36 実行した
「荷物はまとめた?トイレ行くなら今のうちだからね」
「準備は万全、いつでも大丈夫だ」
あの人馬型モンスターはなぜか他にもいるであろう人間を狙わずここの建物の周囲をうろついている。
理由は分からないが執拗にエルフちゃんを狙っているから作戦は簡単。
「じゃあ始めようか、気をつけて」
「ああ、志摩さんもな」
「ヂァニム」
会話ができないエルフちゃんには詳しい作戦内容を伝えることができないので作戦が簡単なのは幸いだった。
まずあの人馬型モンスターはもの凄く早いので正面から出て行って走ってもまず逃げ切れない。
かと言って倒すにしても一番火力がありそうな秋恵の攻撃が効くかわからない以上うかつに近づけない。
「大丈夫大丈夫……」
頭は不安でいっぱいだしお腹が痛くなってくるしストレスを感じているのがすぐにわかる。
深呼吸と独り言で誤魔化しながらスタッフルームの小窓で合図を待つ。
そして十分ほど経った時、合図である非常用ライトに付いているサイレンの音が鳴り響いた。
「とぁっ!」
すぐに窓から外へ飛び出して駐車場の入り口まで走る。
入り口に到着したら急いでステータスを開いてランダムスキルツリーのスキル一覧に切り替える。
防御壁LV1という文字に人差し指で触れると、触れた指先から青白い半透明の尖ったでかい丸太が現れる。
これを駐車場入り口の端に設置、そのまま反対側の端まで歩いて設置。
すると見事に青白い半透明の丸太の壁が出来上がったので確定すると、半透明の壁が実体化してちゃんとした木材の壁が完成。
「よし!」
ラジオを見ていて怪物にラジオを食べられる映画を思い出し、その映画の二作目で怪物を閉じ込めた作戦を真似をしようと思った。
元々は誘き出した後シャッターを閉めるつもりだったけど降ろし方わからないし電気通ってない場合使えるかわからない。
なのでどうしようかと迷った結果、元々どんなスキルなのかを確かめていなかったから使ってみたランダムスキルツリーが使えそうだと気づいた。
「上手くいったよ」
「そうか!よし早く行こう」
「いこー」
説明からして微妙スキルだと思っていたけれど使えないことはないな。
一度設置した壁も一瞬で撤去できて撤去したら設置に使ったスキルポイントが戻って来るのは親切設計。
問題があるとすればやっぱり地味なことだ。
せっかくファンタジー世界が到来したのにやってることがsteamで買ったゲームと大差ない。
「志摩さんはこの子を送り届けた後はどうする?」
今のところ問題なく外を歩けている。
それが続いて暇になったのか秋恵が話をしようとしてきた。
秋恵みたいなタイプは人がいたら喋らないと落ち着かないものなのか。
「さあ……」
「さあって……何かないのかよ?」
「ないねぇ……」
強いて言うなら自宅に戻って姉を待つくらいか。
いつ死んでもいいって思ってたけど姉が私の死体を発見できなかったら探し続けちゃいそうだから見つけやすい場所で死なないと。
「じゃあさ、アタシが家族連れて戻るまでこの子と一緒にいてくれよ」
「えぇ?なんでさ」
私が子供相手でも他人と一緒にいるのは苦手な人間だと気づいているだろうに。
「志摩さんって自分がどうなってもいいやって思ってるだろ?」
「ま、まあ……なんで分かったの……?」
「義務も責任もないって考えを持ってるのにアタシを助けてくれただろ?恩を仇で返されてもいいやって感じだったんだろ」
確かにそうだったような気がするけど、見透かされるってのはやっぱり不快なものだなぁ。
「やっぱり何か目的があった方がいいと思うんだ、これを果たすまでは死ねないって思えるやつがさ、アタシは志摩さんに長生きして欲しいんだ」
つくづく面倒な子だ。
自分のためにすら生きていなかったのに、秋恵のために生きようとは思えない。
「会って一日の関係で死んで欲しくないと思えるなんて理解できないや……」
「というか死んで欲しい人なんて一人もいないよ」
秋恵は長生きできそうにない性格してるな。
何年か生きてれば死んで欲しい人間の一人や二人できるだろうに。
それとも秋恵みたいな人の方が多いもんなのか?他者に死んで欲しいと思う人の方が少なかったりするのかな。
「イリィ!」
色々考えていたら突然エルフちゃんが何かに気づいて前方を指した。
指す方は突き当たりの左側でまだその姿は見えないが影は見えた。
「こっちだ」
秋恵にひっぱられて三人で隠れて様子を見ると、その影の形から見覚えのあるモンスターを思い出す。
数秒後に姿を現したそれは、さっき釣具屋の駐車場に閉じ込めた人馬型モンスターと同じ体型をしている。
紫灰人が複数いるように人馬型モンスターも複数いるんだろう。
「どうする?」
「どうするもなにも迂回して――」
ドォーン!
言い終わる前に衝撃的なものを目にした。
突然上空から降ってきた何かが人馬型モンスターに直撃していた。
「なんだ!?」
「クァス!?」
「雷?ミサイル?」
上から何かが降ってきたということ以外に気づけたことがない。
三人とも呆気にとられていると突き当たりの右側から二人の人物が姿を現した。
「ド真ん中だー、すごいなー」
「あの矢を回収する手間をかけるほどの相手であったとは思えません」
前に一度会ったソレフマイネンという子と昨日私のマンションで見かけた長身のロボット。
「えーっと、あっちに……あっいたー!」
「み、見つかったぞ」
「ヂァニム!」
何も知らない秋恵はバールを構えてエルフちゃんも魔法を使いそうな構えをしている。
「たぶん大丈夫、知り合いだから……お、おーい」
「やあ久しぶりーって程でもないねー」
「予想以上に間抜けそうな顔の貴女が山村志摩さんですね、回収に参りました」
初対面のロボットに罵倒されるとはなかなか経験できることじゃないね。
「そっちの人たちは友達?一緒に来るー?」
「あっうん……」
色々な疑問が一度に沢山湧いてきた。
でもとりあえず他人と過ごす時間は終わりが見えてきたからもうどうでもいいかな。




