……この例えはないな忘れて」


なに喉が渇くまで会話をしてるんだ私は。

こういう自分の考え方が脊椎まで根付いてる人には何を言ったって無駄だと分かってるのに。


「あくまで私はそう考えてるってだけだから……うん、何がしたいのか分からないならゆっくり考えればいいと思うよ……」


月並みな事言って終わりにしよう。

これ以上話してもどうにもならない。

エルフちゃんには悪いけど秋恵は放っておくしか――


「決めたぜ!」


今までの機嫌が悪い顔が一転して気力に満ちた顔になった。


「な、なにさ急に元気になって……」

「もうこの世に責任とか存在しないんだろ?だったら父さんがアタシを迎えに来るのも責任や義務だから仕方なくってわけじゃないってことだ」

「うん?」

「だからちゃんと会いに行く、そんで一緒に母さんと弟を迎えに行く!」

「ああうん、行ったらいいんじゃない……」


単に秋恵の母親の好感度を下げたくないだけって可能性もあるんだけど言わないほうがいいよね。

秋恵が元気になったからエルフちゃんも嬉しそうだ。

昨日会ったばかりの人にここまで入れ込めるなんて変な子だなぁ。


「が、やっぱりこの子と志摩さんをここに残して行くのは不安だから当初の予定通りの場所まで案内してくれ、その後家族を連れてそこまで行く」

「えぇ……」


結局そこに行き着くのかよ。

女学園が私達を受け入れてくれる保障すらないのに秋恵の家族まで受けれてもらえるかね。


「案内してくれたら見返りにアタシがなんでも言うことを聞くよ、ただ案内してくれないならあれだぞ、ヒドイことするぞ」


なんだよヒドイことって。

どうせ何もしないんだろうけど案内しなかった場合しつこいだろうなぁ。


「……わかったよ」

「よっし!ありがとう志摩さん」


さっさと送り届けて一人になろう。


「でもその前にアレをどうにかしないと」

「アレ?」


私はエルフちゃんに向かって外にまだ人馬型モンスターがいるのかジェスチャーで確認をした。


「いる?」

「ウンウン」


頷いた。

まだ外にいるんだろう。

あの人馬型モンスターから逃げ切る方法を考えないと出てもすぐにグサッとなる。


「どうやって――」


『おはよう、無事に夜が明けて良かったよ』


非常用ライトのラジオから流れていた音楽が終わると昨夜の男性の声が聞えてきた。


「あっ、なんか閃いたかも」

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