34 ニート&エルフ&バール 飯
ポケットに入れていたナイフで非常用ライトが入っていた箱を切って広げ、内側をまな板にする。
エルフちゃんから受け取った肝臓を薄めに一枚切り取る。
「マジで食うのか?食中毒とかになったら大変だぞ、病院とかやってないんだぞ」
「別にいいよ……」
食中毒になろうが寄生されようがノロわれようがどうだったいいさ。
苦しかったらサパっと死ねば楽になれる。
今生に未練なんてないからね。
覚悟を決めて切り取った肝臓を口に入れてみる。
「んー……」
思えば生レバーを食べた経験がないから比較できない。
だけど思ったより食える。
味はそれなりに血って感じがするけど食感は思ったより好み。
舌触りはツルツルしててちょっと不快だけど歯切れが良いから食べやすい。
薄く切ったのがよかったのかな。
「どうなんだ?」
「まあそこそこ」
思ったより悪くないけど生姜が欲しいところ。
調味料がない現状ではやっぱり火を通したほうが美味しい気がする。
「秋恵、そこのコンロ火つけて」
「これか、どうやって使うんだ?」
「箱に書いてあるとおりにすればいいよ」
私ももう一つコンロを用意して取ってきたコッヘルを箱から出す。
これらが調理器具であるということを察したからなのかエルフちゃんはアイテムボックスに入れていたダンクルオステウスみたいな頭をした動物を取り出した。
そして心臓であろうものを渡して来る。
私がそれを受け取るとエルフちゃんは火のついたコンロを指差す。
調理しろってことかい。
「網が欲しいなぁ……」
「網ならさっき見かけたぞ」
「ほんと?たも網じゃなくて?」
「カセットコンロ用の焼き網だったよ、取って来るわ」
そう言って持ってきたのは網付きのそこそこ大きめな卓上コンロ。
アウトドア用品も扱っているとはいえそんなもんまで釣具屋に置いてあるもんなのか。
「なんか調味料とかなかった?」
「見た限りなかったな」
せめて塩くらいは欲しかったな。
残りのレバーと心臓も薄めに切り分けてコンロの箱を広げて作った皿に乗せておく。
「くっ、このっ」
姉ちゃんにもらったナイフは使いやすいけど少し小さくて使いにくいなこれ。
今エルフちゃんが皮を剥がすのに使ってる変な形のナイフは見た感じつかいにくそうだけどエルフちゃんは手際よく解体している。
その間にコンロでお湯を沸かしてリュックに入れていた紅茶のディーバッグを入れる。
「紅茶なんて持ってきてたのか」
「うん、砂糖はないけどね」
マイヤーズが私の家に置いて行ったやつ。
リュックにぴったり五つ入るポケットがあったからつい入れちゃった。
隙間があると埋めたくなるあの感覚はなんなんだろ。
なんてやっているうちにエルフちゃんは後ろ足を一つ持ってきた。
「ピァツテ」
「でっかいなぁ」
解体の途中とか見るとグロいけどこうして皮を剥がして足だけになった肉を見ると美味そうに見えるのはなぜなのだろう。
とりあえず切り分けた肉を卓上コンロで焼きながら紅茶を金属のコップに注ぐ。
「心臓は結構美味いな!」
「レバーも美味いよ」
レバーは火を通したほうが好みかも。
新鮮だからなのかあのよく分からない動物だからなのか分からないけど焼き鳥のレバー特有のザラザラした感じがなくて食べやすい。
「やっぱり味付け欲しいよなぁ」
「だねー……あっそうだ」
リュックから持ってきていた缶詰を漁る。
その中から焼き鳥の缶詰といわしの味噌煮をあけてその中に入っているタレを使ってみる。
「んー……まあ、うん」
「んー!レクメンツィ!」
私としては味が濃すぎてあのダンクルオステウス頭のあっさりとした良い肉が駄目になっている感が否めない。
しかしエルフちゃんは気に入ったのか喜んでる。
「レクメンツィ……アー、オ、おいしー?」
