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33 ニート&エルフ&バールⅥ

秋恵がキモい宝箱を倒して私が赤い煙を浴びてからどれくらい経ったんだろ。

いや、そんなことはどうでもいいな。


「元気出せって、な?」

「んなもん出してどーすんのさぁ……」


完全に気力がなくなった。

大量のムカデは幻覚だったから特に外傷があったわけじゃあないけれど精神的にはかなりのダメージ。

今の私は確実に正気度が低下している。


「ブェネ?」

「志摩さん、子供が見てるぞ」

「だからなんだってんだよー……」


もう何もしたくない。

今後もこういうことがないなんて保証はない。

次は幻覚じゃなく本物のムカデに襲われるなんてこともあるかもしれない。


「あと何時間休むんだ?」

「さぁ……」

「……それじゃあ今日はここで一夜明かそう、しっかり休んでしっかり寝てみれば気分も変わるって」

「かもね……いいんじゃない……」


そんなんで失った気力を取り戻せるなら私はこんな人間じゃあなかっただろう。

何が最適な行動かを理解しても実行できないか実行してもやり遂げられない私にとっちゃあ睡眠なんて時間を早く進めるためのものでしかない。

あーあーなんで無駄に行動しようとか思っちゃったんだか。

たかが食料を取りに行った程度で自分の何かが変わるとか勘違いしてたんじゃないか私は。


「どっこいしょっと……」

「どこ行くんだ?」

「床は寝心地悪いから敷く物とってくる……秋恵もエルフちゃんとなにか探してきて……」

「ああ、使えそうなものがあったらここに持って来るよ」


釣具屋は商品が所狭しと並んでいるけどレジの前は出入り口が近く人が並ぶことも想定してか広い空間があった。

そこに荷物を置いて秋恵とエルフちゃんはさっき取りそびれた服を取りに行くみたい。

私は私は店の左奥に行く。


「おっ、あった」


店の左奥は少しだけボート関係の商品がおいてある。

電動のエンジンとか魚群探知機とかもあってクソ高い。

商品を色々ぶっ壊してみたいけどそれは後にしてゴムボートの中敷きと空気入れを取って荷物の場所まで戻る。


「ういしょ」


取ってきたものを置いて今度はアウトドアコーナーへ。

釣り自体アウトドアなのにアウトドアコーナーがあるってのもおかしなもんだけど。

ここにはコンロとその燃料、ランタンやらが置いてある。

とりあえず使えそうなものを片端から運んでからゴムボートの中敷きに空気を入れる。


「ふぅ……ふぅ……」


疲れた。

まさか中敷き程度にもこんなに空気が入るとは。

姉ちゃんはゴムボートで釣り行く度にこんなことしてんのか。


「よぉ、ただいま」

「ケットルゥ」


秋恵は体格に合いそうな値札がついたままのリュック。

エルフちゃんは藍色に白いドットが散った服を着ていた。

目立たないしサイズは合ってそうだな。


「この子に合うサイズのはこれくらいのしかなかったよ」

「ふーん……可愛いじゃない」


まあエルフちゃんは元から可愛いから何着ても可愛くなるんだろうけど。


「カワイイ?」

「ああ可愛いよ、でも次はちゃんとした所で選ぼうな」


秋恵はそう言ってエルフちゃんの頭を撫でた。

言葉が分からなくて首をかしげているものの、頭を撫でるという行為には嬉しそうな顔をしていた。

その後はアウトドアコーナーの折りたたみ式テーブル、アウトドアチェアを運んだ。


「ふぅ、それはなんだ?」

「非常用ライト……」


手回しの充電とかソーラーパネルとかサイレンとかラジオがついてるランタン型のライトに付属の電池を入れる。

音量ダイヤルがラジオのオンオフと合わさっているので音量を上げて周波数のダイヤルをゆっくり回す。


「インターネットの時代にラジオなんて放送してんのか?」

「案外してるもんだよ、文明は後退しそうだしこの調子で行けばそのうち伝書鳩の時代なるかもね」


AMは一切反応しないのでFMにかえてダイヤルを回す。


「あっ、そういえばネットって繋がるの?私スマホ持ってないからわからないんだけど……」

「ちょっと待ってくれ」


秋恵はスマホを取り出して電源を入れた。

それと同時に秋恵がまた画面を見て固まった。


「どうしたの?」

「あ、いや……父親……父親から連絡が来てるだけだ」


つまり父親と何かこじれてるのか。

そんなことよりさっさとネットが生きてるかどうか確認して欲しいんだけど。

しかし悩む顔をしたまま不動。

面倒なので何も言わずにラジオを弄っていると僅かに反応があった。


「おっ」


軽いノイズを跨いで音がしっかりと聞えるようになったが、それは緊急放送などの類ではなく音楽だった。

以前なら災害でもない限り当たり前のことだけれど、世界がまるで変わってしまった直後にしては暢気な放送。

歌詞は英語でまったくわからないし、曲調からどことなく八十年代っぽさがにじみ出ている。


「クァホヌシィカ」


音楽が出る機械というのは珍しいようで、エルフちゃんは非常用ライトをまじまじと見ながら曲に合わせて体が少し揺れている。

どっかで聴いた曲だと思ったらたまに映画とかで使われてるなこの曲。

曲が終わると少しの雑音の後に人の声が聞える。


『どうだい、良い曲だっただろう?』


その声は男性でそれなりの年齢であることがわかる。


『はー……昔は考えもしなかったよ、カセットテープが姿を消すことも、マイケルが死ぬことも、世界が終わることも』


哀愁が漂ってる声だこと。


『いずれ……いやすぐにでも放送できなくなるだろう、だから放送できるうちに沢山曲を流しておこうと思う、もしかしたら地球最後の放送かもしれないね』


そして再び八十年代っぽい曲が流れ始めた。

それを聞く以外にやることがないのでエルフちゃんに対して人馬型モンスターがまだいるのか確認をする。

秋恵を指差して背中を刺すジェスチャーをした後に外を指して首をかしげる。

これでエルフちゃんには意図が伝わったようで、外を指差して頷いた。


「まだいるのか」

「みたいだね」


あのモンスターは暇なのか。


「……おなかすいたなぁ」

「何か食ったら?」

「そうする」


リュックから食べ物を出して何を食べようか悩んでいると、エルフちゃんが私の袖を引っ張った。


「エスリェフ?」

「どうしたの?」


エルフちゃんは今朝獲ったダンクルオステウスみたいな顔の動物の切り取った内臓――たぶん肝臓――を私に向かって差し出した。


「マンヅエスェ?」

「え?ああ、これ調理したいのかな?」


そう思って私はコンロの準備をしようとした。

しかしエルフちゃんはまた私達を驚かせた。


「はむっ!」

「えっ」

「お、おい……」


火を待たずに肝臓を生で食いついちゃった。

そのままモグモグと咀嚼して飲み込んだ後、残りを再び私に向かって差し出した。


「ピァツテ!」


食えというのか。

得体の知れない異世界の動物の内臓を生で……。


「やめといたほうが――」


私はエルフちゃんから肝臓を受け取った。


「し、志摩さん?」

「この子がくれるならもらわないとね……」

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