26 ニート&……
あらすじ
ニートの山村志摩は偶然出会った異世界の騎士カタリナと短い間だが共に過ごし、剣と治癒魔法のスクロールと少しの経験値を入手。
カタリナは妹と再会するために一旦山村志摩と別れて女学園へ。
その後に異世界とこの世界、二つの世界が完全に一つになった。
「おっ、あったあった」
姉ちゃんにもらったフランス製の折りたたみナイフを上着のポケットに入れ、リュックに着替えを入れて毛布を括りつけた。
厚生労働省曰く、仕事や学校に行かず、家族以外の人との交流をほとんどせずに六ヶ月以上自宅にひきこもっている状態。
買い物とかでたまに外出しても引きこもりになるらしい。
なので私は引きこもりの定義に当てはまっている。
しかし今日から私は引きこもりをやめる。
「ふぅ……あとは……」
あのでっかい地震と空を飛ぶでっかい半透明のマンタを見てから一日が経過して世界はさらにおかしくなった。
ネットを見る限りでは、もうモンスターの存在を疑う人はいなくなって、異世界人と出会っている人もかなりいるみたいだった。
夜空を見上げれば月以外にもいくつかの惑星?が見えるようになっているし、本物か偽者かわからないけど大阪に城が生えたり群馬に巨大な穴が空いたり鳥取が砂漠化した写真がネットにアップされたし。
あの謎の惑星だか衛星だかは月より近くにあるみたいだけど特に影響はないみたい。
引力とか物理法則が色々とアレだな。
『あ”あ”あ”あ”あ”』
幽霊の人が常時見えるようになってしまった。
無害でもただそこに立ってるだけで嫌だからこの部屋にいない時間を作りたい。
しかし一番の問題は電気が来なくなっちゃったこと。
それがこの建物だけではないようで、夜に外を見ても人工の明かりらしきものはあまり見えなかった。
もちろんこの建物のこの階から見える範囲だけかもしれないけど、どっちにしろ食べ物がなくていつまでも留まってられなくなった。
留まってたって電気が来ないんじゃあネットも使えないしテレビも見れないしやる事ない。
正直何もしたくないけど餓死は比較的辛そうな死に方なので嫌だ。
「インクでねぇ……あっ出た」
姉ちゃんはここに寄るかもと言っていたから私が不在の間に来た時のために書置きをしておく。
東京にいる姉ちゃんは千葉へ行く前に私のいる神奈川に来るつもりなんだろうな。
世界がこんな状態じゃあ東京湾アクアラインが使えない可能性が高くて、船を使うのも危険だろうから千葉へ行くのは陸路。
それならまだ近いところにいる私を先に訪ねてから兄貴達の方へ向かうって感じかな。
しっかし久しぶりに文字を書いたけど汚いなぁ。
姉ちゃんがこれを読める気がしないわ。
「さて……どっこいしょ」
リュックを背負ってカーテンで刃を隠した剣を紙袋にいれて玄関を出る。
剣を持ち歩くのにはまだ抵抗があるけど、モンスターが出たらすぐに対処できるようにしないとヤバいし、人間だって怖い。
法や秩序があろうがなかろうが人間は怖いし嫌い。
「……いってきます」
『あ”あ”あ”あ”あ”』
「あんたに言ってない」
マンションを出ると人も車もモンスターも見当たらなかった。
人は家で隠れてるのか、私が知らないうちに避難所でも指定されたのか。
何にしても動くものがいなくてよかった。
そして私はずっとやってみたかった車道の真ん中を歩くというものをやってみる。
咎める者は誰もないし車も通らないから危険もない。
「道が広いなー」
つい独り言いっちゃうな、誰も聞いてないからいいけど。
しかし剣は思ったより重いもんだ。
カタリナが持ってた剣よりは小さいけど金属の塊なのには変わりないから当然か。
それでもステータスで筋力を上げたおかげなのか運動不足かつ荷物を持っているのに歩くのはそこまで辛くない。
「おっ、んん?」
少し歩いて一番近くのコンビニまで来たけど、コンビニで何かが動いているのが見えた。
様子を見て勝てそうなモンスターだったら戦ってみて、人間だったら逃げよう。
人間だとして相手が私よりステータスが高かったりしたら何されるかわからないってのもあるけど、そもそも人間相手に刃物を向けるのは多分無理。
人間が嫌いだからって殺せるわけじゃない。
無傷で済まず逃げることもできないようなモンスターでないことを祈り、倒せそうなら石を投げて剣を振り回しやすい外へ誘き寄せて戦う。
大丈夫、あっけなく死ぬ覚悟はできてる。
「ふぅ……ふぅ……よし」
紙袋から剣を取り出してカーテンを解き、忍び足でコンビニに近づく。
音をたてないようにゆっくりと店内を覗くと、そこにいたのは人だった。
しゃがんでるからわかりにくいけど小さい、おそらく子供が商品棚を漁ってる。
どうしよう。
食べ物は欲しいけど話してわかる相手なのかな。
いや、相手は子供だし話して駄目だったら最悪力ずくでもイケるかも。
「うん、よしっ……あ、あのーすみません」
「クァス?」
剣を紙袋に隠し、目線を合わせて声をかけるとその子は振り返った。
ただその子は普通の子供とは外見がかなり異なっていた。
特に耳が。
「え、エルフ?」
「ハッ!コニレ!」
「えっ?ちょっ?なになになに?」
エルフ?らしき子供に手を引かれてついて行くと、スタッフルームで人が倒れていた。
うつ伏せだから人相はわからないけど、肩から血を流して荒い呼吸をしているのはわかった。
「アゥイミルエセホミネ!」
私の袖を掴んで何度も引っ張りながら倒れた人を指差している。
何喋ってるのかわからないけど怪我をした人の所まで私を連れてきたということはこの人を助けてくれって意味かな、たぶん。
「どーしよ……」
偶然にも私が持ってる治癒魔法のスクロールを使えば助けられるかもしれないけど、わざわざ怪我を治せる貴重品を見ず知らずの他人に使うってのはちょっと。
[ヒーリング]って魔法がどれほどの怪我を治せるかわからないからスクロールを無駄使いする可能性もあるわけで。
「ヴィアセレ……」
「うっ、わかったよ……わかったからそんな目で見ないで……」
見返りがあるかわからないどころか、仇で返されるかもしれないって事も踏まえての人助けは初めてだ。
どうか大きな見返りがありますように。