「おっ!そうそう、美味しい」
「おいしー!」
エルフちゃんがまた一つ言葉を覚えた。
しっかし他人と同じテーブルでラジオでよくわからない洋楽を聴きながらランタンの明かりで肉を焼きながら食べるなんて初めての経験だな。
「ふぅ、食った食った」
「ごちそうさま」
感想としてはやっぱり一人で誰にも気を使わずに黙々と食べるほうが性に合ってる。
食べ終わった後はやることがないのでゆっくりとしていたら、エルフちゃんがいつのまにか私の膨らましたゴムボートの中敷で寝ていた。
ラジオからはまだ音楽が流れているので時折充電のハンドルを回していると、秋恵がポケットから一枚のコインを取り出した。
「志摩さん、このコインをよく見てて」
「え?うん」
秋恵は指を波のように動かしてコインを移動させて手の中に握りこみ、手を開くとコインが消えていた。
そして秋恵が私の髪に触れると消えていたコインが私の髪の中から現れた。
「はぇ~……凄いね」
「へへっ、コインとかトランプ使うマジックは少ない道具でできるから高校の時とかよくやっててな、得意なんだ」
こういうのを見るとタネが気になっちゃうけど聞くのは野暮ってやつか。
「はぁ……これを見せてたクラスメイトは無事なのか気になってしょうがないぜ」
「ふーん」
昔のクラスメイトまで気にするなんて理解できない。
秋恵はいかにも人気者タイプっぽいから仲良い人が多かったんだろうな。
「……志摩さんは無事か気になる人いないのか?」
「いないよ」
「マジかよ……ひょっとして志摩さんって家族とかいない?」
「いや、姉と兄がいるけど」
家族が血縁者という意味なら姪もいるし、葬式で会ったよくわからん人達も多分そうなのかな?いやそこまで行ったら他人かせいぜい親戚か。
「お姉さんやお兄さんのことは気にならないのかよ」
「うーん……多少は気になるけど別になぁ……」
わざわざ足を運んで行くほどではない。
というか姉に関してはいずれ向こうから会いに来る気みたいだし。
「あー……わりぃ」
「なにが?」
「いや、デリカシーがない質問しちまってよ」
どうやら私が姉や兄と仲が悪いのかと勘違いしたらしい。
人にどう思われようとどうでもいいって思ってたけど、勘違いされるのはイラっとするな。
「無事を確認する手段がない以上なにもしないだけで姉のことも兄のことも嫌いじゃないよ」
「そうか……なるほど」
秋恵が悪いわけじゃないのに妙な言い方しちゃった。
私が怒ったとまた勘違いしたみたいで秋恵は黙った。
あーあ、こういうのがあるから人と話すのは嫌なんだよ。
元々何にでもストレスを感じるのに余計ストレスが溜まる。
「……アタシさ」
この期に及んでまだ喋り足りないのですか君は。
「小さい頃に親が離婚して母さんと暮らしてたんだけどさ、何年か前に再婚してよ」
どうやら身の上話をしたいらしい。
会話は面倒だけど一方的に話してくれるならいいか。
「再婚相手は昔の同級生だかなんだからしくて、母さんは元気になったし生活も楽になったし、今もアタシを迎えに来ようとしてくれて……まあ良い人なんだけど」
「だけど?」
こういう適当な相槌しか求めてない感じの話は楽でいい。
「最近母さんとの間に子供が生まれてな、アタシにとっちゃあ弟さ」
「それで?」
「普通は血の繋がってない連れ子より自分の子供の方が愛おしいもんだろ?アタシを迎えに来ようとするのも義務だからなんじゃないかって思うと会いにくくてな……」
話して満足したのか、それとも私の相槌はお気に召さなかったのか秋恵はそれ以上喋ることはなかった。
秋恵は意外と頭が固い子なのかな。
今の世界に義務や責任なんて存在しないってのに。
さすがに卓上コンロは売ってませんでした




