29 ニート&エルフ&バールⅡ
「ぜぇ……ぜぇ……」
「大丈夫かよ?」
超巨大ナナフシから離れるために少し走った結果息切れした。
多少ステータスを割り振っている程度ではまだヒキニートの体力から逃れられないということか。
今の私は小学生より体力ないんじゃないかと思ってたけどエルフちゃんに追い越されて確信した。
絶対小学生より体力ないわ。
「まあナナフシは見えなくなったしゆっくり行こうぜ」
「ひぃ、ふぅ……う、うん……」
思えば体力のない私が荷物持ちしたらこうなるのは当たり前だよな。
荷物持ちは非戦闘員こそするべきで、秋恵は戦えるみたいだし私も剣は持ってる。
つまりこのリュックを背負うべきはエルフちゃん。
「クァス?」
いや、エルフちゃんは能力が未知数なだけでステータスという存在を踏まえれば私より強いかもしれない。
私達二人よりも早くナナフシに気づいてたし、秋恵を刺したっていうモンスター以上ではなくとも三人の中で一番強い可能性だってある。
「エスリェフ?」
それに可愛いし。
「……いい子いい子」
「んんー?」
荷物まで手放したら私には何も残らないからね。
焦らず休憩を挟みながらのんびりと歩く。
通った事はある程度の場所だけど所々で建物が変わっていたり、古い建物がまだ残っていたりする。
長く引き篭もっている間に起こった変化には自分でも驚くほど気づくことができた。
「あれ?」
「どうした?」
「いや……確かここに駄菓子屋があったんだけど……」
私が生まれた時から絶滅危惧種だった駄菓子屋。
その数少ない生き残りがこの大通りから横へ行ったわき道の角にあった。
でもその場所にはボロい木造の駄菓子屋ではなく、車が四台とまれる程度の駐車場。
「……なくなってる」
そりゃあ私がこの年になるまで駄菓子屋のおばちゃんが続けてられるはずないよな。
「へぇ、駄菓子屋って見た事すらないから残念だなぁ」
「うん……」
小さい頃、あの頃から外で遊ぶとかあまりしなかったけど、姉ちゃんに連れられてこの先にある川へ釣りに行ったりした。
釣り自体はそんなに好きじゃなかったけど、道中にある駄菓子屋で買ったカルメ焼きが美味しかったのはよく覚えてる。
ああ、そういえばこの先に釣具屋あったな、まだ残ってたら寄って行こう。
「ヴィズデ!」
エルフちゃんが私の袖を引っ張って道路の向こうを指差す。
そこには人型ではあるものの頭部が長方形で全身が紫色のモンスター、紫灰人がいた。
「あれは……人じゃないよな?」
「私が最初に倒したモンスター、紫灰人っていうらしいよ」
紫灰人は私達に気づいてゆっくりと歩いて来る。
襲ってくる気配はあるけど武器を持ってないせいかあまり怖くない。
まあ紫灰人が怖くないのはもっと怖いモンスターに出会った事があるからだろうけど油断は禁物。
「打撃以外はあまり効果がないみたい」
前は素手で倒してしまってさすがにおかしいなと思ったけどあの時はカタリナがいたから楽に倒せただけ。
経験者が傍にいるという安心感なしでの戦闘は初めてだ。
剣は紙袋から取り出さずにそのまま振り回して使おう。
「さがってな、打撃ならアタシのバールが一番だぜ」
「えっ、いやでも相手は一体だし二人で囲んだ方が――」
「せっかくだからここいらでアタシのスキルを知っておいて欲しいんだ、任せてくれ」
秋恵がステータスを知っているということはコンビニで聞いたけど、どんなランダムスキルツリーなのかはまだ聞いてなかった。
あえて隠してるのかと思ってたけど見せてくれるなら信用できる要素が増えるな。
私は自分のスキルを教えてないけど信用してない相手から信用されたいとは思わないからだし。
「先に言っとくけど……笑うなよ」
そう言って秋恵はバールを高らかに掲げて叫ぶ。
「[旧き支配者に由来する邪なる力よ、その片鱗を垣間見せろ]」
えっ、突然なに言ってるのこの子とか思っている間に秋恵の持つバールが純白の神秘的な眩い光りを放ち始めた。
そしてその光りが秋恵の全身を包んだ。
「くらえ!」
秋恵はカタリナの使っていた剣士のスキル[ダッシュストライク]に近い速度で動き紫灰人の頭をバールで殴った。
紫灰人の頭部は吹き飛んで散っている。
「今のがアタシのランダムスキルツリー[旧支配者からの応答]なんだけど……どうよ?」
「どうと言われても……光ったことで何が起こったのかよくわかんないよ」
「一時的に旧支配者の借りるらしい、詳しくは書いてないからアタシにもわかんないんだ、今取得できるスキルも持続時間が延びるとかだけだし」
「ふーん?」
とりあえず動きが早くなってた。
バールを持ってる右半身の光りが弱くて、変わりにバールも光ってたけど威力が上がってたりしたのかな。
紫灰人は打撃なら武器を持たない常人でも倒せるレベルだったから検証しないとわかんないな。
「しっかしあんまり驚いてないな、アタシは最初かなり動揺したんだぜ」
「だってもう何が起きてもおかしくない世界じゃない」
二つの世界が完全に一つになる前に沢山驚いたしね。
異世界人とかバケツ頭の静岡県民とかCARシステムを使う女子高生とかに。
「そうだな……あーあ、本物の魔法が使えるなんて手品師目指してたのが馬鹿みたいだよ、はぁ……」
確かに今更人間が瞬間移動しても驚けないかも。
私は何も目指してなくてなんの努力もしなかったから魔法とかなんとも思わないけど、突然今まで努力して目指してたもの以上に凄いことが簡単にできるようになるのは複雑な気分になるもんなんだろう。
「リグサェス?ブェック」
「ん?どうした?」
エルフちゃんが秋恵の服の胸元を掴んで引っ張り、秋恵が屈むとエルフちゃんが秋恵の頭を撫でた。
「ピェンドフローラ、エセホミネズサナ」
なでなでしながら目を瞑って何かを唱えている。
それが終わると秋恵にハグをして離れた。
言葉は分からないけど今の振る舞いからして溜め息をついていた秋恵を慰めてたみたい。
私も悲しそうな顔してりゃあナデナデしてもらえるのかな。
「……ありがとな」
「んへへ、いこー!」
そう言って私の手を握った。
「行こう」は完全に覚えたなこの子。
そしてまた歩き始めてしばらくすると、以外にも人が結構いた。
人をみかけないのは私達がいた辺りに限ったことのようで、一々言葉を交わすほどではない程度に地球人とすれ違う。
まあ私程度の人間が生き残れてるくらいだし当然か。
「……イリィ」
エルフちゃんが何かに気づいて指を指している。
私には何も感じられないけどエルフちゃんは聴覚か嗅覚か、はたまた異世界の感覚かで何かを察知する能力があるらしい。
「ん?どうし――」
私達に対して静かにするようにというジェスチャーを行ったので黙ってエルフちゃんについて行くとそこは公園だった。
遊具などはなくただ広めに整地されているだけの公園で、水道と錆び付いたゴミ入れとボール遊び禁止の看板が立ってるだけ。
しかしそこには見た事のない生き物がいた。
中型犬くらいの大きさで四足歩行、頭部はダンクルオステウスみたいであまり可愛くない。
皮膚は亀とかワニみたいな爬虫類を思わせる感じ。
その動物はこちらに気づいていないのかゆっくりと歩くのみでなにもしない。
今まで出会ったモンスターの中では一番生き物っぽさがあるな。
「ハアッ!」
「えっ」
「あれ」
いつのまにかネオンライトみたいに光る細長い槍のようなものを持っていたエルフちゃんがそれを投擲していた。
その槍はあのダンクルオステウス顔の動物の左前足の付け根に命中。
「ア”ア”ア”~~~ッ」
細長い槍は刺さって少し経つと消滅。
刺された動物は逃げるように走るもすぐに力尽きた。
「えぇ~……」
「なにやってんだ……」
「ィコエット!」
私と秋恵は困惑、エルフちゃんはガッツポーズ。
エルフちゃんの突然の行動の意味が全く分からないけど、一つだけわかった。
異世界のエルフちゃんの文化ではガッツポーズの使い方がこの世界と同じみたい。




